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オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット

  • マーケティング・営業

渡邉 聡

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 コロナ禍でオンラインサービスは急速に発展した。それらは、リアル体験の代替にとどまるのか、もしくは新たなCX(Customer Experience=顧客体験、顧客体験価値)をもたらしているのか、現在はその過渡期にあると言える。

 このコラムでは、いくつかのオンラインサービスを体験して見えてきた「オンラインサービスの今後」を考えてみたい。

オンラインサービス体験記

 ここでは実際に筆者が体験した5つのオンラインサービスについて、その特徴や感じたことについて紹介する。

① オンライン旅行

 これは海外の観光地を現地のガイドが撮影しながら案内してくれるというサービスである。リアルの旅行だとあちこち見て散漫になってしまうが、オンラインではガイドが撮影している範囲内の映像と解説に集中することができる。これにより細部にも目が行き届き、これまでになかった発見もある。さらに、ガイドに質問もできるため、体験がより深まるのだ。いわゆる「虫の目で観光ができる」ことがオンライン旅行の特徴である。

 リアル旅行よりもオンラインの方がガイドと自分の一体感があり、ガイドの知り合いとの日常会話など、自分事のように感じることができ、楽しめた。全体として、自分がリアルに旅行をするよりも、現地を深く知る体験ができると感じた。

②オンライン結婚式

 コロナ禍で感染リスクを抑えて開催できる形式として、注目を集めるオンライン結婚式。筆者も友人のオンライン結婚式に参加した。初めてということもあり、ご祝儀や服装(結局顔出しはなかった)は迷ったが、参加そのものは事前に案内されたサイトに接続するだけのため、煩わしさはなかった。

 リアル結婚式に参列していると自分の席からしか見ることができないが、オンラインであればいろいろな角度から映像を見ることができる。例えば、誓いの言葉で緊張している様子や、新郎新婦の笑顔をはっきり見ることができたことは新鮮だった。さらに、あとからアーカイブ配信で気になった部分をもう一度楽しめるのもよい。その上、どこからでも気軽に参加できるという魅力もある。

 オンライン開催によるメリットも多いため、コロナ収束後もリアル&オンラインといった形式が残るのではないかと考えられる。

 オンライン謎解きゲーム

 リアル同様に、オンラインでも脱出や宝探しなど、さまざまな内容の謎解きゲームがあったので、いくつか体験してみた。

 オンラインでのプレイ方法は、それほど難しくないものもあれば、煩わしいものもあった。オンラインゲームながらも、マップを使ってリアルに存在する場所を巡りながら謎を解いていくタイプのゲームでは、オンラインとリアルの融合という新しい体験ができた。

 しかし、友達など複数人で参加する場合、脱出ゲームの内容によって体験に差があった。あるゲームは、一緒に参加する人と別の場所で離れてやると、一人で謎解きをしているような感覚になり、意味があまりないという印象をもった。一方で、別のゲームはオンラインであっても、リアルタイムに仲間と協力しないと謎が解けない構成になっているので、離れていても二人で一緒に楽しむという体験ができた。

 ゲームの内容を選ぶことで、一人で楽しむことはもちろん、複数人であっても同時に遊ぶことが可能であった。

④ オンラインショールーム

 指輪を購入するにあたって、オンラインショールームを体験した。 オンラインショールームでは、実際に画面の中で店員が実物の指輪を装着し、装着感や見え方などを伝えてくれた。また、こちらの意向を確認しながら、いろいろな指輪を手元専用のカメラで紹介・提案してくれることもあった。

 自分の手に装着して感触を確かめたり、細かな色などを確認することは難しいが、リアルよりもちょっとした質問や相談などはしやすいと感じた。 また、場所を問わずに気軽にどこからでも参加できるので、「どんな指輪にするか決まっていない」とか「いろいろ検討している」、「ちょっとだけ話を聞いてみたい」などと悩んでいる検討段階の人にとっても、オンラインショールームならば利用しやすい。

 もちろん、後日実際に店舗で商品を確認することも可能である。オンラインで下見をすることで、オンライン→リアル店舗という流れも作りやすく、それにも価値があると感じた。

オンラインレクチャー

 筆者はオンラインレクチャーの中から「麺打ち教室」を体験した。この教室は、申し込むと材料が自宅に届き、動画を視聴しながら麺を作るというものである。申込みの数日後には、自宅に粉とつゆが届き、メールで動画の視聴URLが送られてきた。

 しかし麺作りに必要なめん棒や計量器、大きめのビニール袋などは持ち合わせていなかったため、買い足す必要があった。材料が家に届く便利さがある一方で、必要な道具を自前で用意するのはややハードルが高いように感じた。

 そして、最も気になったことは、あまり特別感がなかったことである。例えば、銘産地を訪れ、現地での麺作りをリアル体験するのであれば、せっかくだからやってみよう!と思えるが、オンライン動画を見ながら自宅で手間暇かけて作る価値が、今一つ感じられなかった。

 日常的にこのサービスを利用するのは気乗りがしないが、ホームパーティで参加者に振る舞う、もしくは一緒に体験するといった、特別感を出したいシーンには向いているように思える。

オンラインサービス体験から見えてきたこと

 これらの体験を通じて分かったことは以下のようなことであった。

・オンラインサービス“ならでは”の体験がある
 単なるリアルの代替ではなく、オンラインならではの体験を生み出せるということがわかった。例えば、旅行におけるミクロな発見、結婚式における新郎新婦の笑顔の共有、離れた場所にいる友達との共通体験、効率的で相談しやすい環境での品定めといった体験だ。これらは、これまでのリアルな方法では体験しづらかったことである。

・リアル+オンラインの相乗効果が期待できる
 オンライン旅行をきっかけとして実際にその土地に行く、オンラインショールームを経てリアル店舗に行くといった行動が期待できる。逆に、リアルな訪問者に後日オンラインサービスで「麺打ち」体験を提供するといったパターンも、よい体験になると感じた。またリアルとオンラインを併用することにより、オンラインゲーム体験のように、離れた場所の人でもその場にいるかのような感覚で参加できるといったメリットもあった。

・オンラインの煩わしさもある
 ゲームのオペレーションの煩雑さ、麺打ち教室の備品不足といった煩わしさもあったのは残念な体験であった。オンライン旅行では、通信状態が悪いタイミングを別のスタッフのトークでつなぐなどの工夫も見られた。リピーターを獲得するためにはこのあたりは重要だと考えられる。

オンラインサービス成功のポイント

今回の体験を踏まえ、オンラインサービス成功のポイントを以下のように考える。

・オンラインならではの体験価値づくり
 リアルの代替としての体験だけでは価値が不十分である。「リアルではできなかったがオンラインではできること」をいかに作り込んでいくかがポイントとなる。

・リアルとオンラインの相乗効果を狙う
 リアルとオンライン双方のチャネルを持っている、あるいは今後導入するのであれば、その相乗効果を狙うことが経営上重要である。しかし、そのポイントはあくまで、よいCXがその顧客行動を引き出すという考え方でなければならない。そうでなければ、単にチャネルを増やしてコスト増になるだけである。

・カスタマージャーニーを明確にする
上記2点、あるいは体験から見えた“煩わしさ”の解消など、これらを解決するためのカスタマージャーニーを明確にすることが重要である。 申込み~体験、さらには体験後までの流れの中で、どのような体験をしてもらいたいのかを設計する。具体的には、どのような行動をしてもらいたいのか、感情を持ってもらいたいのかといったことを作り込んでいく。登場人物も体験者本人だけでなく、共同参加者(ゲームのパートナーや結婚式の参列者など)についてもデザインする。

 ここまで、オンラインサービスの実体験を元に、所感を述べてきた。現状、過渡期にあると考えられるオンラインサービス。成長するか、衰退するかは、CXをいかに作り込むか。その一点にかかっている。

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