SMDGで実現する工場DX改革 ~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
生産・ものづくり・品質

「品質改善を全部門で推進したい」という方針があるが、製造部門、品質部門、設計開発部門を中心とした活動になっていて、営業部門や管理部門が品質改善を行うことはほとんどないという実態を散見する。
一般的に、品質改善というと、不良品の改善のみをイメージしがちである。しかし、品質とは、製品、サービス、プロセス、経営等が当該ニーズを達成する程度であり、範囲が広い。英単語の「Quality」は直訳すると「質」といえるが、「品質」と訳していることが、「品質改善といえば、製品品質の改善(不良品の改善)を指す」というような印象を与えていることも要因の一つと考える。
筆者は、「品質改善とは、売り物にしている製品・サービスの改善と、製品・サービスを実現するためのプロセス(業務)の改善が主な対象になる」と考えている。さらに広く考えれば、組織の活動プロセス(業務)全般に関する業務品質の改善も対象になるといえる。業務品質とは、当該業務が、そのニーズを達成する程度であり、言い換えると、その業務の目的・機能・役割またはルールを満たすことである。
品質改善活動の対象を広くできている状態とは、業務品質改善を多数実行している状態であると考える。これを実現するためには業務品質改善のテーマ設定と、改善の実行が必要である。まず、テーマ設定について考えてみたい。
テーマの設定というと、経営管理においては品質に限らず、KPIの設定、事業目標の設定、部門単位の目標、部門単位の活動計画などがあるので、重要な業務品質改善テーマとしてはまさに、これらそのもの、もしくは連動したものになることを認識することが必要である。これはトップダウン型でのテーマ設定といえる。
一方でボトムアップ型のテーマ設定も有効である。筆者の研修およびコンサルティングにおいて、業務品質改善テーマの抽出について討議を行うと、業務品質に関する問題認識が多く挙がる。まず各人の問題認識を多数挙げ、これらを共有して、議論を深め、どのような改善テーマを設定するべきかを追究することをおすすめする。なお、もともと業務品質の改善に類する議論や検討の場が少ない実態があれば、まだ表明されていない問題認識が多数ある可能性があることが推察されるため、これまで取り組んでいなかった改善テーマを見つけることも期待できる。
業務品質改善テーマが設定できたら、あとは単純に改善を実行するのみと言いたいところであるが、改善意欲が高かったとしても、良い改善ができない場合がある。それは自己流で改善を行ったが、結果として思うように社内で評価を得ることができなかった場合である。
自己流の改善ではなく、効果的な改善を行うためには、製品品質の品質改善を主対象としたQC的問題解決法(QCストーリー)が必要である。このやり方が定着している組織においては、製品品質の改善は順調に進む。
一方で、間接部門における業務品質改善を推進しようとした時、この製品品質の改善を主対象としたQCストーリーにもとづく品質改善の進め方をうまく応用展開出来ていないケースを散見する。それは、やはり、QCストーリーの説明および事例が製品品質を対象にしたものばかりであり、間接部門の改善の進め方の助けとして受け止め難いというところが大きいと思われる。つまり、業務品質の改善にQCストーリーを活用するには一工夫が必要といえる。
さて、製品・サービス品質、業務品質に関係なく、問題解決型のQCストーリーのステップとポイントを簡単に述べる。
これらのQCストーリーのポイントに対応する形で、業務品質改善では具体的にどのように進めるかについてのガイドがあると業務品質改善が進みやすくなることが期待できる。そこで、製品品質の改善に比べて業務品質の改善で強調するべきポイントについて考えてみたい。以下に3つのポイントを挙げる。
現状把握において、業務フロー図を用いて、現状業務を見える化することである。モノの流れは見えるが、業務の流れは目で見え難い。また、複数パターンの流れや例外業務もあり業務の流れが複雑な場合も多いことが、業務フロー図作成がポイントになる理由である。
適切な目標指標の設定である。改善活動によって成果が出たことを明瞭に示すことができれば、すっきりと改善活動を完了させることができるが、評価指標が曖昧であるとそのように完了できない。製品品質改善における目標指標の設定は通常利用している不良率等の品質指標を用いることができる場合が多い。これに比べて、業務品質改善の目標指標は、通常利用していない指標を設定する必要がある場合が多く、目標指標の設定がポイントになる理由である。
体系的な要因解析である。筆者の品質改善のコンサルティングでは要因解析になぜなぜ分析を活用することを推奨している。なぜなぜ分析は製品品質改善において多面的に根本要因(原因)を追究した参考事例が多い。一方で業務品質の改善においては、なぜなぜ分析の参考事例が少ない。また、なぜなぜ分析にヒューマンエラー要因が含まれることも多いがその参考事例も少ないことが、体系的な要因解析がポイントになる理由である。
これらのポイントを踏まえて、まず自社で良い業務品質改善事例をつくり、その事例をもとにガイドラインを作成することをおすすめする。
業務品質改善を行う動機付けとして、継続的改善のインパクトについて考えたい。継続的改善とは、その文字の通り、改善をし続けることである。ある組織Aで、年間に業務品質改善を10件行ったとする。別の組織Bでは年間に業務品質改善を20件行ったとする。その1年においては、改善件数の差は10件である。組織Aは翌年以降特に改善を行わなかったが、組織Bはその後毎年20件の改善を継続した。10年経過した時点では、改善件数の差は190件となった。この差のインパクトは大きい。
コンサルティングの経験から、組織の品質改善状況を伺うことがあるが、近年改善が進んで、クレームや不良が、相当低減されたという組織がある一方で、改善活動は低調で近年、クレームや不良が増えてきたという組織もある。継続的改善の実施状況の影響がうかがえる。
業務品質改善も製品・サービス品質改善も含めて、全社で改善を進めるために必要なポイントを3つ挙げる。
筆者の最近の研修およびコンサルティング経験では、トップが全社での品質改善を行う方針を前面に押し出しているケースが複数ある。品質改善が停滞している現状の打破や、改善推進人材を増やしたいという意向などがある。
日々タスクを抱えている中で、品質改善を行うことは難しいという実情がある。品質改善のリーダーとして選定されたとしても、フォローしてもらえないということがある。全社で品質改善を進めるのであれば、具体的に内容の議論ができるサポート体制があると助けになると考える。
さまざまな工夫が有り得るが、次のような例がある。
また、改善サポート体制における丁寧なフォローもモチベーションのキープには役立つと思われる。
品質改善を全部門で展開したいが、まだ未達成の組織においては、成功ポイントを参考に、業務品質改善を含めた品質改善を全社で継続的に推進している状態を目指してほしい。
生産革新コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
製造業を中心としたコンサルティングを行なっている。「品質保証システム監査支援(国内及び海外工場)」、「品質管理基礎研修および改善実践研修支援」、「工程管理に関する改善支援」を主な支援領域としている。品質保証システム監査支援では品質保証方式の妥当性を詳細に点検しており、自動車部品、金属、化粧品の製造工場において支援実績がある。
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