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第12回 ISO14001:2015の活かし方 〜CSRからCSVへの展開〜

山田 朗

 前回は、事業とEMSの一体化や戦略的なEMSの活用について、SDGs(持続可能な開発目標)などを参照して検討することを推奨しました。「環境マネジメントシステム」から「環境・社会マネジメントシステム」への転換でしたね。

 この「環境・社会」という言葉には、環境のみならず事業展開に活用できるのであれば、社会課題も取組みの範疇に入れ込んでしまおうという考え方を含んでいます。

 ここで問題になるのがCSR活動との関連です。多くの企業では環境単独での活動よりも、もっと広くCSRの活動を行っていて、その中で環境は一つの重要な柱として位置づけている場合が多いでしょう。しかし、「環境・社会」を単にCSR(企業の社会的責任)と捉えるとちょっと違う方向になってしまうと思います。

CSR活動の中でISO14001として活用すべき対象

 ここではまずCSRの概要を確認し、ISO14001で活用すべき領域を把握しておきましょう。

 CSRに関する国際的フレームワーク(規格)には、

  • GRI(Global Reporting Initiative)
  • ISO26000
  • UNGC(国連Global Compact)
  • OECDガイドライン

などがあります。

 日本ではISO26000が多く活用されていますが、国際的にはGRIが圧倒的な地位を築いています。

 GRIは、サステナビリティに関する国際基準の策定を使命とする非営利団体です。UNEP(国連環境計画)の公認団体として、国際基準「サステナビリティ・レポーティング・ガイドライン」を策定しています。そのガイドラインでは、「経済」「環境」「社会」のトリプルボトムラインの考えのもと、それぞれを詳細な基準に展開して企業が取り組み、情報開示すべき項目を明確にしています。企業のサステナビリティ(持続可能性)を考える場合にとても役立ちますね。

 いずれにせよ、CSRの活動領域は広くあります。大きく区分すると、人権・労働・コンプライアンスなど社内向けのリスク回避の領域、フィランソロピー・メセナ・寄付・ボランティア活動など事業とは離れた社会貢献の領域、そして自社の製品・サービスを活用して社会課題を解決すると同時に事業拡大を図る事業発展の領域です(下図)。

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 そして、ISO14001で活用すべきCSRの領域は、言うまでもなく事業発展型CSRの領域になります。この領域に力を注ぎ、事業と一体化を図ることがISO14001で求めていることの一つの答えになります。

CSRからCSVへ

 こうした考え方をより推し進めたものがCSV(Creating Shared value:共有価値の創造)です。この考え方に基づいて事業戦略を進めている先進企業はいくつもありますので、ご存知の方も多いと思います。これはハーバード大学のマイケル E・ボーター教授らが提唱する企業の競争力を高める経営モデルです。日本でも2011年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌にその論文が掲載され、多くの企業でその考え方が活用されています。

 社会課題解決という大義を明確にし、その実現のために新たな製品・サービスを提供し、NGOや政府機関と協力して新たな社会ルール(秩序)をつくり上げることで圧倒的な競争優位に立つという考え方です。そのためには、「次世代の製品・サービスの創造」「バリューチェーン全体の生産性向上」「地域クラスターの構築」がキーになるといいます。

 これらの方向に向けて、自社ではどんなことに取り組んだらよいのでしょうか?

 前述のGRIではその取り組むべき課題を「マテリアリティ(Materiality:重要性)」と呼びます。この「マテリアリティ」を明確にし、優先順位を付けることが重要であり、それが事業戦略に直結します。ISO14001:2015に置き換えると「マテリアリティ」が取組むべき「リスク及び機会」そのものになりますね。

 マテリアリティの決め方はステークホルダーとしての重要性(つまり社会的に求められていることの観点)と事業としての重要性(つまり事業拡大や利益確保など観点)の二軸で評価するということが基本になります。この評価方法は戦略そのものなので、当然業種や企業に合わせて個別にその味付けを検討していくことになります。こうすることでISO14001:2015でいう、内部/外部の課題やステークホルダーのニーズを踏まえた「リスク及び機会への取組み」のプロセスが自動的に構築できるわけです。

 こうした取組みは、環境やCSR部門だけでは進みません。事業部が主体となり戦略を立案する活動なので、事業部の巻き込みが必須です。社内を動かすために、われわれコンサルタントが呼ばれる場面も多々ありますね。

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