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JMAC品質経営研究所だより Vol.17
品質保証においてISO認証取得は顧客への大きな説明材料

  • 生産・ものづくり

宗 裕二

即刻はじまったボランティア受付に感銘!

 分と昔の話になるが、阪神大震災が発生した時、私はイギリスのスコットランドにいた。朝起きてホテルのロビーへ行くと朝のニュースをテレビが報じていた。かつてアメリカロサンジェルスで発生した大地震のニュースと共に、その後の復興の様子を報道しており、「完全な復興までには多くの時間を要する」というような内容だったと思う。

 「どうしてこのような放送を朝のニュースで・・・?」と、hinshistu3.jpg訝っていると「ところで、神戸は・・」と衝撃的な映像が映し出され、何が何だか直ぐには理解できなかった。映像が暫く映し出されて後に、支援金の受付とボランティア活動の受付についての連絡先が表示された。当時の私の常識の中には「ボランティア活動」という概念や発想が乏しく、即刻受付がはじまっていることに、とても感銘を受けたことを記憶している。

根本的に思想が異なるイギリスの品質管理

 がイギリスにいたのは、日本能率協会でISOの審査登録センターを立ち上げるにあたり、グループ各社を代表して集まったメンバーの末席で、既にISO9001の導入普及の先端なあったイギリスにおける審査機関や審査の現場で実務を勉強するためであった。

 イギリスのある企業にお邪魔して内部監査の様子を拝見し、ディスカッションさせていただいて驚いたのは、お邪魔した企業の内部監査員は独立した専門職であり、毎日のように内部監査を実施していることであった。 日本の品質管理の基本的考え方は「品質は工程で作り込む」ものであり、内部監査は年に1~2回も実施すれば良いことだと思われていた。しかしイギリスでは、検査を担当しているワーカーが正しい検査をしているかどうかを内部監査でしっかり毎日のように確認しているという。

 日本の品質管理の考え方とは根本的な思想が異なると感じた私は、ISOの導入は日本には合わないのではないかと思ったものだ。日本には品質保証体系やQC工程表などのマネジメントツールによる優れた管理がなされていると思っていたので、「本当に品質の良いものを作るには、検査の正しさを確認してもダメなのだが‥」と、思いながら、「性善説と性悪説の違いだろうか?」などと考えていたことを覚えている。

 しかし、品質保証と言う観点からは、やはり必要なことなのだと、後から気づくことになる。企業主体でより良い品質を確実に作りだすことは品質管理の一つの目的であり重要な事であることは変わりないが、顧客主体で良い品質であることを安心して受けとめてもらうためには、品質保証という観点から、顧客へ説明する必要があるからだ。ISOの認証取得はそのための大きな説明材料になるのである。

 当然のことながら、ルールがあってもその通りに実務が運用されてないのであれば、ISOを導入する意味は全く無いと言っても過言ではないし、そもそもコンプライアンス違反である。

審査員は事実を的確に教えてくれるコンサルタントのような存在

 査機関が行う第三者審査に対する考え方も日本の感覚とは異なると思う。数ある審査機関の中から、どの審査機関に審査を依頼するかを決めるのは被審査側である企業の社長である。社長は自社にメリットがあると考えられる審査機関を選ぶ。審査当日、審査員は社長を一番に訪ね、どのような審査をすべきか打ち合わせをし、社長の意向に沿った審査を実施する。あくまで、社長の代わりに現場審査をするのであって、会社の役に立つ情報を第三者の立場とから、経営者である社長に届けることが重要な仕事であるという認識だ。

 不適合事項を発見しても、まず社長に報告し、正式に発効すべきかどうかを議論してから報告書を作成する。審査員の厳格すぎる規格解釈や枝葉末節過ぎる指摘などが、自社の為にならないと思ったら、社長は審査員をクビにするし、時には審査機関そのものを変えてしまう。

 hinshistu2.jpg企業にとって外部から来る審査員は、改善の方向性は示さないが事実を的確に教えてくれるコンサルタントのような存在として活用しているのである。鑑定業と言う業界が成立しているイギリスだからこその常識的な考え方なのかも知れない。企業から選ばれなくなった審査登録機関は自然消滅し、良い審査登録機関だけが生き残ることを前提とした業界運営になっているようだし、これはジュネーブにあるISO本部も意図することでもあると当時の国際標準化機構のISO9001責任者が教えてくれた。

 従って、不適合の発行も、審査側、企業側の双方の合意がない限り発行できない仕組みである。こうした仕組みは日本でも共通のものであり、同様の運用がなされなければおかしいのだが、企業主体の審査が行われていると言えるかどうか、振り返る必要があるかも知れない。

 私事で恐縮だが、審査登録センターの初代審査員を暫く務めた後、さっさとコンサルティング部隊に戻ってしまった。アドバイスをしてはならない審査員のルールにはなじめなかったのかもしれない。その後、ISO導入を希望する企業の支援を行うこともあった。日本の将来的なISO導入の姿の為に、審査登録機関に対して大いにモノを言う審査の被審査をご支援していた当時は、審査機関から大変嫌がられたものである。

企業にとって有益なISO運営こそ重要

 SOの導入は、企業における「品質保証」の最も重要な要素である「顧客への説明責任」を果たすための直接的な好材料であろう。当然のことながら、ISOの仕組みとして定めた品質上のルールは、全ての適応範囲内で遵守されていることが大前提となっている。だからこそ、第三者審査としての中立性を持った「取得済み」の一言で顧客は「安心」していただけるのである。審査登録機関側は、認証を与えることが目的の審査であってはならないし、審査を受ける企業側も、何のためのISO導入なのか、何のために審査を受けているのか改めて考え、企業にとって有益なISO運営でなければならないと、改めて思う。

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