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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

第4回 製造業のサービス化として目指す方向を考える

渡邉 聡

 製造業のサービス化を考えるにあたり、これまでのモノ+サービスの考え方やサービスマネジメントについて振り返ってきました。そこを踏まえ、製造業のサービス化とは何かを考えていくこととします。

 第1回で、製造業のサービス化を次のように述べました。

『製造業が従来のように「モノを製造・提供して、それを消費した顧客から対価を得る」という考え方から「価値は顧客が経験したときに生まれるものであり、そのためにモノに加え何かしらのサービス的要素を含めて提供し、顧客と共に価値創りを行う」という考え方にシフトすること』

 では、製造業がサービス化する、そのメリットとは何でしょうか。

製造業がサービス化する目的とメリット

 目的は、「自社の提供する製品・サービスの付加価値を高め、競合と比べて差別化を図り、収益を高めること」にあります。サービス化によって、顧客の経験に対して、これまでは一部しか価値提供できていなかったところを、全体をコーディネートすることで付加価値を高めることができると考えられます。

 主なメリットとしては、以下のことがあげられます。

  • 顧客の経験全体を製品(モノ)のみでコーディネートしようとするのに対して、サービスを組み合わせて対応した方が経験価値を広く提供できる
  • 顧客の経験全体を製品(モノ)のみでコーディネートしようとするのに対して、サービスを組み合わせて対応した方がトータルでの発生コストが安くすむ
  • 顧客および用途が増えることで、収益源が増える
  • 顧客との共創の場を持つことで、これまで把握できていなかった顧客の経験の場を認識することができ、売り先が増える
  • 顧客との共創の場を持つことで、自社製品のさらなる改善余地などを認識し、開発にフィードバックすることができる

製造業のサービス化パターン

 製造業のサービス化の主なパターンとしては、下図のようなものが考えられます。大きくは「モノを起点としたサービス化」と「製造業からサービス業へビジネスモデルチェンジ」の2つの方向性です。今回はまず、モノを起点としたサービス化の方向性について考えたいと思います。

製造業のサービス化の主なパターンは、「モノを起点としたサービス化」と「製造業からサービス業へビジネスモデルチェンジ」の2つ

①モノが新しい体験を生む

 これまでにない価値を持った製品であれば、モノそのものが新しい体験を生みだします。たとえば、すでに私たちが体験しつつあるのはロボットではないでしょうか?家事や介護をサポートするものや私たちとコミュニケーションをとるものなどが私たちの生活にも入ってきています。

 今後、私たちにさまざまな新しい体験をもたらすであろうことは、想像に難くありません。

②モノ+ユーザーによる使いこなし度を高めるサービス

 多機能な製品や専門性が高い製品など、ユーザーが使いこなせるサービスを組み合わせることで顧客の体験価値を広げたり、サービス提供の場面から新たな価値共創につなげたりするチャンスが生まれます。

 前回お話ししたテルモ社の事例はこの一例だと言えます。パソコンやスマートフォンに対する使いこなし術の提供も同じ考え方です。

③モノ+ユーザー利活用度を高める積極的支援

 ②と近い部分もありますが、メーカーが製品利用や活用度合いを高める支援を行うことが考えられます。たとえば、カメラメーカーが写真愛好家向けのコンテストや展示会を開催したり、食品メーカーがファンサイトを立ち上げ、新しい食べ方などの情報交換や交流をサポートしたりするといったことが見られます。やはりこれらが新しい体験価値の創出につながり、メーカーとしては新しい価値共創のチャンスを得ることにつながります。

交換価値オンリーからの脱却を目指す

 製品を提供して対価を得るといった交換価値だけのビジネスモデルでは、差別化や競争力強化、収益性の向上は難しくなるのではないかとお話ししてきました。しかし、今後お話ししていくような、いわゆるサービス業的なビジネスモデルにすぐに変わっていくことは現実的にはなかなか難しいと考えます。

 従来のモノ+サービスにおけるサービスの中心は保証サービス、メンテナンスサービス、問い合わせ対応といった製品に付随した考え方でした。しかし、それもサービスです。まずは、もう少しサービスの考え方を拡大し、使いこなしや利活用に関わることで顧客の利用価値・体験価値を高め、その中から次の開発につながる価値共創を目指してはどうでしょうか。

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