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AIがもたらす研究開発の変革を考える

コラム

2026.01.05

JMAC EYES

生成AIの普及により企業の研究開発においてもAIの利活用が進展している。そこで本稿では、企業の研究開発プロセスとその実行者である研究者の視点から、AIにより企業の研究開発現場にどのような変革が起こっているのか考えてみたい。

AIよる研究開発の変革とは

2010年代に起こったディープラーニングによるAI技術の革新以降、AIを研究開発で利活用する動きが進んでいる。この流れは2022年秋に公開された生成AIにより益々加速している。このような背景の中で、科学研究においては「AI for Science」という取り組みが進められている。

 文部科学省によれば「AI for Science」とは「AI技術を科学研究のあらゆる段階に適用し様々な分野で活用する取組とともに、AI研究、環境構築、人材育成、社会実装などを政策的に検討し、推進すること。(※1)」と示されている。この思想を企業活動にアナロジーすると以下に示すような研究開発プロセスにAIを利活用する取組みとも解釈できる

研究プロセス:価値の「種」を見つける

  1. 課題の特定:世の中や顧客の困りごとを探り、仮説を立案する。
  2. アイデア創出:課題を解決するための新しい商品やサービスを発想する。
  3. テーマ設定:具体的に「何をどこまで研究するか」の計画を立案する。
  4. 実験・検証:シミュレーションや実験を行い、研究テーマの裏付けをとる。
  5. 知財化:得られた成果を特許や論文としてまとめ、自社の武器にする。

開発プロセス:価値を「形」にする

  1. 試作:研究成果を実装し、実際に動くものを作る。
  2. ユーザー検証:試作品を顧客に触ってもらい、使い勝手や価値を確認する。
  3. 製品設計:検証結果を反映し、量産を見据えた最終的な設計を行う。

次に上記のプロセスに対して、どのようにAIが利活用されているのかを見て行きたい。

研究開発におけるAI利活用の現在位置

以下の表に先に紹介した研究開発プロセスに対するAIの利活用事例を紹介する。

研究開発プロセス AIの利活用例
1. 課題の特定 SNSや新聞記事などのテキストデータからAIにより顧客の声や社会課題を特定するシステムなど
2. アイデア創出 テキストデータとして表現された社会課題や顧客ニーズと任意の技術の接点を生成AIが見出して新たな事業機会を提案するシステムなど
3. テーマ設定 生成AIを活用して製品アイデアから機能を抽出して、それを実現する技術をwebやデータベースに蓄積された情報から探索するシステムなど
4. 実験・検証

AIとロボットを組み合わせて実験を自動化するシステムなど

5. 知財化

研究論文や実験ノートなどのテキスト化された研究成果の情報からAIを活用して発明要素の抽出を行い、特許出願の支援を行うシステムなど

6. 試作

過去の試作データから学習した機械学習モデルにより製造条件を設定することで、どのような試作ができるかをAIが予測し提示するシステムなど

7. ユーザー検証

深層学習を用いて、製品の使用性評価を行うシステムなど

8. 製品設計

機械部品のコンセプトデザインを人間同様に行う生成AIモデルなど


上記の事例は企業などの取組みを一般化して整理しているが、今回把握した範囲では研究開発の各プロセスにおいてはAIの利用が始まっているものの、プロセス全体をオーケストレーションするAIの利活用については、これからという印象をうける。この背景には、実際の企業活動ではその目的や事業環境、属人的な理由などにより様々な研究開発プロセスが存在しており、必ずしも画一的なプロセスで研究開発が進められていないこと等が考えられる。

一方で、AI開発のスタートアップであるSakana AI は2024年の夏に次の発表を行っている。「The AI Scientistは、アイデア創出、実験の実行と結果の要約、論文の執筆及びピアレビューといった科学研究のサイクルを自動的に遂行する新たなAIシステムです。(※2)」本システムは実証実験において、言語モデル、拡散モデル、Grokkingといった機械学習の研究分野で新たな貢献を行う様々な論文を生成したとされている。このようなAI技術の発展を鑑みると、企業活動においても自社の研究開発プロセス全体を自律的に実行するAIが活用されてゆくことも想像に難くない。

AIの発展により企業の研究開発はどこに向かうのか

AI技術の発展は著しく、企業の研究開発においてAIとどのように向き合うべきかを示すことは難しいが、ここでは企業の研究開発プロセスとそのプロセスを実行する研究者の視点から考えてみたい。

企業の研究開発プロセスの再定義

AIによる利益を享受するためにまず取り組むことは、自社の研究開発プロセスにAIを組み込み再定義することであろう。これを行うためには先に研究プロセスの一例として示した「課題の特定」であるとか「アイデア創出」といった解像度ではなく、それぞれのプロセスの中で研究者がどのように思考しているかを明らかにし、その思考プロセスにAIを適用することが求められよう。

また、このように研究開発プロセスにAIを導入する際には、必ずしも自社でAIシステムを開発するのではなく、AI技術の進展の速さや投資効率を考えて、既存のシステムを最大限活用することも検討したい。ここでは、AIに導入する社内の独自データやAIに処理させる自社の暗黙的な思考過程が差別化要素になるかも知れない。

研究者の役割とスキルの再定義

研究開発プロセスにAIが導入されることにより、研究者の役割やスキルも再定義する必要が出てくる。具体的には「問いを立てる力の強化」、「AIを活用して自身の思考を広げるスキルの獲得」、「技術者倫理の向上」、「真理究明へのあくなき挑戦」等が挙げられるだろう。

「問を立てる力の強化」とは、「なぜ今、この研究が必要なのか」「社会にどのようなインパクトを与えたいか」という研究の意味づけやビジョンを策定する力のことである。AIは与えられた目的に対して最適解を探すのは得意であるが、意味ある最適解を出すためには人間の問を立てる力が重要になる。

「AIを活用して自身の思考を広げるスキルの獲得」とは、AIが導き出した「統計的に妥当な解」を足場にしつつ、人間固有の「非連続な思考」によって知を拡張するスキルのことである。AIが得意とする「知の網羅的な探索結果」を異なる分野を繋ぐ触媒として利用することで、研究者は自身の専門性を超えた異分野の知を取り込むことが可能になるのではないか。今後は、AIが出力する最適解という収束点から脱し、「問いの再定義」と「研究者自身の非連続な思考力」によって、パラダイムシフトを起こすような仮説を創造する力が求められるだろう。

「技術者倫理の向上」については、AIは効率を追求するあまり、倫理的にグレーな領域に踏み込んだり、偏ったデータに基づいた不適切な結論を導き出したりする可能性がある。「その研究は社会的に許容されるか」、「AIが導き出した結論に倫理的バイアスはないか」等を監視・評価する役割が研究者に求められるようになるのではなかろうか。

最後に、「真理究明へのあくなき挑戦」であるが、AIを活用した研究開発が進展すると、AIの導き出した解を人間が盲目的に信用するようになるかもしれない。このような中で研究者に求められるのは、AIが導出した解の裏にあるメカニズムを執拗に解明しようとする姿勢であろう。この姿勢を研究者が放棄すれば、人間がAIに隷属する可能性すらあるのではないか。

さいごに

ここまで進展が著しいAIによる研究開発の影響について考えてきた。AIの進化を予測することはもはや不可能な領域に入っていると感じているが、私たち一人一人が自身に関わりのある事柄がどのように変化するのを想像することは自身の変革にとっても大切だと考えている。本稿が皆様のご参考となれば幸甚である。

    

出典
(※1)文部科学省. “AI for Science の推進に向けた基本的な方針について”. 文部科学省Webサイト. 2025-12-9, https://www.mext.go.jp/content/20251205-mxt_sinkou01-000046191_4.pdf, (参照2026-1-2)
(※2)Sakana AI株式会社. “「AIサイエンティスト」: AIが自ら研究する時代へ”. Sakana AI Blog. 2024-8-13, https://sakana.ai/ai-scientist-jp/, (参照2026-1-2)

近藤 晋

取締役

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