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JMAC品質経営研究所だより Vol.6
コンパクトな製造工程を構築する

  • 生産・ものづくり

宗 裕二

瞬間加工の実現にむけて、今この時期を有効に活用しよう

今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行し、製造業にも計り知れない影響を及ぼしています。前回、アフターコロナの時代を迎え、モノづくり現場において、製造技術の付加価値を再評価し、仕事の可視化・リスト化することの重要性についてお話しましたが、今回は「コンパクトな製造工程を作るときの考え方」について、お話したいと思います。

想的なコンパクト製造工程の究極の姿が瞬間加工であることは既に過去のトピックスでお話しました。ただし、この瞬間加工システムを完全に構築することは、技術的、スペース上の課題などが多くあり、現実的なコストを勘案すると難しい面も多くあるのも事実です。しかし、理想的な工程を構築する上で、「どのような方向性をもって考えていけばよいか」という思考上のガイドラインとして活用するだけでも十分といえるでしょう。

私も常に、この理想的な究極のシステムを頭に思い浮かべながら現場を見せていただきます。そうすることにより、多くの課題を発見できるからです。さらに、その課題解決についても提言できなければ、課題発見の意味がないと感じています。

製品の加工には先行作業という要素があります。これは、その作業を終えていないと次の作業に移れない作業のことを指します。例えば、ある製品の加工面を綺麗に切削してからでないと同じ面に穴を開けることができない作業を例に挙げましょう。基本要素の間にこのような先行関係があると、「平行生産方式」や「同時生産方式」は成り立ちません。従って、こうした制約条件を外すか、前提として置くことで、何とかこの「瞬間加工生産方式」へ近づけられないかと考えていくことで、"相当コンパクトで高効率の生産スタイル"に近づけるのではないかと考えるわけです。

念ながらこの「瞬間加工生産方式」を完全に実現されている企業とはまだ出会っておりません。しかし、部分的に実現しており、とても効率的なモノづくりを実践しておられる企業は存在します。もちろん各社異なる考え方やポリシーがありますし、最優先事項もあるでしょう。現場を知れば知るほど制約条件も見えてきて、できないことの理由が次から次へと浮かんでくることもよく分かります。私自身、経験を深めれば深めるほど、可能性が小さく思えてきます。しかし、できない理由に同調してしまっては仕事になりませんので、「日本の先端4畳半工場」を夢見て切磋琢磨しているところです。今、ソーシャルディスタンスを要求され、通常の仕事から少し距離を取れるこの瞬間をチャンスと捉え、少し冷静に検討するよい機会かもしれません。

多くの企業が、量産することによって製品1個当たりのコストを低く抑え、多く販売することで利益を得る方向性をもっていることと思います。そのために、製品1個当たりの生産速度も相当速いものになっています。色々な製品を製造する様々な生産工程がありますが、生産速度については共通の考え方ではないでしょうか。コンパクトな工程を作り出す目的は、大きなコストダウンが期待できることはもちろんですが、今回のCOVID-19により、人の行き来や流通が阻害される中、その解決策の一つとして 「地産地消」を実現するためにも不可欠です。製造業の地産は少々ハードルが高いですが、地消は可能性が高いと思います。その時の生産量は地域市場に合わせたものとなり、少量生産になることでしょう。小さな市場の消費量に合わせた生産量を作り出す、コンパクトな製造工程を作る思考が必要であり、一様に速いスピードを求めているのではないでしょうか。

vol6-1.jpeg例えば、「静かで清潔でコンパクトなマスク工場」が、病院の一角にあってもよいと思うのです。簡単に稼働できるシステムであれば、病院のスタッフによって運営することも可能かもしれません。病院のオリジナルロゴ入りで、地域の薬局に卸してもよいでしょう。勿論、薬事法などをクリアーしなければなりませんが、不可能なことではありません。「使うところで作る」小さな工場を実現させたいと個人的には考えます。

また、今回は、モノづくりの現場を想定して話を進めましたが、前述の「生産スタイル」を「ビジネスモデル」と読み替えてもその考え方は通用すると思います。さらに、「自社の製品」は、「自社の提供するサービス」と読み替えても、全てではありませんが、役立てることが多いのではないでしょうか。

今の仕事を始めた若かりし頃、先輩たちの仕事内容を見て、「100年も前に確立された方法論を使って、なんで今仕事になっているのだろうか?」と、生意気に考えていた頃がありました。私にとっては本当に素直で素朴な疑問でした。しかし、自分自身その現場で仕事をし、当たり前の正しい理論を実務で実現することがいかに難しいことかを知り、同時に、当たり前の考え方を見失うことなく、成果が得られるまで仕事としてやり通すことの大切さを学びました。
 今リモートワクークなどの制約のある条件下で、思うように仕事ができない中、異なる角度で仕事を見直し「楽しむ時間」として過ごしていただく一助になれば幸いです。

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