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第13回 ISO14001:2015の活かし方 〜ESG投資が急増している背景〜

山田 朗

 2017年5月17日、「サステナビリティ:ISO14001:2015の戦略的活用法 --事業と環境の一体化戦略のすすめ方」と題したセミナーを実施しました。当日は「満員御礼」の状態となり、あらためてこの分野のニーズが大きいことを実感しました。事業と環境の一体化などを考える場合には、世の中の動きを認識することが始まりです。ISO14001:2015で言えば「箇条4.組織の状況」の部分ですね。

 このセミナーでも、まず世の中の動向の共有化を行いました。大きな動きとして、パリ協定、ESG投資、SDGsなどを紹介しました。パリ協定、SDGsなどは以前このコラムでも触れましたので、今回はESG投資に関する動向について書きたいと思います(ESG投資とは、企業の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の側面も考慮する投資のことです)。

急増するESG投資 将来の社会問題への対応力を評価

 企業の行動を変える要因は多々あります。たとえば法規制。これにより、企業にはさまざまな義務が課せられ、それに対応する行動に変える必要が出てきます。そして、顧客。顧客からの要請はとても大きな行動変化の要因になりますよね。顧客のグリーン調達基準に基づいた化学物質管理の徹底を求められたり、部品メーカーなどではISO14001の認証取得の背景に顧客からの要請があったりします。

 一方、近年ではとくにグローバルに事業を展開する大手企業において、株主(機関投資家)の存在がどんどん強くなっており、機関投資家の意向により環境や社会的な取組みにおける企業行動にも変化が見られます。機関投資家のミッションは投資による安定したリターンを得ることです。それなのに、なぜ投資先企業の環境や社会などへの貢献を評価するのでしょうか?

 そこにはまず、激化する気候変動、貧富の差、難民、テロなど社会問題の深刻化により、将来の安定的なリターンを予測するには従来の財務諸表という過去の情報だけでは不十分との認識があります。自ずと環境や社会の変化への対応など非財務情報の重要性が高まってきたのです。すなわち、社会問題に対してどのように戦略的に取り組み、持続的な企業価値の向上を図っているかということに関心が高まってきているわけです。

 そうした背景からESG投資が拡大しています。世界のESG投資市場規模は2014年末時点で23兆ドル(2500兆円)にも上り、プロの運用者による運用資金の約3割にもなっています。この分野で遅れていた日本でもESG投資は、2014年1兆円、2015年27兆円、2016年57兆円と急増しています。

国連責任投資原則(PRI)がESG投資を後押し

 従来からSRI(社会的責任投資)というものはありましたが、そこから一皮向けてEGS投資が急速に拡大したのは、国連責任投資原則(PRI)という国連主導のプラットフォームの存在があったからです。

 2016年6月時点では1531機関がPRIに同意する署名を行っています。署名した投資機関は、投資する際に企業のESGへの取組み状況を考慮したり、取組みそのものを働きかけたりして、毎年その活動状況を開示することが求められます。日本のESG投資が2015年から急激に増加したのも、2015年9月に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という世界最大の投資機関がPRIに署名をしたからです。

 この様にPRIや他のいくつかの機関投資家や金融業向けの行動規範が制定され、それに賛同する機関投資家が拡大しています(下図)。

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エンゲージメントが企業を動かす

 PRIに署名した機関投資家は、投資先企業に対してESGに関する情報開示やESGに対する企業の行動を促す直接的な対話を行っています。これをエンゲージメントと言います。

 たとえば、ロイヤル・ダッチ・シェルは当初気温上昇2℃政策は達成の可能性なしと表明していましたが、1年半にわたるエンゲージメントによって気候変動に関する情報開示の株主決議を支持し、2℃目標を支持するに至りました。また、AppleやFacebookなど世界の巨大企業が長期的に事業活動に関わるエネルギーをすべて再生可能エネルギーに転換し、二酸化炭素排出ゼロを目指す宣言を行っています。こうした行動を促している背景に投資機関のエンゲージメントが一役買っていると言われています。

 「しかしそれはグローバル展開している大企業が対象であり、われわれには関係ない」と考えている企業の方も多いと思います。確かに現在はまだそのとおりかと思います。しかし、運用資産100兆ドルにもおよぶ機関投資家の声を反映し、企業に気候変動に関する戦略の情報公開を求めるイニシアチブであるCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)が、個社の気候変動アンケートのみならず、サプライチェーンの気候変動における取組みを調査し公開するようになりました。今後サプライチェーンに位置する部品メーカーなどにも影響が出てくる可能性があります。かつてISO14001の認証取得が顧客からの要請で大きく促進されたように。

 今まさに、気候変動によるリスクやSDGsなどの機会をうまく捉えた事業戦略の立案が求められています。それがISO14001:2015の要求事項である「内外の課題」「利害関係者のニーズ」から「リスク及び機会」の本筋に流れになる企業も多いでしょう。

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