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「おもしろおかしく」の精神で京都から世界へイノベーションを発信!
~強い組織づくりの秘訣は一人ひとりのオーナーシップだ~

株式会社堀場製作所
代表取締役会長 兼 社長 堀場 厚 氏

堀場製作所は、世界シェア80%を誇る排ガス自動車測定装置を主軸に、分析・計測機器の総合メーカーとして年商1,500億を見据えるグローバル企業だ。また、社是「おもしろおかしく」の精神のもと、独自の技術力でイノベーションを生み出し続ける京都企業として高い注目を浴びている。そのような同社のこれまでの歩みや人材教育の秘訣、経営の極意について、堀場社長にお話をお聞きした。

分析はあらゆる産業のマザーツール

鈴木:まず初めに創業当時のお話や、御社の根幹でもある"計る技術"に対する堀場社長の思いをお聞かせください。

堀場:先代の堀場雅夫が京都大学3回生の時、学生ベンチャーの草分けとして「堀場無線研究所」を立ち上げたのが当社の起源です。元々コンデンサーをつくる会社を興したかった父ですが、製造と開発の過程で必要だったpHメータの性能を追求する中で、pHメータそのものを自ら開発するようになり、結果的にそれを販売したのが当社の始まりでした。
1200年の歴史を持つ京都ですが、土地は広くなく資源が限られているため、安いものを大量に売るという文化はどちらかというと馴染みません。良い物をそれに見合った値段で、例えばお茶の葉のようにブレンドすることで風味が出て、高級感を出すことで商売になるようなビジネスモデルが創られたわけですから、少量でも付加価値の高い物を作り上げていくという京都ならではの文化に、当社の事業がフィットしたのではないでしょうか。

とにかく、分析というのはサイエンスの世界でポジションが高い。時代が変遷し、例えば繊維産業から造船、自動車、半導体、医学と主力産業が移り変わっても、計測する、制御することは常に必要でした。ですから我々の業界はあらゆる産業に不可欠なマザーツールを提供しているのだと自負しています。

また、アカデミアとの繋がりも重要です。現在は日本だけでなく、アメリカ、フランス、ドイツなど、地元の大学や研究所と共同研究したり、例えばアジアでは最近、中国の清華大学と共同でPM2.5の分析技術の研究開発に取組んでいます。今の中国での測定が法規制に繋がるわけで、適正なものが何かということを一緒に開発することは、当の中国にとっても有効なことですし、当然我々にとってもビジネスチャンスに繋がっていきます。

オーナーマインドの経営だからできた我慢の経営

鈴木:昨年創業60周年を迎えられ、年商1,500億も見据えられています。これまでの歴史を振り返られると様々なご苦労があったのではないでしょうか。

堀場:これは先代の頃に遡りますが、今主要となっている自動車排ガス計測も立ち上げから最初の8年は赤字基調で、本格的に成功に転じたのは10年目以降でした。今でこそこの分野においては世界シェア80%を占めていますが、決してそのプロセスが順風満帆だったわけではありません。同じように、これまでフランス2社、ドイツの1社を買収しましたが、黒字に転換するまでそれぞれ前者で8年、後者で5年を要しました。これらはオーナーマインドの経営だからできたことでしょう。

もちろん、一言で赤字と言っても、技術ベースも人材も確かな会社へ研究開発投資をした結果であって、それが捨て金の赤字なのか、つまりオペレーション上赤字を出しているのか、それとも開発投資で赤字を出しているのかで全く意味合いが異なります。一般的にIRにおいては赤字かどうかなど、数字だけが見られますが、実際は資金をいかに有効に使っているかが重要ではないでしょうか。

とは言え、赤字を出せば当然当社グループも成果主義ですから、社員のボーナス等にも影響してくる訳です。だから後はいかに社員へ実情を丁寧に説明するか。大切なのは透明性。何かを隠したり不公平なことをするとたちまち社員の信頼を失います。重要なのは「オープンアンドフェア」の精神である、という私の信念に基づいています。

それは協力会社に対しても同じことです。当社には約800社の協力会社があり、その中でも主要な企業が70~80社あります。この協力会社にも年2回経営説明会を行い、また、研修旅行などのコミュニケーションの場を通じて結束を図っています。当社の半導体部門の製品は現在5割近い世界シェアを占めていますが、これは研究開発投資を継続している強みと、このような協力会社との強い連携の賜物と言えるでしょう。

また当社には、自動車計測、半導体、医用、環境、科学の5つのセグメントがありますが、それぞれ当然業界ごとに景気動向が異なります。例えば「阿蘇工場」は半導体と医用が同居しており、半導体がフル生産している時は人員をそこへ投入し、逆に需要が落ちてきた時には医用へという風に、固定費を吸収しつつバランスを取っています。このように事業規模が小さいうちにビジネスモデルを構築しつつ、会社全体でバランスをとっていくことが企業経営に不可欠だと思います。

"ホリバリアン"は1人ひとりが形づくるステンドグラス

鈴木:御社ではグループ内で働くすべての人へ親しみをこめ「ホリバリアン」と呼ばれています。ホリバリアンに対する率直な思いをお聞かせください。

堀場:私が「ホリバリアン」について語る時、例えでよく上げるのが「ステンドグラス」の話です。教会のステンドグラスはすごくきれいです。でもよくよく近づいて見ると、一つひとつの形は異なり、光り方もまちまちです。またこれが皆一緒の形で並んでいたら、逆におもしろくもおかしくもないですよね。それぞれが個性的で特徴あるガラスだから、それを繋ぐことであんな素晴らしいものになる。また一方でガラスが1つでも欠けたら美しくない。だから、君たちは一人ひとりが大切なんだと。一人一人特長があり、みんなが一緒でないことが大事なんだと伝えています。

今の日本の教育は同じ価値観のレベルの人を大量に育てる教育です。もちろんそれも大切ですが、特長のある人、一気通貫でリーダーシップがとれる個性がある人が育ちづらい環境だともいえます。また、答えを選択肢から選ぶ問が大多数というのも問題です。予め用意された答えを選択肢から選ぶだけという、いわゆるアチーブメントテストだけで優秀というのは世界では評価されません。答えがないものに答えを創りだす、生み出す人こそこれからの日本には求められているのだと思います。

一人ひとりがオーナーシップを持て

鈴木:御社の顧客は巨大メーカー中心です。そのような相手と対等に渡り合う上で「ホリバリアン」にはどのような姿勢が求められますか。またそのための仕掛けを教えてください。

堀場:私はいつもオーナーシップを持てと言っています。単に言われたこと、役割だけをこなすのではなく、いかにオーナーマインドを持って行動できるか。開発者でもオーナーシップがあれば当然現場を見に行くじゃないですか。例えば開発と生産部隊に溝があればトラブルが起きる。この溝をどう埋めるかが勝負なんです。またこれは当社の社是「おもしろおかしく」にもつながっています。人生で一番長い時間を過ごす会社という舞台を実り多いものにするために、やるべきことがあるということです。

社内にオーナーシップを持った人がどれだけいるか。これは車のエンジンと一緒で、馬力を出そうと思ったら回転力を増さないといけません。つまり、数を増やしながら仕事の回転数、スピードを上げること。その為にはムダをなくすことも大切です。当社の取組みの一つとして基本的に会議は30分~1時間までの設定とし、オーバーするとその場で切り上げています。極端な話、会議で議論するのは重要事項だけでいいのです。プレゼン資料にしてもそう。あれは仕事の手段であって、目的ではない。ですから、プレゼン資料は3枚に収める、コピーは配らないなど物理的な制約をして、地道に生産性・効率をあげる取組みをしています。

一方で、京都本社では社内誕生会を役員がホストになって毎月実施しています。本社以外の地域でも3か月に1回は開催する。意見があれば社長をはじめ役員に直接言える場を設ける。そして会の最後には一人ずつ握手を交わす。参加してくれた社員にも多くの仲間がいて、誕生会で社長と握手してこんな話をしたと、また帰って話してくれるわけです。巨大企業では考えられない体験をしていることが、オーナーシップを持って仕事をしてくれることにも繋がっているのです。これもコミュニケーション向上のための仕掛けのひとつです。

"プレミアム"、"一流"と"ぜいたく"は違う

鈴木:ホリバリアンを育成する場が御社が誇る研修センター(Fun House)ですね。その意図や狙いについてお聞かせください。

堀場:昨年当社は創業60周年を迎えましたが、今入ってくる若い世代は、たたき上げであらゆる経験をしてきた世代と違い、ある程度「HORIBA」というネームバリューがグローバルでも通用し、実績が出来上がった環境に入ってきています。ですから、当社の歴史の根幹は当然知らず、あらゆる所でギャップが生じます。また当社では、幅広く現場や会社の仕組みを理解した上で、コスト管理やマネージメントすることを要求します。このようなミスマッチを埋めなければいけませんし、マネージメントではなぜそれを要求するのかも教えないといけないのです。

こういった当社の精神を伝えていく場として滋賀県の朽木に研修センター「ファンハウス」を建て、ロビーラウンジ中央にはオープン暖炉を据えました。ここには、研修の時間だけでなく、むしろアフター研修やセミナーの後のコミュニケーション、本音のぶつかり合いこそ大切なんだという思いも込めました。暖炉の輻射熱は人を幸せにすると言われています。また生の火を見ることは人間の想像力をかき立て、囲炉裏の周りに座って議論していると不思議なほど同じ場を共有したメンバーが打ち解けていくのです。四季折々の自然、一流の設備と食事や飲み物。どうしても行きたくなるような仕掛けにしています。だから、ほぼすべての研修が社員の自主的な研修として利用されていて、みんな競って研修に手を上げるのです。

社員が一流のものに触れたことがなければ、いきなり世界に通用する一流の物を作れと言っても難しい所があります。研修所はそれが何かを体感させる場でもあるんです。一方で、基本中の基本であるベットメーキングは自分達で行うルールを徹底して、良い物を大切にすることや基礎習得の大事さ、大変さも体感して欲しいと考えています。私たちが追い求める「プレミアム」、一流とは決して"贅沢"ではない。そこの違いをわかってほしいと思います。

お金はきれいにスマートに---使い方も経営者の勘所 

鈴木:「一流」は「ぜいたく」とは違うと。結果的にそういう場の提供が"一流の議論、デザイン、製品"を生み出すことにつながるのでしょうか。

堀場:もちろん研修室や応接室は華美である必要はありません。ですが、あまりに地味で貧相な部屋から一流のデザイン、気の利いた製品が生み出せるでしょうか。要はさじ加減。製品もしかりで、我々の製品をお客様は嗜好で買っている訳ではないですから、当然ムダな物を高い値段で買わされたと思われたら、二度とは買ってはくれないでしょう。やはり勝負はデザインを含め、中身なんです。

昔、製品を並べたら、色も形もばらばらで「夜店の叩き売りじゃない!」と指摘したことがあります。だからと言って決して画一化はしない。微妙にデザインは違うんですが、パッとみたら当社の製品だとわかる。そういう最も難しいことをデザイナーにも求めています。製品も「ステンドグラス」の発想と同じなのです。

また、今年2月、当社最大の開発・生産拠点として「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」の建設を琵琶湖の湖西地区で着工しました。今、日本国内で大きな投資を伴う主力工場を建てることは、いわゆる経営者の「教科書」から言うと選択しないことでしょう。でも、逆に私は今しかないと思っています。なぜかというと、これは"技術の遷宮"だからです。第3ジェネレーションの人たちへ先達の知識や技術を伝承するために、敢えてこの時期に主力工場をつくるんだと。これは将来への投資、まさに「お金をきれいに、スマートに使う」ことなんです。それも経営者のタイミングを読む勘所だと思います。

トライしないところに答えなどない 

鈴木:最後に、堀場社長から次世代を担うトップ、経営幹部の方へ向けたメッセージをお願いします。

堀場:やはり経営は、トライアンドエラー。日本のトップはとかく答えがあるところから、正しい答えを選ぼうとしがちです。時に多額の資金で事業を買収したりと、それが答えだと思ってやっていても、その答え自体が間違っていることもあるのです。究極のところは経営とは、答えがないところに答えを見出せる、創りだせることではないでしょうか。それが私の思う理想のリーダーシップです。

経営は上手くいかないことの連続です。しかし、何かをトライしないと成果は生まれませんし、答えも導き出せません。その結果、例え厳しい結果が出てもそれを真摯に受け止める覚悟を持つことです。
そして、社員と思いを共にチャレンジする会社にするためには、経営者がその思いを伝え、社員一人ひとりがオーナーシップを持って働ける環境や組織を作ることが大切だと実感しています。

【対談を終えて】鈴木 亨のひとこと

教会のステンドグラスを例に出して、様々な素養を持つ人がお互い支え合って、企業を成り立たせているという言葉に感動しました。
「おもしろ、おかしく」とは、お互いの個性を大事にしながら、有機的に関係しあって、一流の成果を創出することであると考えます。「おもしろ、おかしく」過ごせる場や仕掛けを構築していくことが、経営者の大きな役割である事を改めて認識させていただきました。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.52からの転載です。
※社名、役職名などは発行当時のものです。

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