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オムニチャネル成功の鍵

第3回 オムニチャネルを推進するための基本フレームワーク その1

小河原 光司

 本コラムでは、オムニチャネル成功の鍵と題して、オムニチャネル推進に向け取り組むべき内容とそのポイントについて説明をしています。

 第1回と第2回では「オムニチャネル化の大きな波」と題して、オムニチャネルとは何か、また、オムニチャネル化がなぜ求められているのかについて説明しました。

 今回から「オムニチャネルを推進するための基本フレームワーク」と題して、オムニチャネルを具体的に推進していくための基本的なフレームワークに関して説明します。

オムニチャネルを推進するための3つのポイント

 前回までの振り返りになりますが、オムニチャネルとは、
「実店舗、通販カタログ、ダイレクトメール、オンライン店舗(ECサイト)、モバイルサイト、SNS、コールセンターなど、複数の販売チャネルや顧客接点を有機的に連携させ、顧客の購買意欲の喚起、比較検討の情報提供といった利便性を高め、多様な購買機会を創出すること」

と定義できます。

 この定義の中には、実はオムニチャネルの推進に向けたポイントが隠されています。そのポイントは、以下の3点に整理することができます。

One-to-One

 1つ目のポイントは、「One-to-One」という点です。

 これまでは、ユーザーを個々の「個客」ではなく、集合体としての「顧客」として捉えていました。携帯端末をはじめとした情報機器の発達、ビッグデータを活用した情報分析の高度化により、顧客は『ある属性を有した"集合体"としての顧客』ではなく、『1人ひとりの"個客"』として認識され、「個客」という単位で購買喚起を行うことへと変化します。これが、「One-to-One」への動きです。

 しかしながら、みなさんの中には「One-to-One」のコンセプトは理解したが、1人ひとりに対応することは莫大なコストが掛かり、とても実現できるものではない、と考える方も多いのではないでしょうか。

 「One-to-One」を理解する際に留意してほしい点は、『顧客を「個客」として扱う』ことと『1人ひとりを個別に扱う』ことは異なるということです。わかりにくいかもしれませんので、具体例をあげてみます。

 ある商品Aの販売で100人にプロモーションをするとします。その際に100通りのプロモーションをする必要はない、ということです。100人の個人それぞれが、「自分に向けたプロモーションである」と認識できれば、極端な場合、1通りのプロモーションだけでも構わない、ということです。

 つまり、情報を受信した「個客」が自分に向けた情報発信である、ということを認識するかどうかが重要なのであり、全個人にカスタマイズした情報発信することではない、ということです。

 「One-to-One」とは、自分に向けた情報発信であると認知させるための、情報の送受信の仕組みと言えます。

コミュニケーション

 2つ目のポイントは、「コミュニケーション」という点です。

 オムニチャネル化以前は、基本的には発信者サイドからの「プッシュ型」および「単発」の情報発信となっていました。新製品が発売されれば、プッシュ型のマス広告を発売日前後に打つことで需要を喚起していました。この流れも大きく変化しようとしています。

 オムニチャネル化時代においては、発信者サイドからの「プッシュ型」および「単発」の情報発信だけではなく、受信者サイドからの「プル情報」を発信者が受信し、「返信する」という「双方向型」および「継続」の情報交換、すなわち「コミュニケーション」が求められます。

 これまでの店舗やマス広告を基軸とした情報提供から、SNSなどのアーンドメディアの発達により、コミュニケーションチャネルが大きく拡大し、多様なチャネルでの情報提供が可能になりました。それも、ただ単に拡大しただけではなく、情報流通の質量の増大のみならず、その情報拡散速度も飛躍的に高まっており、ヒト(法人/個人双方)間のネットワーク化がなされています。

 このネットワークを活用した、単発・プッシュ型の情報提供ではない、継続的・双方向型のコミュニケーションが求められており、顧客とのコミュニケーションプロセスの設計はオムニチャネルを推進するうえでは必須となります。

クロスチャネル(オンライン/オフライン)

 最後のポイントは、「クロスチャネル(オンライン/オフライン)」という点です。

 ユーザーをマスではなく、「One」=個客として理解し、その「One」に対して継続的なコミュニケーションをとることがポイントである、とこれまで説明してきました。

 そのうえで最後に必要となるポイントは、「クロスチャネル(オンライン/オフライン)」、すなわち「クロスチャネルで購買体験を提供する」ことです。

 このポイントそのものがまさにオムニチャネルということになるのですが、ここで説明しておきたい点は、「ただ単にクロスチャネルで商品を提供すればよい」わけではない、ということです。重要なことは、「購買体験を提供する」という点です。購買体験とは、商品を買うという「購買」行為だけではなく、購買前のニーズ喚起や情報収集、比較検討、商品の持ち帰りや配送、購買から商品開始までのリードタイム、購買後の実使用時の評価・フィードバックといった、一連の購買に関わるプロセス全体をクロスチャネルで最適化させることに他なりません。

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オムニチャネルの推進は足し算ではなく掛け算で

 本稿ではオムニチャネルを推進する際の3つのポイントを見てきました。この3つの推進ポイントに関して、筆者は「これは『足し算』ではなく『掛け算』です」とよく申し上げます。その理由は、それぞれが独立した要素ではなく、相互連関した要素だからです。

 3つの要素のうち、どれかの要素だけを強化しても、結果としてオムニチャネルの推進はうまくいきません。それぞれが単独の要素ではなく、相互に強く関係していることを踏まえ、個別最適ではなく、全体最適としてオムニチャネルへの取組みを設計し、要素間を整合させる必要があります。

 次回は、上記3つのポイントの整合性を図りながら、より具体的に検討するための枠組みを提示します。

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