1. トップ
  2. コラム
  3. 第6回 アルミ溶湯・成型工程での適用事例②

第6回 アルミ溶湯・成型工程での適用事例②

コラム

2025.10.21

エネルギー解析の新たな指標:エクセルギー

前回は、A社におけるアルミ溶湯・成型工程全体でのエクセルギーを用いたロス算定事例を紹介した。今回は、特にアルミの昇温工程に焦点を当てて、その詳細を深掘りする。

現場の状況

A社では、業務終了後、翌日の準備作業として釜に残った700℃の溶融アルミにインゴットやスクラップアルミを加えて200kgにする。一晩でアルミの温度は自然冷却され、ヒーターを起動する早朝4:30には約280℃まで低下している。そこから、操業開始の7:00までに再び700℃まで昇温する作業を毎日繰り返している。(本来は連続操業するのが最も省エネであることはわかっているが種々の理由でできない)

昇温プロセスの詳細解析

この昇温プロセスを詳細にみてみると、図1に示す様に熱エネルギーの伝達メカニズムは次のようになる。

  1. ヒーター熱(電気エネルギー)が発生する
  2. 熱が対流や輻射によって、溶解炉内の鋳鉄釜の外面に伝わる
  3. 熱が熱伝導により、釜の内面に伝わる
  4. 熱が熱伝導、輻射、対流により、内部の固体アルミを温め、溶解させる

また、昇温プロセスは比熱の変化により、以下の3のプロセスに分けられる 。

  • 昇温プロセス1: 固体アルミを510℃まで昇温する工程
  • 昇温プロセス2: アルミの融解ゾーン(510℃~580℃)で、固体から液体へ相変化する工程
  • 昇温プロセス3: 液体アルミを700℃まで昇温する工程

エネルギー伝達メカニズム例

このようにエネルギーのフローを詳細に分解して見ると、熱の伝達過程で気づかなかった省エネルギーの視点が見えてくる場合も多い。例えば、ヒーター熱が釜の外面に伝わる②の部分においては対流伝熱を増強するための空気層の縮小やヒーター位置の見直しなどが考えられる。また釜内部の③部分では熱伝導率の高い黒鉛釜などに替えることも検討材料になる。

今回は個別の省エネ視点の検討の前に、まず大きなエネルギーロスである放散熱について考えてみる。

エクセルギー解析

過去にEMSで計測したある日の4:28から7:10までのヒーター電力、釜内温度データ(2分間隔計測)をグラフ化し、それに計算で求めた鋳鉄釜自体の昇温エネルギー(鋳鉄釜設備必要量)、必要エンタルピーH、必要エクセルギーExを追加した(図2参照)。なお、エネルギーは計算で求めたKJをKW換算している。

グラフに示す通りヒーターは30kWのフル出力で常時動いている。炉内温度はヒーター開始からしばらくは温度上昇せず(逆に若干低下傾向がみられる)、その後固体アルミのまま融解ゾーンの510℃付近まで直線的に上昇する。そして融解ゾーンの終わりの580℃付近までは温度上昇はあまり起きず、それを超えると融解アルミの温度はまた直線的に上昇し700℃に到達する。
ヒーター開始後直ぐに内部温度が上昇しないのは投入エネルギーのほとんどが空気層と鋳鉄釜の昇温に使われるからである。その後は鋳鉄釜の内面から熱伝導、対流、輻射によって内部のアルミに伝えられる。

EMSデータに基づく昇温プロセスの推移

必要エンタルピーHは、アルミ重量×比熱×温度差(内部温度-初期内部温度)から求められる。昇温プロセス2ではそれに融解熱を加える必要がある。
必要エクセルギーExは、必要エンタルピーHから損失エクセルギー(T0×⊿S)を引いた値である。ここでT0は周囲温度25℃=298K、⊿Sはエンタルピー変化であり、次式で計算される。

⊿S=アルミ重量×比熱×ln(内部温度/初期内部温度)

グラフでは、必要エンタルピーHと必要エクセルギーの差が損失エクセルギーである。あらためて、必要エクセルギーとは、熱として活用可能なエネルギーであり、損失エクセルギー(T0×⊿S)は、熱として活用不可能な無効エネルギーのことである。

こうした溶湯プロセスでは、エネルギーロスの発生要因は様々あるが、ロスとして発生した熱は最終的には全て放散熱として周囲にバラまかれる。つまりエネルギーロス量は、放散熱量になる。損失エクセルギーは無効エネルギーであり取り出すことができないエネルギーなので、当然ロスとして計上すべきだ。従来のエンタルピーベースでの計算ではそのロスが計算できなかったわけであるが、エクセルギーを使うことで本当のロス、放散熱量の総量が計算できることになった。

グラフに記したように昇温プロセスの初期段階は鋳鉄釜の昇温にほとんどのエネルギーが使われるため放散熱量は少ない。その後釜内部の固体アルミの510℃までの昇温時が最も放散熱量が大きくなる。その後融解ゾーンの昇温プロセス2に入ると大量の融解熱量が必要になるため放散熱量は最も少なくなる。つまりロスが少ない。そして昇温プロセス3の液体アルミの700℃までの昇温にはいるとまた放散熱量は大きくなる。

エクセルギー解析からの対応策の検討例

このようにヒーターは常に30kWの全出力で稼働しているが、放散熱量というエネルギーロスは変化しているのである。こうしたことがわかると、放散熱(エネルギーロス)低減のためには、ロスの少ない昇温プロセス1の初期や融解プロセス(昇温プロセス2)に比べて、固体アルミの昇温時や液体アルミの昇温時にはヒーター出力を弱めることで省エネを検討する余地があることがわかる。また特に固体アルミの昇温時に放散熱量が多いので、前日稼働終了時に行う、残存アルミ量やインゴット・スクラップアルミなどの投入方法(小型化、微細化するなど)や溶け落ち過程などの検討が省エネに有効になることも考えられる。その検討の中ではヒーターの配置などの検討もあり得る。またプロセス全体を通して放散熱は投入エネルギーの2/3を占めるので放熱対策の検討は必須である。

このように詳細にエクセルギー解析を行うことで、より踏み込んだプロセス改善の議論につながるのである。

山田 朗

SX&パブリック事業本部
シニア・コンサルタント

1991年 JMAC入社。生産、開発部門のコンサルティングを経て、15年ほど前から環境分野を中心としたコンサルティングに従事。主要テーマは、環境 経営戦略立案、環境マネジメントシステム(ISO14001)の高度化、LCAを活用した環境負荷の定量化と削減、省エネルギー推進(エネルギー生産 性)、資源生産性向上支援など。環境を入り口として、開発、購買、生産、物流、マーケティングなどのさまざまな機能の生産性向上につなげる支援を志向して いる。

まずはお気軽にご相談ください。

自立・自走できる組織へ

信頼と実績のJMACが、貴社の現状と課題をヒアリングし、解決策をご提案します。

コラムトップへ