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一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ

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星野 誠

YWTとは

「Y・W・T(ワイ・ダブリュー・ティー)」(以下YWT)という振り返りのフレームワークをご存じだろうか。もしかしたら、すでに自分の職場で使っているという方もいるかもしれない。

 YWTとは、やったこと(Y)、わかったこと(W)、次にやること(T)の頭文字をとった略称であり、日本能率協会コンサルティング (JMAC)が1990年代に開発した「技術KI計画」によるKI活動の中で、生み出した振り返りの考え方・実践手法である。

 “Y”、“W”、“T“という順番で過去(やったこと)から、今(わかったこと)、未来(次にやること)に向けた時間軸の流れのあるわかりやすさと、日本語の頭文字をとったなじみやすさからか、技術KI計画の広がりとともにさまざまな業界で広まり、組織学習のための振り返り手法として一般的に知られるようになった。

 しかし、気軽に使いやすい一方、さまざまな応用、独自の使い方、解釈がされ、本来のYWTとは異なるYWTも見受けられるようになっている。使い方によっては、単なる個人日記や進捗(進捗)報告の道具の域にとどまってしまうこともある。あなたの職場では、YWTの本来のポテンシャルを引き出すような振り返りはできているだろうか。

振り返りの主体は、「私」

 YWTは、根源的には、一人一人の個人の振り返りに用いるものである。よくある使用例として、チームミーティングの最後に、ファシリテーターの方が書きだしながら、「チーム議論のまとめとして、YWTをまとめよう」という使い方がされていることがある。

 また、プロジェクトの振り返り場面でも、全体意見まとめのフレームワークとして使われていることがある。もちろんチームの総意としての記録は残るため、活動のおさらいや今後のアクションの合意をとるうえでは、有効な使い方の一つであるといえるだろう。反面、チームで一つだけまとめ形式のYWTでは、メンバー一人一人の気づきの表出化が薄くなり、ややもすると、その場をしきっているファシリテーターや発言が多いマネジャーの解釈が支配的な業務記録的な議事録型YWTになってしまうこともある。

 YWTは、あくまでも、主語は私である。“私が”自分の経験、思い、役割認識のもとにやったことを一人一人が吐き出し、表出させるたの“Y”であることが重要だ。私が主体的に、意図的にやったことなので、私自身の内省により内面の気づきが表出化し、私が次にやることが見えてくる、一人一人の未来に向けた行動が促されてくるYWTに近づいていくのである。Yは、単なるチームでやったこと(取り組んだ業務記録)ではない。

組織マネジメントとしてのYWT

 振り返り手法として、YWTを長らく使っている職場では、業務月報や週報のフレームワークにYWTを取り入れていることがある。個人として、1カ月間や1週間の業務を振り返り、内省するきっかけを習慣化していることは、工夫された取り組みといえるだろう。ただし、だんだんマンネリ化してくると、やったことの内容が、終了したことの作業記録になり、わかったことも、うまくいかなかったことや遅れたことの反省、次にやることが失敗や遅れの挽回策にとどまってしまうことがある。

 形骸化が進むと、振り返りとしての目的を失い、極端にいえば、次にやることが「引き続き頑張ります」のような連絡になってしまいかねない。また、YWTの内容に対して、上司が厳しい指摘をするようなレビュー的な使い方がされている場合、上司から管理されるプレッシャーを感じてしまいがちである。すると、次にやることで宣言する内容が、個人で確実にできる範囲の作業予定をあげるだけのTo Doリストになってしまう。管理ツール的な振り返りをしているだけでは、体験からの気づき共有や感情の交流、自由な提案も起こりにくく、組織の知恵・教訓のストックや心理的エネルギーが高まるような振り返りにはならないだろう。

 大事なことは、YWTによる相互刺激である。一人一人のYWTを皆で共有しあいながら、チームメンバー同士、上司・部下間で対話をする。一人一人の個性を受け止め合い、気づきを深掘りしていく。次にやることで提案されたことは、個人の宿題ではない。実現に向けてアイデアや助言を出しあい、チーム・組織として実現をサポートする。共有されたYWTは個人日記ではなく、未来に向けたチームの資本なのである。

 打ち上げられた課題によっては、上司自らの責任として拾い上げ、上司自身の次にやることとして動くこともあるだろう。YWTの内容に対して、上司側のマネージャーは見る・関わる・打ち手を打つ役割が発生する。一人一人が自分の役割に基づき、YWTで振り返り、YWTに向き合うことが組織の階層別役割を発揮するマネジメントを機能させていく。

 また、短期的にやることだけでない話題が打ちあがることもある。その場合、チーム・組織の次の成長に向けた課題や意見として拾い上げ、中長期的な施策につなげていくことも重要だ。

 YWT振り返りを組織でどう取り組むかのあり方とやり方は、組織マネジメントそのものなのである。

 以下にYWTの心構えをあげる。

・YWT振り返りは安全な場、個性を吐露する場
・「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」すべてが財産
・反省、チェック、コントロールは禁句である
・進捗管理(結果のコントロール)ではなく、次の計画(未来のマネジメント)に反映する
・自分の成長のために、自分たちの成長のために

 たかがYWTされどYWT。徹底したYWTは皆さんの絶え間ない組織成長を生み出す。

不変のマネジメントの基本YWT

 日本能率協会コンサルティング では、前身の日本能率協会創立当初から、「能率」という言葉を大事にしてきた。能率とは、人の能力、設備の性能、材料の機能をそれぞれ最大限活かしきることを追求する科学的管理法に基づくマネジメントの考え方である。

 今や、一人一人の個性、多様性が尊重される時代となったが、企業成長の源泉は人であることに変わりはない。一人一人の能力の最大発揮、誰一人取り残さない、まさに現代の私たちにとっての「能率」を実現するマネジメントの基本、それがYWTなのである。

さあ、皆さん、YWTをやっていこう。
明日のために、「ワイ・ダブリュー・ティー」を口グセに!

参考:日本能率協会コンサルティング
用語集 YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)

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