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「実践できる人」を増やす! 全社員を巻き込むDX人財育成

事例

2026.07.05

森永乳業株式会社

DX人財育成に取り組んだメンバーとその受講者。森永乳業の本社会議室にて

森永乳業株式会社

1917年創業。東京都港区に本社を置き、「森永おいしい牛乳」「ビヒダスヨーグルト」「マウントレーニア」など牛乳・乳製品・飲料などの研究開発・製造販売を行う食品メーカー。国内外で事業を展開。

    


DXは重要な経営課題である一方、「自分の仕事とどう関わるのかわからない」という現場の声も少なくない。そうした中、全社員を対象とした4段階のDX人財育成体系を構築し、実践を通じて成果を生み出す育成活動を進める森永乳業に、その全体像と現場の変化について聞いた。

森永乳業の課題

「DX人財」不足/デジタル活用の属人化/DXの浸透不足

 森永乳業が10年先を見据えた「グループ10年ビジョン」は2019年に制定され、2024年には、ビジョン達成に向けた「DXロードマップ」が策定された。DX人財育成に本格的に踏み出した背景には、「このロードマップを推し進めるには、それを後押しする施策が必要」という考えがあったと、デジタル経営推進部の浅倉玲奈さんは振り返る。

 「システムを導入しただけでは、現場は変わらない。ビジョンを達成するためのDXは従来の人財育成研修だけではなく、全社で盛り上げる仕組みがないと、ロードマップは絵に描いた餅になってしまうと感じていました」(浅倉さん)

デジタル経営推進部 DX推進グループ・浅倉玲奈さん

 当時、社内にはデジタル活用の芽は存在していた。ITや業務改善に関心のある社員が個別にツールを使い小さな改善を行っていた。だが、会社として横に広げる仕組みがなく、局所的な取り組みにとどまっていた。その結果として浮かび上がったのが、「できる人に頼る構造」だった。

 「ITに詳しい人がひとりいると、そこに仕事が集中していく。『電源が入らない』『このファイルはどうしたらいいのか』といったことまで、できる人の負担がどんどん増えていく。一方で、DX推進にやる気のある人へのサポートはない状態でした」と、同部の蜂谷修平さんは言う。現場を支えていたのは、制度ではなく個人の努力だった。だがそれは、長く続けられる仕組みではない。

 「簡単なことだけでも自分でできる人を増やさないと、DX推進は進まないと感じていました」(蜂谷さん)

 こうした状況を変えるために選んだのが、「全員参加型」のDX人財育成だった。

デジタル経営推進部 DX推進グループ・蜂谷修平さん

全社員から始める4段階の育成体系

 森永乳業のDX人財育成は、Entry、Member、Leader、Creatorの4段階で設計されている。特徴的なのは、出発点となるEntryを全社員対象とした点だ。DXを一部の専門人財だけのものにせず、全社員に入り口を用意しながら、意欲と実践力に応じて段階的に育てていく。効率だけを考えれば、意欲の高い人財を選抜し、重点的に育成したほうが速い。実際、多くの企業では、推進役や選抜メンバーに集中投資するやり方が採られがちだ。だがあえてそうしなかった。

DX人財の段階別定義と育成目標

DX人財の段階別定義と育成目標

「社内にはモチベーションの高い人もいれば、ITに苦手意識がある人もいます。誰ひとり、取りこぼさない、苦手な人も含めて全員が最低限のラインに立てるような教育プログラムを目指しました」(浅倉さん)

 背景にあったのは、「DXを他人事にさせない」という考えだ。

「詳しい人にすべて任せてしまう状態を脱して、まずは簡単なトラブルくらいは自分で対応できるようになってほしい。触らず嫌いの人も多いので、まずは触ってみて、どんな小さなことでもいいから自分にもできると感じてもらいたい。そのためEntryは全員を対象にして、誰もが最初の成功体験を持てるようにしました。DXを一部の専門人財が行う特別なものではなく、自分の業務と関係のあるもの、日常業務の延長線上にあるのだと理解してもらうには、そこが最初の一歩だと考えました」(蜂谷さん)

アウトプット前提の実践型研修

 森永乳業のDX人財育成施策のもうひとつの特徴が、「実践型」にこだわった点だ。LeaderコースとCreatorコースでは単に知識を学ぶだけでなく、実際の業務課題をテーマにしながら手を動かして改善を形にすることを前提としている。

「ITに関する知識は、Eラーニングや動画教材を見るだけでも得られます。ただ、手を動かしてアウトプットしないと身につかない。学びが求められる能力になっているか受講者自身が確認するためにも、アウトプットは必須だと考えました」(浅倉さん)

知識提供型ではない実践型の研修

知識提供型ではない実践型の研修

 この設計には、心理的なハードルを下げる意図もあった。

 「Power Automateを用いて、PDFやExcelファイルへの電子押印作業を自動化したり、備品管理のアプリをつくったり、日々の業務のなかにある小さな不便を見つけ、それを改善する経験を積み重ねる。この小さな成功体験がDXを遠い存在ではなく、身近なものにするために重要だと考えています」(蜂谷さん)

各コースの教育方法

各コースの教育方法

 実際に実践型研修を受けた社員や現場には、どのような変化が起きているのか。「ITへの苦手意識を払拭しようと考えて」Leaderコースを受講した、東京支社食品素材販売部の長谷川真由美さんは次のように話す。

 「受講前はRPAをやったことがあったので、それがDXだと漠然と思っていました。でも受講してみると、それはあくまで手段であって、本当に大事なのは業務そのものをどう変えるかだと気づきました」

東京支社 食品素材販売部・長谷川真由美さん

 長谷川さんが取り組んだのは、営業現場に散在していた成功事例の集約だった。Excelやメールに分散していた情報を整理し、共有できる形に整えた。 「小さなことではありますが『使ってみたい』と言ってくれる人が出てきて、少しずつ支社内に広がっている感覚があります」

 Leaderコースを受講し、現在Creatorコースを受講中の営業企画部の白坂亜希子さんは、Leaderコースでデータの可視化に取り組んだ。社内に蓄積されていたデータをBI(ビジネスインテリジェンス)化し、必要な情報をすぐに確認できる仕組みを整えた。

 「今までは問い合わせがあるたびに集計していましたが、必要なときにすぐ見せられるようになりました。見た目は地味かもしれませんが、社内ではかなり大きな変化だったと思います」

営業企画部 戦略推進グループ・白坂亜希子さん

 こうした取り組みを通じて、受講者の意識そのものにも変化が生まれている。

 「ルーチン化した業務そのものを見直して、本当にやる意味があるのかを考えるようになりました。学んだことを後ろ盾に、自分がやりたいことを自信を持って進められるようになったのも大きな変化です」(白坂さん)

 長谷川さんも続ける。

 「会社としてDXを進める方針を理解できたことで、『これはやるべきことなんだ』と自信を持って支社に持ち帰ることができました。Leader研修の受講者として、私自身がインフルエンサーとなり社内のDX推進に貢献したいと思っています」

部門別に専門講師実務につながるDX

 森永乳業のDX人財育成プログラムでは、JMACの熊谷真がプロジェクトマネジャーとして取りまとめを行い、日本能率協会マネジメントセンターとJMACが階層ごとの教育内容にあわせてプログラムを設計した。特徴的なのが、LeaderコースとCreatorコースでは、営業、製造、研究開発、管理といった部門ごとの業務内容に即したプログラムになっている点だ。講師はデジタルツールに詳しいだけでなく、それぞれの部門業務や業界事情に精通したコンサルタントを配した。

プロジェクトを推進したコンサルタントチームのメンバーの一部
(左から山中、熊谷、丹羽、木原)

「現場の文化や意思決定のクセまで踏まえた支援が、受講者の変化をうながした」と、デジタル経営推進部の進野佑一さんは評価している。製造部門であれば、製造部門の〝あるある〟を踏まえて、営業であれば営業の現場感を踏まえてそれぞれ専門のコンサルタントが話をする。One on Oneで各受講者の課題や進捗に、個別対応も行っている。

支援体制

支援体制

 「JMACのコンサルタントから社外の事例を学ぶことで、これまでのやり方や社内の当たり前にとらわれがちだったことに気づけました。自社の常識を相対化することで、視野が広がりましたね」(白坂さん)

 現場で起きた小さな改善は、少しずつではあるが周囲にも広がっている。その変化を、デジタル経営推進部側も実感している。

 「DX人財育成は、挑戦し続ける組織風土の醸成にもつながっていると感じています。挑戦する人が増え、それが周囲にも良い刺激になっています」(浅倉さん)

 もっとも、取り組みはまだ途上にある。認定者数の拡大や認定後のフォローアップなど課題は多い。

 DXとは、単に新しい技術を導入することではない。現場の課題を見つけ、適切な手段を選び、改善を続ける人が増えてこそ、変革は組織に根づいていく。「システムを導入するだけでは、組織は変わりません。現場で使いこなし、成果につなげられる人を育てることが重要です」と、進野さんは強調する。DXを特別な人だけのものにしないという取り組みが、組織のあり方そのものを少しずつ変え始めている。

デジタル経営推進部 DX推進グループ・進野佑一さん

     

※本稿はJMAC発行の『Business Insights81号』からの転載です。
※記事内容に関しては、取材時(2026年4月)のものです。

担当コンサルタントからのひと言

中期経営計画でDX人財育成を掲げても、実務と連動した実践は想像以上に困難なものです。本プロジェクトでは、4段階の育成体系を構築。各部門の現場に精通した専門コンサルタントがOne on One方式で伴走し、単なるツール導入ではなく「競争優位のために業務をどう変えるか」というDXの本質を追求しました。地道に成功体験を積み重ね、自律的に挑戦し続ける組織へと変革を遂げた森永乳業の歩みは、DXを「自分事」として定着させたい企業の強力な指針となるでしょう。

熊谷 真

経営コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント

顧客接点部門(営業・サービス・小売・顧客接点支援・コールコンタクトセンター部門)における、働きがい向上、業務改革、サービス品質・生産性の向上、CS調査等をさまざまな業界において経験している。特に、 ES向上・働きがいがある職場作り、CSと効率を同時実現する業務改革に関するコンサルティング・研修の経験が深く、各研修においては、実務に即したプログラムと内容で評価をいただいている。

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