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オムニチャネル成功の鍵

第6回 オムニバイシクルモデルの実際 ①Omni‐CRM(顧客起点のCRM) 推進ポイント

小河原 光司

 前回は、「オムニバイシクルモデル」の7つの要素の1つであり、個客とのコミュニケーションのあり方を検討する領域としての「Omni-CRM(顧客起点のCRM)」の考え方と、これまでのCRMとの違いについて説明をしました。

 本稿では、Omni-CRM(顧客起点のCRM)を推進していくためのポイントを説明します。

顧客情報からユーザー情報へ

 前回の最後に、これまでのCRMで活用する情報は企業が発信したい情報であり、一方「Omni-CRM(顧客起点のCRM)」は顧客の行動や感情が動くタイミングで必要とされる情報である、ということを説明しました。それでは、これまでのCRMは、なぜ顧客の行動や感情が動くタイミングで必要とされる情報を提供してこなかったのでしょうか。

 その理由は、顧客行動に関する情報が現在ほど取得できなかったためです。逆に言うと、現在は顧客行動に関して取得できる情報が飛躍的に拡大しているということです。Omni-CRM(顧客起点のCRM)を推進する際は、顧客行動や感情を理解するための顧客行動情報の活用がポイントとなります。

 それでは顧客情報、すなわち「パーソナルデータ」には、どのような情報種別があるのかを見てみましょう。「パーソナルデータ」を理解するうえで大切な区分が「顧客」と「ユーザー」の違いです。

 「顧客」とは、自社商品・サービスを購買したことがある人、すなわち「既存顧客」に当たる属性を有する人です。

 一方、「ユーザー」とは自社商品・サービスの購買する可能性がある人、すなわち「潜在顧客」に当たる属性を有する人です。あえて「潜在顧客」と呼ばず、「ユーザー」という名称にしている理由は、企業側で設定した対象顧客という層だけではなく、「潜在顧客となり得る対象属性そのものも洞察、抽出する」という側面も含んだ情報ということで「パーソナルデータ」と読んでいます。

 これまで、One-to-Oneマーケティング活動に活用できるパーソナルデータは、「顧客情報」つまりは「実購入客の情報」だけでした。具体的には、販売実績、自社会員属性、そして、販売時の顧客属性(レジ通過時の性別や年齢層などの顧客情報)を参照情報として活用することで、顧客の属性を区分して顧客属性ごとに企業が必要な情報を発信するというプロセスを経ていました。

 情報技術が進展して、現在では取得できる「パーソナルデータ」は、大きくその範囲を拡大させており、購入客「顧客情報」だけでなく、メールアドレス情報、ソージャルメディア情報、スマホアプリ情報、Cookie情報、といった各種の「ユーザー情報」を取得することができるのです。

 上記に基づいて、Omni-CRM(顧客起点のCRM)を推進するための「パーソナルデータ」をまとめてみると、下図のようになります。

col_ogawara_06_01.png

顧客

・購入者情報......購入商品情報、会員属性情報、購買履歴、商品利用履歴など(DM・チラシ・接客)

ユーザー

・メールアドレス情報......メール開封履歴、クリック履歴など(Eメール)
・ソーシャルメディア情報......ソーシャルメディアログ、「いいね」情報など(ソーシャルメディア)
・スマホアプリ情報......位置情報、アプリ利用履歴(プッシュ通知)
・Cookie情報......アクセスログなど(オンライン広告)

 このユーザー情報を取得し、顧客行動や感情を分析することで、これまでのCRMにおいて主要なプロモーション手段であった「DM・チラシ」という方法論だけではなく、ユーザーの求めるタイミングで求める情報を必要な情報提供チャネルを活用して提供することができるのです。

AIDMA→AISAS→ARASLを基軸とした顧客購買行動へ

 ここまでにOmni-CRM(顧客起点のCRM)を駆動される駆動装置としての「パーソナル情報」について、「顧客」情報と「ユーザー」情報の違いを示しました。さらに、Omni-CRM(顧客起点のCRM)において、ユーザー情報を高度活用することで、顧客への行動・感情に対してアプローチをすることが可能になることも説明しました。

 それでは、このような「ユーザー情報」を活用するために、どのようにして「顧客の行動プロセス」を洞察すれはよいのでしょうか。そのような「顧客行動プロセス」を分析・モデリングするための考え方やコンセプトはないのでしょうか。

AIDMAモデル

 これまで「顧客購買行動」のモデルとして、AIDMAというモデルによる顧客の購買プロセスの理解と洞察が広く活用されてきました。顧客が実購買に至るまでのプロセスとしてAIDMA、すなわち、
 Attention(認知)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購買・利用)
という行動・感情のフローで購買がなされるというものです。

 しかしながら、インターネットの発展やスマホの発達により、顧客の購買行動に対して、これまでのモデルであるAIDMAという購買行動だけでは説明できなくなってきました。

AISASモデル

 インターネットの普及で情報獲得量の増大と獲得コストの飛躍的な低減により、AIDMAから発展した第2世代の購買行動のモデルである、AISASという顧客行動モデルによる顧客理解が求められるようになりました。

 AISASとは、
 Attention(認知)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(購買・利用)→Share(共有)
という顧客購買プロセスです。

 その特徴は、「Interest(興味)」の後に、PCを活用した商品・サービスに対する必要情報の収集による比較検討プロセスである「Search(検索)」というプロセスが加わること、Action(購買・利用)の後に、商品・サービスの購入後の内容や感想をメディアに投稿し、その情報を不特定多数の人と共有化する「Share(共有)」というプロセスが行われる、という点にあります。

 情報の量的拡大、情報検索性の向上、情報獲得コストの低減により、興味がある商品・サービスに対して購買前に行われる「比較検討」が容易となり、その重要度も増しています。そして「比較検討」を行う判断基準として、商品・サービスを実際に購入した人がWeb上に公開した評価や感想など、すなわち公開され共有化された「クチコミ内容」や「クチコミ評価点」が、購買意思決定に大きな影響力を与えることとなりました。

 消費者の購買意思決定プロセスで、比較検討情報の質量双方の拡大、不特定多数の使用結果および評価結果情報の閲覧手段の一般化という視点を重視し、購買プロセスを理解すべきである、という主張がAISASモデルのポイントです。

ARASLモデル

 現在、スマートフォン所有者が飛躍的に拡大したことに伴い、AISASから発展した第3世代の購買行動のモデルであるARASLという購買行動モデルによる顧客理解とその購買意思決定プロセスも進化を遂げています。

 ALASLとは、
 Attention(認知)→Reach(送客)→Action(購買・利用)→Share(共有)→Loyal(再利用)
という顧客購買プロセスです。

 その特徴は所有者の位置情報が認識できるスマートフォンの特徴を活かし、必要な情報を必要なタイミングでスマートフォンに提供し、リアル店舗へと誘引するという「Reach(送客)」と、商品・サービスの購入後の内容や感想をメディアに投稿し、その情報を不特定多数の人と共有化する「Share(共有)」した後のプロセスにおいて、Shareする情報コミュニティーを形成させるプロセスである「Loyal(再利用)」というプロセスが行われるという点にあります。

 第3世代のARASLは、消費者の外出行動におけるスマートフォン所有と外出時の携帯を前提としています。消費者は、いつでもどこでもスマートフォンを利用して情報アクセスや情報受信ができるようになっています。こうした環境変化に対して、企業サイドがアプリの位置情報とプッシュ通知利用を前提として、アプリ利用者である潜在顧客となり得るユーザーに対して、必要な情報を必要なタイミングで提供し、店舗へと誘引させることが「Reach(送客)」の特徴です。

 そして、「Loyal(再利用)」とは、AISASにおける「Share(共有)」を発展させたものです。『使用後の商品購入・サービス購入を実際にした人がその評価や感想をWeb上に公開する情報』を企業サイドが「主体的にコントロールし、2次利用すること」がそのポイントとなります。

 「Share(共有)」は顧客が自由にその評価をWeb上で共有化するのに対して、「Loyal(再利用)」は、顧客が自社商品の評価を企業が管理するコミュニティー上にアップしてもらうことにより、 ・アップされた情報そのものに対する信頼性を担保すること(さくらによる書込みの排除、クチコミ評価の精査) ・商品に対して双方向のコミュニケーションを行うこと(ネガティブ情報に関しても好意的に反応が可能) ・ファン商品に対する企業からの好意的な反応と使用者間のファンコミュニティーの場を提供すること(ファンの間での情報交換、こだわりを伝えたい、言いたい場の提供) ・商品開発に対する2次情報確保の場、テストマーケティングの場としての利用すること(本音の意見や改善提案を取り上げ、次期開発への活用) を実現させ、使用後の「評価」情報を企業として積極的に活用するという点に留意する必要があります。

 第2世代のAISASでは、1人称、すなわち「自ら」が必要な情報を探索、収集、評価、拡散しているのに対して、第3世代のALASLでは、AISASで探索、収集、評価、拡散していた情報を、「企業サイド」が「主体的にコントロール・2次利用」することで、企業にとってより必要なメッセージを必要なタイミングで提供し、必要な情報をフィードバックできようになったと言えます。これらの変遷を下図に整理しておきます。

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 次回はこのARASLモデルを利用して、統合的な購買行動プロセスを実現している企業の事例を紹介し、ARASLへの理解を深めていきたいと思います。

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