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プロセス製造業におけるSCM改革のすすめ

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茂木 龍哉

jmaceyes_mogi_01p.jpg プロセス製造業で常に頭を悩ませているのが「在庫」問題です。最終製品の用途や消費量などがわかりにくく、需要変動や仕様変更への対応も難しいので、結果として滞留在庫や過剰在庫などのロスが多く発生するのです。

 この問題を解決するには、SCM(サプライチェーンマネジメント)視点での改革が必要不可欠となります。

プロセス製造業にSCM改革が必要である理由

 サプライチェーンは30年ほど前に米国で使われ始めた言葉です。当初は食品業界とアパレル業界で注目されていました。その理由としては、食品業界では消費期限があり過剰製造を行うと廃棄が発生しやすいこと、一方、アパレル業界は商慣習的に1シーズン分をまとめてつくることが多く、売れ残りが生じるなどの悩みがあったからです。

 在庫を減らすためには「ユーザーが望んでいることを把握し、調達→生産→物流→流通→販売」という流れをしっかりと繋いで共有する必要があります。しかし、原料サプライヤーや中間品メーカーなど、プロセス製造業工程の一部を担う企業の多くは、最終製品の用途や消費量などの情報が手に入らないので需要変動や仕様変更への対応が難しいのです。結果として、過剰在庫や輸配送コストの増大などのロスがどうしても生じてしまうのです。

 だからこそ、自社だけではなくサプライチェーン全体の視点で考えなければなりません。これからはエンドユーザーに近い下流の情報を把握して、その変化に対して迅速に対応できる生産管理と在庫管理を行うことが重要です。需要特性に応じて、需要予測と販売計画精度の向上、生産ロットサイズの適正化、政策在庫の持ち方など、さまざまな対策を練りながら改革に取り組むのです。その際に、個々の工程だけを見ても改革はできません。視野を広げて、サプライチェーン全体を見ながら、何が問題でどう改革をする必要があるのかを考えることがキーポイントとなります。

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適正在庫の実現は5つのステップで進める

 ここではプロセス製造業での適正在庫、在庫削減を考えてみましょう。その手順は5つのステップに分けることができます。このステップを踏むことで、適正な在庫の量を算出し、ムダな在庫を削減することができるのです。

 まず、ステップ1です。ここでは、在庫マップを作成(現状在庫の全体像把握と対象重点化)します。在庫マップでは、どんな特性の在庫が、どのくらいの金額・量・月数保持しているのかを明確にし、削減の重点モデルを選定します。

 ステップ2では適正在庫を算出します(現状在庫の構造化ともいう)。在庫構造(在庫区分)の設計と在庫区分別のキーファクターとなる変数情報を収集していきます。

 そして

 ステップ3で現状在庫と適正在庫のギャップ分析(在庫発生要因の解析)を行います。目標とする在庫構造を実現するために、在庫が発生する要因を追求し、分類します。

 次のステップ4では、いよいよ目標在庫達成に向けた改革テーマを抽出します。どのような改革が必要なのか、具体的な改革案を抽出するのです。効果が大きく実現が可能となる案を、目標在庫を達成するためのテーマとして設定します。

 最後にステップ5で目標在庫のシミュレーションを実施します。設定した基準在庫に対して、実際の需要を付き合わせ、在庫推移や欠品のシミュレーションを行うのです。これで目標在庫に到達したかどうかなどを検証するのです。

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プロセス製造業の問題点を顕在化する

 こうしたステップを踏んで改革に取り組むわけですが、ここでプロセス製造業が抱える問題点もおさらいしておきましょう。これらを5つに整理しましたので、ざっと解説しておきます。

1.原価に占める設備コスト比率が高く、操業度管理が第一優先となりがち

 プロセス製造業では原価に占める設備コストの割合が高くなっています。そのため、操業度を高めて数量当たりの原価を低くする傾向があります。ただ、この手法では供給過多になりがちで、在庫増のリスクが高まるのです。

2.最終仕様・用途が見えにくい

 プロセス製造業はサプライチェーンの上流に位置することが多く、末端ユーザーの実需要を把握しにくい状況にあります。とくに素材や化学品などは用途が多岐にわたるので、需要の変化を把握しにくいのです。結果として市場の変化への対応が遅れてしまい、死蔵在庫や過剰在庫が発生するケースが多くなるのです。

3.品種の切替えに時間がかかるため、まとめ生産となりがち

 プロセス製造業では大きな釜やタンクなどを設備として利用しています。品種の切替えを行う際には、それらの設備を洗浄しなければなりません。そのような時間が少しでも発生しないように、まとめて生産するようになってしまい、結果として生産ロット数が大きくなり在庫が増加するのです。

4.設備能力のフレキシビリティーが低い

 プロセス製造業では設備能力で全体の生産能力が決まります。そのため、需要が設備能力を上回ると外注するか先行して見込み生産を行うことで在庫を確保することになります。また、生産工程のボトルネックとなる部分で使用している設備に故障やメンテナンスが発生した場合にも、その期間分の在庫を保有しなければなりません。その結果、どうしても在庫リスクが高まってしまいます。

5.中間品・仕掛り品の見える化が進んでいない

jmaceyes_mogi_02p.jpg プロセス製造業では原材料から複数の工程を経て製品化されます。その工程間で発生する中間品については、規格外の製品や検査待ちの仕掛りが発生します。その結果、どの工程でどれくらいの在庫が発生しているのかを把握するのが難しいのです。さらに、規格外となった中間品などは一部を原材料として再投入することもあるため、結果としてグロスの管理となってしまうケースが多くなります。

 以上の問題に加えて、在庫が過剰にあることにより本質的な問題が潜在化してしまい、問題解決が進まないことが挙げられる。在庫の削減を意識することからスタートすると、改善すべき本当の問題が見えてくるはずです。

SCM改革の対象範囲を明確にする

 まずSCM改革をするときに、対象範囲をどうするかを考える必要があります。一般的には、次の2つになります。

広義(エクステンディッド・サプライチェーン)

 原材料の調達から製品の生産、そして小売店などに納品するまでの一連の流れに関与する企業全体を対象範囲とすします。ただし、現実問題として他企業の工程まで改革の領域に含めることは難しくなっています。

狭義(インターナル・サプライチェーン)

 自社の組織内に着目して、需要予測から調達・生産・出荷までに関連する組織を統合的に捉え、一貫した情報とものの流れをマネジメントし、広義のサプライチェーンマネジメントへの組み基盤の確立を目指します。

 ユーザーの先にいるユーザーまでの情報を入手して、サプライチェーンのどこにアタックポイント(重要活動先)があるのか、自社がどの位置付けにあるのか、そもそも自社の製品はどのような人に使われているのか、それらを見える化することが重要です。

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SCM改革に必要な5つの視点とは

 実際にSCM改革を推進していくうえで重要になるのは、次の5つの視点による設計や仕組みです。今回はそのポイントと<キーワード>を紹介しておきます。

1.事業や企業の特性に合わせた機能のあるべき姿の設計

 プロセス製造業では設備制約や生産制約なども1つの特性と捉えます。それらを十分に考慮したうえで、生産部門と営業部門が共同で在庫計画を立案していきます。こうして品目別・工程別に基準在庫を設定して、計画的な生産を実現することが得策です。

<キーワード>
・機能の役割や強さ・責任の大きさなどの最適化
・機能同士の連携による最適化の構築(手段・タイミング・役割設定)
・ストックポイントと適正基準在庫の設定

2.仕組みだけではなく組織の責任と役割分担の設計

 プロセス製造業では生産部門が主体になって運用するケースが多いので、そうした場合には生産効率や物流効率を重視したサプライチェーン改革などが可能です。一方で、市場や顧客の状況が考慮されない危険性もあります。また、営業部門が主体の場合、前述とは反対のメリットとデメリットが発生し、それも問題が多いと言えます。理想は専門のSCM部門を設置して必要な権限と責任を持たせたうえで、全体最適の視点で客観的に評価することです。

<キーワード>
・改革の目的に添った組織設計
・権限およびそれに伴う責任体系の明確化と線引き
・設定した権限・責任が実際に機能する運用形態の構築

3.変化を明確につかむための評価指標の設定

 権限と責任を持ったSCM部門はもちろんのこと、営業や生産などの各部門についても、KPIなどの明確に評価できる指標が必要になります。指標を用いて定期的に評価すれば良い部分や悪い部分も見つかります。ただし、単なる結果や事後評価ではなく、実行プロセスや将来性などの観点も織り込みながら評価することが重要です。

<キーワード>
・利益計画との連動
・KPI体系化・目標管理

4.需要予測の精度向上が全ての原点

 たとえば、各工程で多少の余裕を持たせようと少し多めに製造した場合、サプライヤーの段階で大きなブレが生じることがあります。このような現象を「ブルウィップ効果」と言いますが、この効果を低減させて過剰な在庫の保有を抑制するには、数量を決定する情報の見える化・一元化が必要です。

<キーワード>
・需要予測の役割の明確化
・内外の情報を幅広く収集
・数量決定の一元化



5.変化に柔軟に対応する仕組み

 需要予測のブレは常に発生します。設備的制約が大きいプロセス製造業の場合、予想のブレに合わせてフレキシブルに対応することは難しいのです。そのため、いつまでにどの程度の変更であれば調整が可能なのか、そのルールを明確にし、対応が可能か不可能かの判断を迅速に下せるようにしておかなければなりません。

<キーワード>
・需要予測・生産予測など「予測に誤差が生じた」場合にリカバリーする仕組みの構築
・アクセル&ブレーキ

 以上の5つの視点をベースとして、JMACでは数多くのSCM改革プロジェクトをお手伝いしてきました。SCM改革について、さらに詳しい情報や支援のご要望などがありましたら、ぜひお問い合わせください。

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