第2回 「あいさつ」ができる職場、できない職場~職場の相互理解と尊重の第一歩をどう踏み出すか~
人事制度・組織活性化

人的資本の充実は、自らが変わらないと解決できない課題であるが、自らが変わることと並行して、周囲の人たちも変わっていくことが必要である。そのために実践シナリオや実践ストーリーを考え、伝えていくこと(情報開示)により、周囲の人にも「自らが変わる」意義を理解してもらい、変わることで新しいものの見方・考え方を持つようにすることが重要になる。
「ISO30414」(社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン)では、指標とすべき人的資本項目が11分類58項目で構成されている。この項目をすべて開示するのではなく、自組織の経営戦略に照らし合わせた人材戦略として重要視すべき項目を絞り込んで開示することが現実的かつ有効である。
人的資本の情報開示は目的ではなく手段である。つまり、経営戦略実行のための実効性ある打ち手に注力することが人的資本を充実させる。そこで、人材戦略を実現するために、重視すべき人的資本を充実させるための「実践ストーリー」が必要になる。
その理由は、実践を通じて従業員・パートナーへの理解を促進し、行動を起こさせる(活動への巻き込み)ためである。加えて、投資家の判断材料として人的資本の充実の実践と経営戦略との連動を分かりやすく伝え、企業価値を高めるために実践ストーリーの明示が求められるからである。
では、実践ストーリーを描くためにはどうしたらよいか。描くための枠組みを下図に示す。
横軸は「成長促進」と「働きがい向上」の視点からの軸である。成長促進は経済的利益の獲得を、働きがい向上は非経済的な成果の獲得として位置づけている。
縦軸は「個人」と「チーム(集団)」の視点からの軸である。個人は経営層、次世代幹部、マネジメント、現場第一線メンバーなど、役割・期待に応じた人的資本の充実を目指し、チームは組織内のチームおよび組織内外のプロジェクトチームのような集団の人的資本の充実を目指していく。
図の4つの象限を実践ストーリーを検討する際のキャンバスと見立ててもらいたい。自組織の経営戦略と人材戦略の連動を意図した人的資本の充実を重点施策として位置づける。下記の象限で、重点となる実践項目と実践ストーリーを描くとよい。
第1象限:個人×働きがい向上=従業員・パートナーのエンゲージメント(貢献意欲)向上
第2象限:個人×成長促進=従業員・パートナーのエンパワーメント(効力感)向上
第3象限:チーム×成長促進=組織内・外チームのエンパワーメント(効力感)向上
第4象限:個人×働きがい向上=組織内・外チームのエンゲージメント(貢献意欲)向上
実践ストーリーを描く際は、経営者自身が期待を持てる、実現した姿にワクワクする、試してみたいと思える内容にこだわる必要がある。従業員の中には、過去の経験から経営の提示する方向性と実践との乖離を感じている。
とくに人的資本の充実の実践に関してそう感じている人もいるかもしれない。そうであれば経営者自身には、人的資本の充実に関して、過去を振り返り、現在を直視し、将来への目指す状態、期待を語ること、何よりも適応を要する課題の解決を体現することが求められるのである。
先を見通しにくい組織の将来を考えるうえで、「組織は人的資本に従う」という視点を持ち、人的資本を起点とした組織づくりの発想が有用である。
人材版伊藤レポートで議論されている、人材戦略に必要な5つの共通要素は以下のとおりである。
上記を実現する方策を検討する際に、人的資本という視点で現実を直視することから始めてほしい。
など、自組織は人的資本の何をどう充実させたいのかという問いを経営者が持つことが重要である。
経営者は自組織の人的資本について、
を再度整理する必要がある。
たとえば、組織内のメンバー、共同で事業を展開しているパートナーについて整理してみる。さらに外部の有識者などを活用して経営者自らリスキリング(reskilling)する。こうした行為は人的資本の充実をさらに促進させるはずだ。経営としての重要な役割は、人的資本は心底大切な経営資本であることを組織内・外に発信し、自組織の価値を正当に評価される状況をつくることである。
日本企業の持続的な価値向上に人的資本の充実は不可欠である。人的資本の充実では総論賛成にとどめずに、各論の実践を経営自らが先導すべきだ。企業価値をさらに高めるチャンスを逃さないためにも、迷わず踏み出してもらいたい。
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