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株式会社日邦バルブ

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「ものトレ」で次世代リーダーを育成! 視野を広げた生産革新へ  ~わくわくする職場・チャレンジ風土が変革へのステップだ~

水道に特化した給水装置バルブメーカーとして130年の歴史を築く株式会社日邦バルブ。同社では真面目で、黙々と仕事に向き合う社風が浸透していた。そんな状況を打破し、楽しくいきいきと若い人が活躍できる職場へ変えようと、和田社長指揮の下、2013年に通称「ものトレ」プロジェクトが立ち上がった。その取組みやこれまでの成果を紹介する。

歴史は水道事業と伴に築かれた

case33_pict01.jpg日邦バルブは、今から遡ること130年、明治16年11月に現在の長野県松本市で製糸用バルブ、コックの製造を生業として創業した歴史ある企業だ。その後、大正の半ばから松本での水道事業開始を皮切りに、それまで培ってきた技術を水道給水装置用バルブ製造へと移行させた。現在では水道に特化した給水装置バルブ専門メーカーとして、水道事業の普及、維持管理といった我々の生活に不可欠なインフラを支えている。

同社は水道の中でも給水装置、水道の本管から家庭用にひきこむ分水栓、止水栓、管の継手といった製品を製造している。「水道用バルブは埋設されていて、年数で言うと30年近く使う物です。ですから一度決めた仕様は簡単には変えられないものでもあり、連続性が大切なのです」と、代表取締役社長 和田 晃氏は水道事業の特徴を話す。

水道というインフラを支える製品であるために、ひとつの製品に対する作り込みや、長期的視点に立った製品の連続性が求められるのだ。しかしその一方で、事業体ごとの異なる要望に応え製品開発を進めるフレキシブルな対応も求められる。

例えば水道メーター交換時に、腐食による製品劣化などでメーターが外しにくかったり、漏水するトラブルが起きることもある。その解決策として確実・簡単に交換ができるように、東京都水道局の依頼で開発された製品に「メーターバイパスユニット」がある。

かつては中高層の建物では屋上に設置された貯水タンクから水を供給する方法がとられていたが、近年は水質劣化や衛生上の問題から地下から直接給水する「増圧直結給水」が主流になっている。
しかしこれにはメーター交換時に断水するという欠点があった。その改善手段として、バイパス経由で水を供給するというシステムを業界で初めて開発したのが「メーターバイパスユニット」だった。

そこから派生し、戸建用、マンション用、最近ではメーターを集中管理するミニマンション向けの製品などが開発され現在では主力商品となっている。また近年では新潟県中越地震を機に同県からの依頼を受け、耐震性に強い配水ポリエチレン管に対応する継手の開発にも取組んでいる。

原点は「人」---こうして「ものトレ」がはじまった

case33_pict02.jpgこのようなどちらかというと保守的な業界特性や、オーナーの強力なトップダウンの下、同社には真面目にコツコツ仕事をするという社風が長らく浸透していた。平成2年度の終りに入社した和田社長は「とにかく当時の社員は真面目一辺倒。一人ひとりは優秀で言われたことはきちんとやるんですが、私語や雑談なども少なくどこかものを言いにくい雰囲気があり、ストレスが溜まったり、仕事が楽しくないのではないかと心配しました」と当時を語る。

また、ものづくりの観点から、とにかく"見て学べ"という職人気質もあったという。「うちの会社はとにかく提案下手。作業ひとつとっても『こうすればいいのでは』というアイデアが頭の中にあっても、それを先輩や上司にうまく相談できないメンバーが多かったと思います」と、品質企画室 係長 清水純司氏も話す。

そんな状況に対し「自分の思っていることを率直に言葉に出し、もっと楽しく仕事ができないだろうか。とにかくものが言える職場へ、そして若い人がいきいきと働ける職場へ変えていきたいと思ったんです」(和田社長)

2009年、和田社長が社長に就任した際、「人づくり」に重点を置きつつ、今一度生産革新活動にテコ入れしたいという相談をJMACシニア・コンサルタントの茂木 龍哉に持ちかけた。実はこの時点でJMACと同社とは20年来の付き合いがあった。「入社当時、私は電算室におりましたが、1996年頃から生産革新活動とISO9001取得を視野にJMACにお世話になっていました。そこで一緒に活動をさせてもらったのが茂木さんでした」(和田社長)
 

当時、生産革新活動で取組んだテーマの一つが在庫の圧縮だ。当日15時までに受注すれば翌日午前中に納品するという当時としては画期的な試みを行う一方で、在庫拠点の集約や生産計画、在庫基準の見直し等により、営業所や工場内に積み上がった製品在庫を大幅に削減し、飛躍的に効果をあげた。

そして茂木は「和田社長から相談を受けてテーマ出しをするディスカッションの中、結局コストダウンにしても、品質改革にしても、原点は『人』にあるんじゃないかという話になったんです。そこで現場力強化を図るために『ものトレ』を提案しました」と話す。こうして2013年度から立ち上がったのが「ものづくりリーダー育成トレーニング」、通称「ものトレ」だった。

過去の反省を生かし「丁寧・着実」に

case33_pict03.jpgでは「ものトレ」とは具体的にどのようなものか。「ものトレ」は現場第一線監督者の候補生の育成を目的に、現場で発生している実際の問題を取上げ、講義と10回の実践研修を通じて、実成果と人材育成を同時に行うプログラムだ。
実はここ5年くらいJMAC支援の元、IE(Industrial Engineering)やSCM(Supply Chain Management)を中心としたものづくり改革活動を行っていたものの、まだ自分たちが自力で問題解決をできるレベルには至っていなかったと、品質企画室 主任 小松正樹氏は話す。

「これまでは、だいたいこんな問題だろうと曖昧な状態で対策を考えていました。そして、すぐ実践に移したり、成果を出さなければならないと急いでしまって、結果的に自走できるまでには身についていない状況でした」(清水氏)

そこで今回の「ものトレ」では工夫を凝らした。それはとにかく手取り足取りという「丁寧さ」だ。「IEには基本的な手順や進め方がありますが、現状分析をきちんとして、何が問題なのかを洗い出すプロセスを一つひとつ丁寧にやっていくことに重点を置きました。そして、時間に余裕を持って宿題を出し、自分達で考える時間をしっかり設定しました。次の研修では本当に理解しているか、理解していないならもう1回同じ内容を繰り返すという方法を取りました」と茂木はその「丁寧さ」を話す。

case33_pict06.jpg昨年度「ものトレ」は松本工場で15名、現在継続中の北海道工場では7名が受講中だ。このように着実にステップを踏み、理解度を確認しながら丁寧に進めることで、改善プロセスが確実に受講者の身に付き始めてきたと言う。

そして、実践研修最終回の改善計画発表会を経て、その3ヶ月後に行う成果発表会で、設定した目標を80%以上達成した人に「ものトレワッペン」が授与される。現在は「ものトレ」修了やワッペン取得は達成感の証のような位置づけだが、今後は人事評価制度の見直しや、キャリアアッププランを構築する際にも活かしていきたいと和田社長はその先に繋げることも考えている。

着実、丁寧な「ものトレ」で現れた成果とは!

「ものトレ」が生んだ成果と部門連携

case33_pict08.jpg今回、事務局として活躍する清水氏、小松氏も実際に「ものトレ」を修了しワッペンを授与された二人だ。では具体的にどんな目標を掲げ、成果をあげたのか。
 

清水氏は「対象加工機の1回当り段取り時間20%削減」という高い数値を目標にあげ、その80%の短縮を実現した。一方小松氏は「対象組立ラインの能率20%アップ」とこちらも高い目標を掲げ、見事に達成したという。

実際取組んだ中で何より感じたのは「現状分析の大切さ」だと清水氏は話す。「改善計画発表会までの3ヶ月間で現状分析の手法を教わりました。やはりそこがしっかりしていないと、いくら改善案を出してもどれくらい成果があったか説明もできません。困ったことがあると茂木さんの顔が真っ先に浮かんで、プロジェクト以外のことも相談できる頼りになる存在でした」(清水氏)

さらに小松氏も「現状分析をしっかりやることで、レビューする際に効果がどれだけ出たのか、想定通りだったのか、今まで具体的な数値として見えていなかったところが明確になりました。茂木さんは日邦の社員より当社のことを熟知していますし、身内では切込みにくいところに積極的に入ってくれる点が頼りになりました」と評価する。

case33_pict05.jpgまた、この活動で生まれたのが部門を超えた連携だ。「例えばデータの見方は電算課へ、組立設備の仕組みは生産技術課へ、納入品の仕様変更は・・・という風に、他部門に協力を仰ぎ、複数部門を巻き込んだ活動になりました」と清水氏。「これまでなんとなく部門間の壁を感じていましたが、プロジェクトとして推進することで、とても円滑に進みました」と小松氏は振り返る。結果的に、この活動で上司や他部門との連携も図れ、コミュニケーション向上にもつながったというわけだ。

業界全体を見渡す幅広い視野を養ってもらいたい

また、今回の活動は社長に直接提案できる場の提供にもなった。「これまで管理職は社長と接する機会がありましたが、主任クラスにはそういう接点が少なかった。研修の成果を今後の改善として直接社長に提案できる場ができたことで、緊張もするでしょうが、何よりもわくわく感が生まれたのではないでしょうか」と、茂木は言う。
 

和田社長は「ものトレ」の効果の一つに「プレゼン」をあげる。「具体的な数値で改善提案ができるようになったことは成長だと思います。合わせて「ものトレ」修了後は自分に自信がついたのだと感じています。私も気が付いた成長点は率直に褒めることを心がけていますが、それによって本人のやる気もさらに引き出せますし、その繰返しで仕事が楽しくなり、ひいてはわくわくするような職場づくりにもつながっていくのではないかと思っています」(和田社長)
 

JMACに対しては「現場は現場の、経営者には経営者の悩みがあり、人それぞれ立場によってさまざまな相談ごとがあります。ですから、契約テーマだけでなく、会社全体のことを気軽に相談できるパートナーであり続けてほしい」と期待を語った。
 

昨年度に続き今年度も松本工場、北海道工場で計2回実施予定の「ものトレ」。「ものトレ」には、茂木以外にコンサルタントの山田、また並行して、品質改革支援、営業所の電話応対品質向上もコンサルタント師田、チーフ・コンサルタント皆越を中心に推進中だ。「今後は社内に籠っていないで、どんどん外に出て他社や世の中の状況も勉強して欲しいと思っています。そして、水道業界全体を見渡せるような幅広い視野を養ってほしいですね」と、和田社長は今後の成長への期待を語った。

「ものトレ」を通じ、今、日邦バルブはものが言える職場、わくわくする会社へと変わりつつある。基本を大切にする「まじめ」な姿勢、そこに新たな社風が加わって、未来を担う製品を生み出す素地となるに違いない。我々の生活インフラを支える企業として、水道事業への貢献に向け、日邦バルブの積極果敢なチャレンジが続いて行く。

担当コンサルタントからの一言

基礎の積み重ねが人の成長に結びつくそして会社の活力になる

自らが考え、工夫し、実践した改善は楽しいものです。さらに成果が出ると自信が付き、人は成長します。この人づくりサイクルを定着させることこそが、「ものトレ」の狙いです。その為には、正しいアプローチで現状を分析し、問題を定量化することが大切です。130 年の歴史ある日邦バルブ様が、次の100 年さらに成長していく為には、ものづくりへの真摯な姿勢に加えて、改善の楽しさ、喜びを持ち続けることだと思います。

茂木 龍哉(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.52からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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