「サステナビリティ2026問題」が突きつける、日本企業のSXと企業文化変革 ~第3回サステナビリティ経営課題実態調査を踏まえて~
SX/サステナビリティ経営推進


2025年は、米国を中心としたESGへの反発が注目され、サステナビリティ経営の行方に不透明さを感じた方も多かったのではないだろうか。しかし、SBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の認定企業数は増加の一途をたどっており、ビジネスの現場における脱炭素化の動きは止まっていない。
専門家の間では、2026年は「揺り戻しの揺り戻し」が起き、サステナビリティが再び経営の核心的テーマとして力強く回帰する年になると予測されている。来るべき2026年、日本企業はかつてない「制度の波」と「現場の壁」という2つの課題に直面することになる。
まず直視すべきは、「サステナビリティ2026問題」と呼ばれる、情報開示の実務的な要求である。2025年11月に金融庁が公表した開示府令の改正案によれば、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示について、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準の適用が具体化された。適用時期は、2027年3月31日以後に終了する事業年度から、まずは「平均時価総額3兆円以上」の企業を対象に義務化される見通しだ。
「2027年3月期からならまだ先だ」と考えるのは早計である。2027年3月期の有価証券報告書に記載するためには、その直前となる「2026年度(2026年4月~)」の活動実績とデータが必要になるからだ。つまり、2026年の時点で、財務情報と同等の信頼性・網羅性を担保したデータ収集体制が稼働していなければならない。これまでのように、各拠点からExcelでデータを収集する「バケツリレー」方式では、第三者保証に耐えうる正確性を担保できず、保証コストの増大や開示遅延のリスクを招く。
2026年は、これらの制度対応に向けた準備の最終年度、あるいは実質的な「本番開始」の年にあたる。単なる「開示対応」ではなく、経営管理のインフラそのものを刷新する覚悟が問われている。
制度対応という「外圧」が高まる一方で、日本企業の足元では、気になる兆しが表れている。JMAHDグループが実施した最新の「第3回サステナビリティ経営課題実態調査(2025年)」の結果は、サステナビリティ経営が新たな停滞期に入りつつあることを示唆している。
同調査によれば、サステナビリティに関する数値目標の設定自体は「当たり前」になった。しかし、その一方で、管理職層や一般職層の当事者意識は、過去の調査と比較しても低下傾向にあることが明らかになった。肯定的な回答(意識が高い)の割合は、管理職層で約30%、一般職層では20%にも満たない状況である。経営層が「サステナビリティ経営」を掲げても、現場では日々の業務に忙殺され、「やらされ感」が漂っている。そんな意識のギャップが広がってはいないだろうか。
また、サステナビリティ関連事業の「投資回収期間の基準」を持たない企業が約半数に上るなど、経済価値への転換シナリオが不明確なまま活動が進められている実態も浮き彫りになっている。DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用も「活用していない」という回答が最多であり、効率化や高度化が進んでいないことも、現場の疲弊を招く一因となっている可能性がある。
さらに2026年は、対応すべきテーマ自体も複雑化する。気候変動(カーボン)に加え、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」がビジネスの主要アジェンダとなる。2026年10月にはアルメニアで生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)が開催され、企業の自然関連情報の開示や、自然資本への影響評価が、投資家からの評価を左右する重要なファクターとなるだろう。
EUでは森林破壊防止規則(EUDR)の大企業への適用が、当初の予定から1年延期されたものの、2026年12月30日から義務化される。サプライチェーン全体でのトレーサビリティ確保が取引条件となり、気候変動対応だけで手一杯の現場に、さらなる負荷がかかることは避けられない。
これら複合的な課題に対し、私たちJMACはどのように立ち向かうべきと考えるか。それは、サステナビリティ対応を「規制への準拠(コンプライアンス)」で終わらせず、「企業文化変革」の機会へと昇華させることである。
弊社が独自で行った分析においても、PBR(株価純資産倍率)が1倍を超える企業は、戦略や仕組みづくりだけでなく、「企業文化変革」を重要課題として位置づけ、従業員のやりがいや誇りの醸成につなげていることが確認されている。経済産業省が選定する「SX銘柄」においても、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化」と定義されている。
制度対応のために整備するデータやIT基盤を、単なる報告ツールにするのではなく、現場が自らの業務の社会的意義を実感し、新たな価値を創造するための「武器」に変えること。そして、経営層と現場が対話を重ね、目指すべき未来像(パーパス)を共有すること。例えば、AI等のテクノロジーを活用して業務を効率化しつつ、創出した余力をイノベーションや対話に振り向けることも有効であろう。
サステナビリティ経営を活かした企業文化変革のポイント
2026年は、多くの企業にとって「宿題の提出期限」のように感じられるかもしれない。しかし、真の経営者にとっては、制度対応という外圧を利用して、自社の組織能力(ケイパビリティ)と文化を進化させる絶好の「好機」であるはずだ。
正解のない時代において、皆様の企業はどのような「予知」を持ち、2026年という通過点をどう疾走するのだろうか。JMACは、技術論や制度論の枠を超え、経営の意志としてのSXと、それを支える人づくり・組織づくりを、皆様と共に考え、実装していくパートナーでありたいと考えている。
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SX&パブリック事業本部
シニア・コンサルタント
生産、物流機能領域を中心に、サプライチェーンマネジメントの視点から、在庫適正化、生産管理システム導入、コストダウン等のコンサルティングを行う。また、製造業の人材育成にも積極的に取り組んでおり、自律的継続的改善ができる職場づくりなど、サステナブルなものづくりの在り方についての研究・実践を行っている。
共著に『物流改善ケーススタディ65——コストダウン、作業効率を徹底追求——』『続・物流改善ケーススタディ65——コストダウン、作業効率を徹底追求——』(いずれも日刊工業新聞社)、『図解 ビジネス実務辞典 生産管理』(JMAM)、『生産管理のべからず89』(JMAC)
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