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第5回 モノは捉えよう ―「割り切り」で視野を広げる―

2016年10月21日

 本コラムの第2回で、組織マネジメントはやりくりのマネジメントだと割り切れ、と主張しました。「割り切れ!」と言われたからといって、「ああそうですか」とは簡単に受け入れることはできないのが大多数の人だと思います。そこで、今回は「割り切り」の意味について考えてみたいと思います。

割り切るために必要なモノの捉え方

 ここでみなさんが「割り切り」の直感的理解を深めるためのキーワードを贈ります。それは、"モノは捉えよう"という言葉です。"モノは捉えよう"とは、物事をこれまでとは別の切り口から見ることによって、別の捉え方ができるようになるということです。要するに自分の視野を広め、ストライクゾーン(許容範囲)を広げることです。

 ところが私たちは、日ごろは無意識的に自分の価値観をモノサシとして物事を認識している、つまり世の中にさまざまある見方の中のひとつの見方だけで物事を捉えてしまっています。そして起こっている事柄が自分の価値観から見て受け入れがたいと判断したときに、その事柄を問題や矛盾と感じるのです。ところがこの状況をまったく問題と捉えない別の価値観もあるのです。これが、"モノは捉えよう"の考え方です。

 この捉え方は多くの先達がいろいろな言い方で表現しています。たとえば、東京工業大学名誉教授でロボットコンテストの創始者でもある森政弘先生は『〔非まじめ〕をきわめる』(講談社+α文庫、1995年)の中で、二元性一元論として展開されています。先生は、「物事とは本来は善でも悪でもない客観的存在であるが(これを森先生は'無記'と言っています)、人がそれを捉える際にその人の価値観のフィルターによって、善、悪と認識する。」と論じられ、これらの無記、善、悪の比較例を一覧にしています、その一部を図1に引用します。これを見てもらうと"モノは捉えよう"のイメージがわかると思います。

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 こう言ってしまうと自分の価値観が間違っていると捉えられがちですが、"モノは捉えよう"とは自分の価値観を捨てることではありません。自分の価値観もひとつの考え方、他人のほかの価値観もひとつの考え方であると認めることです。それを認めれば、"モノは捉えよう"も自然体で受け入れられるようになり、「割り切り」で視野を広げることができます。

"モノは捉えよう"で前向きになると知恵が出る

 前に話しましたように、組織マネジメントが何の障害もなく進められている職場はあくまで理想状態であり、これまでそんな職場は見たことがありません。ですから管理者のみなさんは、自職場の組織マネジメントができない理由、愚痴、言い訳を探していても、らちが明きません。それよりも職場で起こっている問題は、たとえば自分の組織管理スキルあるいは職場の問題解決スキルを高める機会なのだと、"モノは捉えよう"で前向きに捉えることが肝要です。そして組織マネジメントを現実的、具体的にどう進めていくのかを考えるのです。そうすると置かれている問題の状況がよく見えてきて、そこからさまざまな現場の知恵が湧き上がってきます。この知恵とはいろいろと制約のある状況の中でも何とか組織マネジメントのPDCAを回そうとする現場の知恵です。

"モノは捉えよう"は論理的思考を超えた価値観である

 こう書くと「そんなのはまったく論理的でない!筋が通っていない!」という声が聞こえてきます。筋道だった隙のない論理的思考の展開は、間違いの少ない意思決定を行うために必須のものですが、一方で論理的思考を行ったからといってその結果が関係者に必ず認められるかというと、まったくそうではありません。「理屈ではわかるけれど、心(気持ち)がついていかない」「やっていることは間違っていないけれど、どうもピンとこない」といったことは、みなさん経験の中にもあると思います。これは、人の行動は、論理(理屈)だけで成されるものではないということを示しています。つまり、いくら論理的には正しいとはいえ、行動とは本人の意識(つまり、納得)が伴って初めて実現するものなのです。ここを補完するのが"モノは捉えよう"なのです。

 みなさんの論理的思考には実は意識下のところで、すでに自分の価値観が織り込まれているのです。ここに気づいてこれまでと異なった価値観で捉えると、自分が考えてきた論理的思考とは別のルートの論理的思考が見えてきます。"モノは捉えよう"という価値観は論理的思考を超えたところにあるのです。

解決できない問題が残ったら"モノは捉えよう"を実践する

 最後にモノは捉えように関する補足事項を1つ伝えておきます。ここまでモノは捉えようを中心に書いてきましたが、何でもかんでもすべてを受け入れよ、と言っているのではありません。通常の問題解決の考え方で解決できる、解決すべき問題はどんどん解決していってください。そうは言っても、現実の現場ではさまざまな制約条件からどうしても解決できない問題が残ります。そのときに問題が解決できないことを嘆いていてもキリがなく、このときにたとえ少しでも前に進むための考え方が"モノは捉えよう"だと捉えていただきたいと思います。

 ここまで「割り切り」についてその理屈を解説してきましたが、いかがでしょう?

 割り切れたでしょうか?

 それとも自分が絶対的に正しいのでしょうか?

 そもそも「割り切り」とは、理解よりも気づきの領域の事柄です。すぐに納得は無理かもしれませんが、折に触れて考えてもらえると、いつかは「なるほど!」につながるはずです。

 次回からは、組織マネジメントの現場におけるモノは捉えようの具体例を紹介します。

■参考文献
森政弘(1995年)『〔非まじめ〕をきわめる』講談社.

コンサルタントプロフィール

伊藤 冬樹

伊藤 冬樹

HRM革新センター チーフ・コンサルタント

1985年 JMAC入社。新事業開発を振り出しに、事業戦略立案、マーケティング領域の支援経験を経て、人材マネジメント領域のコンサルティング・教育を行っている。人材マネジメント領域においては、人事制度、人材育成体系、組織活性化などの仕組み構築のほかに、泥臭い第一線組織における組織マネジメントのあり方を深く研究・考察。そこから得た知見をもとに、現場における目標設定、コミュニケーション、業務改革、OJT、評価などの組織マネジメント運営支援を幅広く行う。人材マネジメントの立場からの企業・組織の業績貢献、改革推進でも大いに活躍している。
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