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Withコロナを乗り切る発想 〜飲食業に学ぶリソースの使い切り方〜

  • マーケティング・営業

渡邉 聡

渡邉 聡(シニア・コンサルタント)

Withコロナを乗り切る発想

コロナ禍の影響をもっとも受けているのは、飲食を中心とした店舗業態であろう。緊急事態宣言が解除された後も、いかに「密」を避けて安全・安心な営業を行うか。単に守るだけではない発想でチャレンジしている3社の事例を紹介しよう。

これらの事例に共通するのは「リソースを使い切る」という視点である。新事業や新サービス開発の経験がある方なら「なんだ、リソース発想か」と思われるかもしれない。しかし、今回紹介する3社のアイデアはコロナ禍をきっかけに新しい価値を提供した好事例と言える。

事例1:多面的なリソースで自社の価値の核を確立する

築地銀だこ ハイボール酒場の事例

初めに紹介するのは「築地銀だこ ハイボール酒場」である。たこ焼きだけならばテイクアウトが可能であり、コロナにも強い業態であると思われる。しかし、同店の業態は営業時間も制限されていたし、緊急事態宣言解除後もアルコールを伴う飲食は苦戦が続いている。そうした中、あるテレビ番組で紹介されたアプローチは実に驚きの内容であった。

同店はハイボールを主体としたアルコールを提供することから、オフィス街や繁華街に多くの店舗を構えている。中でも東京・芝大門の店舗はその典型である。この立地で夜の飲酒を含めた利用が敬遠される中、皆さんならどういった手を打つだろうか。ポイントは前述のとおり「リソース」の徹底活用である。「築地銀だこ」の最大・最強のリソースは「たこ焼き」であるが、それを生かすべきだろうか。

しかし、テレビ番組で紹介された打ち手は「たこ焼き」を生かすものではなく、「店舗」そのものを生かすという発想であった。具体的には店舗の立地・設備を生かして「うどん」を提供したのである。立地的には本来は夜の利用を中心に考えていたと思われるが、近隣のビジネスパーソン向けのランチ利用に注目し、たこ焼きのアレンジではなく、まったく角度を変えた「うどん」で勝負したのである。

しかも、その「うどん」も自社調達・開発のうどんではなく、九州・福岡の人気うどん店「えびすやうどん」のうどんを提供しているのである。とにかく「店舗」というリソースに集中し、新規のメニュー開発を行わず、最速で新しいランチの楽しみを生み出したというわけだ。かつこの施策の妙味は「東京進出したかったが良い場所に店舗を出すことは難しい」という地方人気店のニーズにも一致している点である。そのテレビ番組で「えびすやうどん」の社長もまさにこの点を魅力として語っていたが、「この立地の店舗」を生かし切ることで、協業相手ともまさにwin-winの連携ができたのである。

われわれもコンサルタントとして新事業・新サービス開発を支援しているのでリソース発想の大切さは重々わかってはいるが、だからこそついつい「このリソースも使えないか・・・」とよくばってしまうことも多い。

「築地銀だこハイボール酒場」と「えびすやうどん」の成功例はリソースを多面的に捉えつつ、その価値の核に集中した結果であろう。

事例2:リソース視点を広げ、新サービスを展開する

DINING PORT 御料鶴の事例

次に紹介するのは、JAL Agriportのレストラン「DINING PORT 御料鶴」である。レストランはコロナの影響をもっとも受けた業界であろう。このレストランではJALグループというリソースを生かし、国際線機内食の提供を始めたという。ここからは筆者の解釈となるが、この試みにはさまざまなねらいが含まれていると考える。

まず考えられるのは、コロナ後の再開における集客の目玉企画という位置付けである。メディアにも取り上げられ、話題作りになり、遠のいていた客足を呼び戻す一助になろう。リピーターのみならず、新規顧客を呼び込むきっかけにもなる。つまり、営業面への貢献が期待できる。

次に、「御料鶴でフライト気分」というメニュー名があるように、CX(Customer EXperience=顧客体験価値)の創出である。通常、当然のことながら国際線に搭乗しない限りは、その機内食を体験することはできない。それを疑似体験することそのものの楽しさがある。さらに、JALに身近に触れて親しみを持つその体験の記憶が、JALでの国際線利用への入り口づくりになる可能性もある。これはファンづくり面への貢献が期待できる。

さらに、このレストランでは客室乗務員の接客もあるという。これは前述のCXを高めるとともに、EX(Employee EXperience=従業員体験価値)も高めていると考えられる。コロナ禍において客室乗務員は乗務機会が激減した。これは、モチベーションや働きがいを奪ったと推測される。このレストランが一部とはいえ、それを補い、さらには経験の浅い客室乗務員のトレーニングの場になったことは想像に難くない。つまり、3つ目の貢献として客室乗務員への貢献が期待できるのだ。

レストランにおける機内食の提供はこれらの貢献が期待できるし、製造量が減っていた機内食の出番をつくることなどへの貢献もあるだろう。ちょっとしたリソースの活用がさまざまな貢献を可能にするのである。

リソースを考える視点として自社のみならずグループ企業といったことも考えられる。さらに広げれば、顧客やそのネットワークを活用することも可能なはずである。視野を広げ、知恵を絞りたい。

事例3:自社リソース価値を高める顧客体験価値の創出

カラオケボックスの事例

最後に紹介するのは、カラオケボックスの事例である。カラオケボックスも自粛を求められるなど、コロナの影響を大きく被った事業である。幾つかのカラオケボックスで目にするのが「オンライン会議プラン」である。

リモートワークが長期化する中、オンライン会議が増えた人も多いはずである。経験のなかった人にとっては戸惑うことも多かったのではないだろうか。「やってみると、実はいろいろな事情があって家ではオンライン会議がしづらい」「街中でもカフェなどはオンライン会議がしづらい」「Withコロナの状況では不特定多数の人がいる場所には行きづらい」など、さまざまな悩みが出てきたと考えられる。メールが普及した昨今において、電話など「声を出す」機会や場所が減りつつあるのかもしれない。そんな人たちにとってカラオケボックスは「オンライン会議に好都合な場所」となった。なんといってもカラオケボックスは「気兼ねなく声を出す場所」であり、「個室」というリソースを持っていたのである。

筆者は実はカラオケが苦手で、これまではほとんど利用したことがなかった。しかし、オンライン会議のために利用する機会が増えてきたのである。Withコロナの状況下では、客先へのリアル訪問とオンライン会議が交互にスケジューリングされるなど、さらなる「街中でのオンライン会議の場所確保」というニーズは高まることも予想される。

顧客自身が問題解決すべく利用を始めたのか、カラオケボックス側がリソース活用として提案したのか、どちらが先かは定かではない。しかし、少なくとも結果としてリソースが生きる新たなターゲット顧客や利用シーンを開発したことは間違いないだろう。

今回、リソースをうまく使ってコロナ禍の環境変化に対応した3つの事例を見てきた。実はいずれも「ちょっとしたこと」でもある。コロナという外圧からリソース活用に至ったのかもしれないが、普段から考えておくべき重要な視点といえる。コロナにかかわらず、事業とは環境への適応や変化への対応が求められる。リソースを使い切る視点は持ち続けたい。

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