第19回 急加速する脱炭素への道 (2)~SBTレベルの目標をどのように達成するか~
今こそ環境経営の推進を

前回、ESG投資(企業の環境・社会・ガバナンスの側面も考慮する投資のこと)が急増していることを書きました。その直後の7月、これに関して大きなニュースが報じられました。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株の3つのESG指数を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始したというのです。つまり日本企業のESGの評価指数を明確にし、その基準をクリアする日本企業を束ねて、それらの銘柄(企業)の株価に連動する投資信託(インデックスファンド)に投資を行うということです。
選定したESG指数に基づくパッシブ運用については、当初は国内株全体の3%程度、約1兆円で運用を開始し、中長期的に投資の効果を確認しながら、将来的には他のESG指数の活用やアクティブ運用など含めてESG投資を拡大していくとのことです。
これは上場企業にとっては大きなニュースでしょう。この銘柄に自社が組み込まれているのか? どの程度の組み入れ比率になっているのか? など関心は高いはずですね。
今回GPIFが公募を通して選定した指標は、以下の3つです。
前者の2つは統合型といい、環境・社会・ガバナンスの3側面を統合して評価をしています。
では、具体的にどのような基準で企業は選定されているのでしょうか? ここではMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数について見てみましょう。
MSCIは、世界の機関投資家に対して投資の意思決定をサポートするさまざまなツールを提供するリーディング・カンパニーです。MSCIのESGリサーチは、世界6,000社超の企業の環境・社会・ガバナンスに関する深い調査を公開情報をもとに行い、格付けや分析を提供しています。その商品は機関投資家や資産運用会社が投資プロセスにESG要素を統合するために使用されています。
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数は、MSCIジャパンIMIトップ500指数ベースとして、環境・社会・ガバナンスに優れた企業を選定したものです。MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数に新規に採用されるためにはMSCIのESG格付けがBB以上で、採用され続けるにはB以上の評価が必要です。
では、MSCIのESG格付けとはどのような基準になっているのでしょうか。「MSCI ESG Ratingメソドロジーサマリー」をもとにポイントをまとめてみます。
環境・社会・ガバナンスに伴うリスクや機会の大きさは、世の中のトレンドとその企業の事業オペレーションによります。
ESG要因から甚大なコストが発生すると懸念される場合(現在使用している化学物質が禁止された場合、化学物質原材料の見直しによるコストアップとなるなど)、それは重要なリスクになります。また、たとえば化石燃料削減のトレンドが事業拡大に資する場合(LED照明などのクリーン・テクノロジーを保有するなど)、それは市場機会となります。
それは一般的に産業種によって違いがあり、同一業種では程度の差はあれ同様のリスクや機会を持っていると言えます。
MSCIのESG格付けでは、各産業種において重要であると認識されるESG課題をKey Issueとして特定し、これについて評価しています。
全体的なKey Issueは以下のように37設定しています(下表)。
業種ごとにはこれらのうち6〜10のKey Issueが選定され、それらについて評価・格付けが行われます。コーポレート・ガバナンスは全企業に共通するKey Issueとなります。
企業のKey Issueにおける取組みは、企業が公開するさまざまな情報とNGOや大学研究機関などが公表する情報に基づいて分析・評価を行っています。
企業がESGリスクを適切に管理できているかは、
の2軸によって評価されます。
リスクへ晒される度合いは、事業ポートフォリオのセグメント情報とマーケット地域別売上高割合もしくは資産割合を組み合わせて、MSCIが公的研究機関などの提供する情報に基づき算出したESGリスク値を乗じて算出されます。一方、リスク管理能力については、企業が持つ事業戦略や計画とその取組み度合いから算定されます。
リスクに晒される度合いもリスク管理能力も10段階で点数化されます。さらに業種ごとにKey Issueにウェイト付けをして(たとえばIT業界ではプライバシー&データ・セキュリティのウェイトが高く、鉱山産業では安全衛生スコアのウェイトが高い、など)を各企業の評価点が算定されます。
格付けに至る過程で、加重平均Key Issue・スコアは産業ごとに標準化され、0-10の最終スコアになります。それを最終的にAAAのベストからCCCのワーストまでの7段階に格付けするのです。
詳細はMSCIのホームページを参照してください。
自社の事業に関する「リスク及び機会」を明確化することが求められる中、MSCIのKey Issueの捉え方はとても参考になると思います。
SX&パブリック事業本部
シニア・コンサルタント
1991年 JMAC入社。生産、開発部門のコンサルティングを経て、15年ほど前から環境分野を中心としたコンサルティングに従事。主要テーマは、環境 経営戦略立案、環境マネジメントシステム(ISO14001)の高度化、LCAを活用した環境負荷の定量化と削減、省エネルギー推進(エネルギー生産 性)、資源生産性向上支援など。環境を入り口として、開発、購買、生産、物流、マーケティングなどのさまざまな機能の生産性向上につなげる支援を志向して いる。
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