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ジェネラルインテリジェンスのある経営リーダーを育成する

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亀ケ森 昌之

今必要なのはスペシャリストをまとめ上げる全体的な視野

_MG_1754.jpg ビジネスプロセスの中で必要とされる知識や能力は多岐にわたります。したがってそれに応じて企業人は目的に適した専門知識を学ぶことが要求されます。さらにそのことは、各人が得意分野として高いスペシャリティを持ち、自分の強みとして組織にアピールすることにつながる期待感もあります。

 こうしたニーズに応えるように、企業研修をビジネスにする業界においても、研修テーマを細分化することで、スペシャリティ化を図ってきました。特化した内容をわかりやすく扱いやすくして、また学習した成果のレベルが評価できるように検定試験や評価基準、クライテリアを整備してきました。

 一方で、今はビジネスの実務課題はますます複雑になってきました。問題解決には、多様なスペシャリティを駆使しながら立ち向かう必要があります。そのためにはスペシャリティばかりではなく、全体的な視野から俯瞰して、解決のフレームワークやシナリオをつくり上げる企画力と、実現するまでのマネジメントやプロジェクト推進能力も重要です。

 昔から「鳥の眼・虫の眼」の比喩で語られる、視野の広さと知識の深さの両面が、さらに要求されるのです。

部門ローテーションによる育成ではもはや通用しない時代

 その中で、最近の企業でも、どちらかといえばスペシャリティが強調されてきた傾向があります。低成長経済の流動的な雇用環境においては、企業側も課題に応じて即戦力になる専門スキル型の人材を望みますし、雇用される側も何がしかの得意分野を身につけようとしているようです。

 経営コンサルタントとしてクライアントから課題解決プロジェクトの支援を依頼されますが、担当のプロジェクトマネジャーの方は、その分野での課題解決の腕を期待されて新たに転職してきた人物である例をよく見かけるようになりました。まさに課題に応じて人材を選択する時代です。現実にはその会社の風土や、予期せぬ波及効果で戸惑うこともよくあるようです。

 このような環境変化の中で、課題解決のためのもう片側である「全体感を持った経営リーダー」をどのように育成するかは、経営者や人事担当者の新たな問題になってきました。過去の日本企業にあった、各部門を3〜4年でローテーションをしていくようなジェネラリスト型の管理者育成と、ポスト不足解消のための形だけの専門職制度はすでに終わりつつあります。徐々に経験を積む一方で、「速習」による育成も必要になってきたのです。

 では具体的に幅の広い視野を持った経営リーダー人材とはどういったもので、それを生み出すシステムはどう考えればよいのでしょうか?

ジェネラルインテリジェンスの時代

 最近、医療分野でのプライマリケアの重要性を担う総合診療医や、大学での産学マッチングを企画するリエゾンオフィス、特許開発を引き出すパテントリエゾンマンなど、スペシャリティ部門におけるジェネラルインテリジェンスが注目されています。これは日本企業に昔からいたジェネラリストという名称の、俗にいう文系の管理者や経営者の能力ではありません。今求められているのは、自社内の限られた知識ではなく、世間一般の多様なインテリジェンスと自社のスペシャリティを理解したうえで、自らの創造性とパフォーマンスを発揮して課題解決できるタレント(ジェネラルインテリジェンス)なのです。

 こうした傾向は企業内でも同じです。前述したように、企業の課題解決にはさまざまな専門知識を前提に、解決シナリオの企画と実行推進力が要求されます。そのために上級マネジャーや企画推進者には、問題の複雑さに耐えうる豊富な知識、複数の行動プランが提案できる創造力、そして実施状況を着実にモニターして修正する認知能力が求められます。これは単にスペシャリティが高いだけや、マネジメント能力が高いだけでは困難な仕事です。全体感(パースペクティブ)が要求される高度な業務なのです。まさに企業のマネジャーの中にも、ジェネラルインテリジェンスを持ったタレントが要求されている時代になったといえます。

 優秀なタレントを育成する必要性を感じる場面は、新規事業展開のプロマネをはじめ、グローバル拠点のマネジメント、M&Aによる構造転換の推進など多々あります。つまり「不確実性の高い状況への対応力」が求められる場面で、タレントの必要性が顕著となり、実際にこうした目的での人材育成の相談を受けることが多くなっています。

能力コンポーネントの開発プロセスが人を成長させる

_MG_1777.jpg 今私たちが取り組んでいる育成プログラムは、これまでのマネジメントや問題解決手法の寄せ集め的なプログラムではありません。広い知識をつなぎあわせて、問題状況に対して全体感(パースペクティブ)や位置づけ感(プレイシング)および脈絡感(コンテクスト)を意識しながら、解決を図るデザインコンセプトを持った内容です。参加者には「わかる」ことの快感と納得が得られるように工夫しています。

 一般的なマネジャー研修は、ロジカルシンキング、発想法、コミュニケーション、コーチング、チームビルディングなどを織り交ぜ、実際の課題に取り組む問題解決型のものが定番です。しかしこれだけでは形は良くても実際の解決策に広がりがなくそれぞれの手法内にとどまって、こじんまりとしてしまうのです。ビジネススキルやフレームワークだけを覚えても、基礎となる知識や情報が欠けていると、より良い成果には結びつかないのです。さらにその後も継続的に自己学習する流れを身につけ、一過性で終わらない成長システムをつくり上げなければなりません。

 新しいプログラムでは、まず参加者に必要なビジネスインテリジェンスを記憶してもらう「知識コンポーネント」の開発から始めてもらいます。ストラテジー、マーケティング、イノベーション、プロダクション、ファイナンスなどのポイントになる知識について、つながりのある速習教材を活用して取り込みます。これは知識の全体感や分類感をつくり上げ、引き出しづくりを行なう段階です。ここではより深く教養的なリベラルアーツまで踏み込みます。

 そのうえで課題テーマの解決についてチームによる議論を継続させながら「パフォーマンスコンポーネント」を開発していきます。この段階では知識をつなぎ合わせ総合化することにより、解決シナリオを生み出すことを経験します。これらを通じて課題に対するコントロールセンスを養ってもらいます。

 並行して、自らの能力をセルフマネジメントして向上していくための「メタ認知コンポーネント」を開発していきます。これは常に客観的な自分をモニタリングして意識できるように、ブログなどによる気づきとつぶやきの書込みを中心とした内容で、自分で自己課題が整理できるようになることを目指したものです。メタ認知コンポーネントはこのプログラムの重要な位置づけを担うものであり、気づきの書込みのほかにも、メタ認知能力を上げるための仲間同士の交流と教え合い、学習既知感の判断テストや個別カウンセリングも用意されています。

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 このような「場」づくりはとくに重要です。自分が選ばれたと自負できる場、学習を共有し合える場、自己の成長度合いを確認できる場などが学習意欲や継続性を左右するからです。ある大手の企業で5ヵ月の短期間で育成と課題実行までを支援したときの実例です。専用のクローズドなサイトを用意して「場」を設定してみました。メンバー同士は月1回しか集まる機会がない中、年齢層や部署も違うメンバーがこの「場」を活用することで仲間意識、目的の共有感が醸成され、刺激を与え合うことができました。

 こうしたプログラムや仕組みはメタ認知科学における知能研究をベースに、自己調整学習を取り入れたものです。この3つのコンポーネントは、知識の体系とその総合化および自己成長の学び方を習得するものであり、それらで構成されたプログラムがジェネラルインテリジェンスのあるマネジャーを生み出すことを可能にします。ある一面では、経営リーダーを目指すいわゆるエリート集団をつくり上げるプログラムに位置づけられるはずです。これこそが、優れた知的技能を身につけて的確に役割を行使できて、さらに人間的魅力にあふれ強い使命感を持った経営リーダーを育成するプログラムといえます。

経験積上げ型からコンポーネント開発型へ

 不確実性の高い今の企業環境では、単なるマネジメントスキルの高い調整型のリーダーだけでは通用しません。一定水準の幅広い知識と自らパフォーマンスを発揮できるジェネラルインテリジェンスの高いリーダーが必要なのです。その育成にはこれまで日本企業で行われた経験積上げ型(たとえばジョブローテーション)だけでは不可能でしょう。各人が知識と学習による自己成長のフレームワークを身につけられる人材育成プログラムを提供しなればなりません。単にスペシャリストの知恵を束ねるだけではなく、それらを理解したうえで自らの創造性とパフォーマンスを発揮できる経営リーダーが望まれているからです。

 人材育成プログラムはビジネススキル手法の寄せ集めでは、もはや機能しないでしょう。個人の能力コンポーネントの開発に意識を向ける新たな転換期を迎えたといえます。

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