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「現状維持でOK」からの脱却 ビジョン策定で見えた新境地

事例

2026.07.08

株式会社TEIKOKU

石油・化学プラントで使われるキャンドモータポンプや、新幹線に搭載される電動油ポンプなどを製造する

株式会社TEIKOKU

1939年創業。主力製品である完全無漏洩構造のキャンドモータポンプが、国内外の石油・化学プラントなど幅広い分野で採用される。東証プライム上場。

   


現状で悪くないのだから、あえて変える必要はない―。そうした「現状維持思考」の脱却に正面から挑んだのが、キャンドモータポンプを手掛けるTEIKOKU(旧帝国電機製作所)だ。同社は2025年2月にグループビジョンを策定。10年後のありたい姿を掲げたことで、新しい景色が見えつつある。策定を主導した経営陣3人に話を聞いた。

株式会社TEIKOKU

現状維持思考からの脱却/挑戦する風土の醸成/エンゲージメント強化

 変化を避け、今の安定した状態を維持しようとする「現状維持思考」。そこから脱却することは、想像以上に難しい。そうした中、現状維持はすなわち衰退への道であるととらえ、そこからの脱却に真正面から取り組んだのが、兵庫県たつの市に本社を置くTEIKOKUだ。

「挑戦する風土」のスコアが水準を大きく下回った

 ポンプとモータを一体化し、取り扱う液体を密閉することで完全無漏洩を実現した「キャンドモータポンプ」のリーディングカンパニーである同社は、売り上げの約7割を占める海外事業の伸長と円安の後押しで、事業規模を堅調に拡大してきた。しかし、その好況こそが現状維持思考の温床になってきたと話すのが、2024年6月に代表取締役社長に就任した村田潔さんだ。

「十数年前に他社から当社に移ってきたときに感じたのが、社内の独特な空気でした。静かで、活気に乏しく、ワクワクしながら仕事にあたっているような感じがあまりしない。お客さまや製品に恵まれているがゆえの『今のままでOK』というあり方が、社内で常態化しているように感じました」

代表取締役社長・村田潔さん

 そうした傾向が如実に表れたのが、2024年3月に実施した従業員サーベイ(実態調査)だ。「達成感」「部門間の連携」「事業やサービスへの誇り」 「評価への納得感」「経営陣への信頼」といった指標が軒並みベンチマークを下回り、とりわけ「挑戦する風土」のスコアの低さが際立った。

 取締役の阿部孝司さんは、「実際に面談などで社員に話を聞くと、普段は口に出さないものの、多くのメンバーがそうしたムードを肌で感じていました」と語る。

取締役・阿部孝司さん

 一方で、同社をとりまく事業環境について、  取締役常務の佐藤哲造さんはこう話す。

 「時代の変化は速く、当社の主要顧客である化学業界も、脱炭素の流れで石油由来製品への規制が強まるなど、大きく様変わりしつつあります。先が見通せず、従来のままでやっていける保証がないからこそ、新しい領域に打って出て、変化に柔軟に対応していかなければなりません」

 どうすれば現状維持思考から脱し、挑戦する風土や、仕事・会社へのエンゲージメントを高められるのか。同社が活路を見出したのがチャレンジングな目標の設定だった。

「現状のままでは、絶対に到達できない。でも、努力すれば達成できる可能性もある。そうした絶妙なラインの目標を設け、皆でそこへ立ち向かっていくことでこそ、現状の体質から脱却できると考えました」(村田さん)

 こうしてTEIKOKUでは2024年7月、グループビジョン策定プロジェクトを発足。その伴走役を務めたのがJMACだった。

「以前からJMACには、収益管理や生産性向上といった取り組みで支援してもらい、当社のことをよく理解してくれていました。その実績と信頼を頼りに、今回もサポートをお願いすることになりました」(佐藤さん)

取締役常務・佐藤哲造さん

議論を重ねて練り上げた「10年後のありたい姿」

 同プロジェクトで着手したのが、会社の「10年後のありたい姿」を、シンプルなコンセプトで言語化することだ。まずは執行役員の間で議論を重ね、  途中からは管理職層との意見交換の場も設けながら、練り上げていった。

 「中でも苦労したのが、経営陣の意見を束ねるプロセスです。それぞれに抱える事情や思いがあり、どうしても議論が枝葉に広がってしまう。そうした中JMACには、論点を本筋へと引き戻し、的確な問いを投げかけることで私たちの中にある言葉を引き出し、整理してもらいました」(村田さん)

 ビジョンの策定にあたり、その根幹に据えたのが、「みんなで良くなろう。誠実に事に当たろう。積極的にやろう」という社是だった。しかし実際の社内には「部門の壁が厚く、他部門の動きが見えにくい」「積極的に取り組んでも評価は変わらず、むしろ失敗したら責められる」といった意識があり、社是との間に乖離が見られていた。

 「振り返れば、先人がキャンドモータポンプの開発に果敢に挑み、幾度もの失敗を繰り返した末に、現在の主力製品にたどりついています。まさに社是を体現する会社だった歴史があるからこそ、そこにもう一度立ち返り、挑戦していくべきだと考えました」(村田さん)

2026年4月1日に社名も帝国電機製作所からTEIKOKUへ変更。本社前には社是を刻んだ石碑が置かれている

 こうしたプロセスを経て打ち出されたのが、トップシェアの現状に甘んじることなく、もっと世界の隅々に、品質の高いTEIKOKU製品を迅速に提供する存在になるという思いを反映した「変わるぞTEIKOKU/圧倒的No.1への挑戦〜世界の隅々に、唯一無二を、最速で」というステートメントだ。あわせて「2035年までに連結売上高700億円の事業規模を目指す」というチャレンジ目標も掲げられた。こちらは市場のCAGR(年平均成長率)の想定レンジの上限で試算した数値で、2023年度売上高の2倍超に相当する。

 「ステートメントを決める議論も非常に白熱しました。『変わろうぜ』『目を覚ませ』『攻めの』といった表現も候補に挙がりましたが、最終的には、一人ひとりが自分ごととしてとらえられるよう、社員一人ひとりが主語となる『変わるぞTEIKOKU』に決めました」(阿部さん)

変わるぞTEIKOKU

目標を掲げて初めて見えた現実とのギャップ

 こうしてTEIKOKUは2025年4月、新たなグループビジョンを発表する。だが、ここからが本当の「始まり」だった。

 まずは上から変わらなければならないということで、執行役員や部長を対象としたオフサイトミーティングを実施した。

 その後、策定したビジョンを社内に浸透させるべく、経営層と従業員が直接対話するタウンホールミーティングを実施。これは海外現地法人の駐在員も含む全従業員を対象に、ビジョンの説明と質疑応答を行うもので、1回20~30人規模の会を2026年2月までに計12回行った。あわせて、村田さんと佐藤さんが主要な海外拠点に赴き、現地メンバーに直接説明する機会も設けた。

 タウンホールミーティングの場や、事後のアンケートで従業員から多く挙がったのが、「本当にできますか?」「今でもたいへんなのに、さらにやるのですか?」「具体的にどうすればいいのでしょう?」といった声だった。一方で、「がんばりましょう」「目標達成に必要なことを一緒に考えていきましょう」といった前向きな意見も挙がったが、全体としては目標への懐疑であったり、実現に向けた具体策を問う声が目立った。

 「従業員によって受け止め方が大きく異なることと、だからこそ目線合わせが重要であることを実感しました。同時に、これまで会社として伝えるべきことが十分に伝えられていなかった実態も浮き彫りになりました」(阿部さん)

「これまで現地に委ねていた海外現地法人の現状や課題も、くっきり見えてきました」(佐藤さん) 

 チャレンジングな目標を掲げたことで現実とのギャップが顕在化し、これまで見えていなかった課題が次々と浮かび上がった。それはいわば、目線を上げてこそ初めて立ち現れる「新しい景色」だった。

 「人員は足りるのか? 工場のキャパシティは大丈夫なのか? もちろん、現状の延長線上では目標は達成できません。だからこそ、みんなで考えていきましょうという話なのです。『事務方だから売り上げには関係ない』ではなく、今の仕事を効率化することで、10年後には2倍の成果を出し、業績に貢献できるかもしれない。そうした意識を醸成するツールとなるのが、グループビジョンだととらえています。あわせて、多くの人たちを巻き込んで現状を動かしていくには、私たち経営陣の『聞く力』も重要であることに気づきました。まずは、上から変わらなければいけません」(村田さん)

「変わるぞ」から「変わった」に

 グループビジョンの策定から約1年。社内の空気は徐々に変わりつつあるものの、まだ「本当にやれるのか?」と半信半疑の状態にあるというのが、経営陣の率直な実感だ。

 「だからこそ、本当に変われるのだということを、これからの実際の行動で示していきたいと考えています」(村田さん)

 そうして、まずは全体の2割ほどのアーリーアダプター層に深く共感してもらうことを目指す。そこを起点に、今度は全体の6割ほどの層にも広がっていき、大きなうねりを生み出す──。そんな展開を描いている。

 一方で、すでに変革の萌芽も見え始めている。

 たとえば、異なる部門のメンバーが集うタウンホールミーティングの発展形として、中堅メンバーが部門横断で集まる場を設置したことだ。会では各部門のメンバーからさまざまな意見が出され、「他部門の仕事や考えを知るうえでとても有益」と好評を呼んでいる。

 「あわせて、社内ブランディングにも力を入れていきます。たとえば、自社製品がどのような場所でどう使われているかを広く共有することで、他部門の取り組みを可視化するとともに、仕事や会社へのエンゲージメント向上につなげていきたいと考えています」(阿部さん)

 ありたい姿が明確になったことで、そこへの道のりと歩みも少しずつ形になり始めているTEIKOKU。同社が推し進めるこうした変革の核にあるのは、こんな思いだ。

 「私自身、これまでたくさんの未経験の領域に挑戦させていただき、たいへんさもありながら仕事を楽しんできました。だからこそ従業員のみなさんにも、単に生活のためだけでなく、ドキドキ・ワクワクしながら仕事に向き合ってほしい。その思いが強くあります。『変わるぞTEIKOKU』が『変わったなTEIKOKU』になったと実感できるよう、チャレンジを続けていきます」(村田さん)

グループビジョンが現場に浸透する日も近い

   

※本稿はJMAC発行の『Business Insights81号』からの転載です。
※記事内容に関しては、取材時(2026年4月)のものです。

担当コンサルタントからのひと言

グローバルの製造業にとってグループビジョンは海外拠点と本社を繋ぐ経営の指針です。海外現地法人の経営層や駐在員との対話でビジョンを共有することで、現地の本音や本当の困りごと、本質的課題を把握するきっかけになります。さらに、このプロセスを経て得られる人間関係はビジョンが浸透していくグループの経営基盤になります。グループビジョンを掲げ、そのためのグローバルのマネジメント体制や仕組みを確立する。これらを愚直に推し進められるのが、真のグローバル製造業だと考えます。

北村 大輔

経営コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント

入社以来、製造業を中心としたコンサルティングに従事している。専門領域は、ビジョン・中期計画策定、管理会計・原価管理、事業再生・収益改革等。現在は、総合一貫型のコンサルティングを志向しており、戦略立案から実行まで幅広くコンサルティング活動を行っている。

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