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第31回 生産財のマーケティング戦略その1

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

前回まで、「財」によるマーケティング戦略の違いについて述べました。
今回から生産財に焦点をあて、そのマーケティング戦略の特徴を考えてみましょう。

生産財企業のマーケティングの特徴 ~根づかないマーケティング思考~

企業や組織を対象にビジネスを行っている生産財企業のマーケティング戦略はどのような特徴を持っているのでしょうか。 生産財企業の顧客は、最終消費者でなく消費者に完成品を提供する需要家としてのプロフェッショナルです。当然のことながら、需要家として明確な評価基準をもって、購入の必要性、時期、購入方法、取引企業などを決めます。また、激しく変化する消費者ニーズにタイムリーに対応するため製品機能の改良を行います。

生産財企業は、このような顧客から製品機能の改良・改革要求が多く顧客の個別依頼対応にエネルギーを取られます。顧客の要求レベルも高く、小手先の技術では通用せず、部門連携なくして解決することは困難といえます。すなわち、研究開発、生産、物流、営業(市場導入)まで一貫したシステムで対応することが重要なのです。言い替えると、本物のマーケティングノウハウが要求されるのです。しかし、多くの企業は、プロダクトアウトのその場限りの対応をしているのが実情のようです。

また、大半の生産財企業は、最終消費者との接触が薄いので、マーケティング思考に基づく開発テーマを取り上げることが少なく、タイムリーな新製品開発が行われていないのが現状です。

生産財企業マーケティング戦略強化5つの課題

(1)顧客特性分類による戦略的な対応

生産財企業がマーケティング活動を本格的に実施するならば、顧客特性理解から始めることです。
顧客がどこにいるのか(広域に広がっているのか、限定しているのかなど)、どういう頻度、方法で製品を購入するのか(継続的な購入か、スポット的な購入かなど顧客特性を整理した上で、それに適応した対応策を考えることが重要です。(参照:図1)

mk31_1.jpg

また、そこに対してどのようなアプローチプロセスを踏めば良いかを決めるときに役立つ情報を以下のような仕組みとして確立することが重要です。

◆顧客(需要家)の需要変化と最終消費者の需要動向の相関がわかる仕組み

◆顧客の事業特性,製品特性、顧客(消費者)特性が把握でき品質/コスト/納期などに対する考え方が分かる仕組み

(1)共通のものさしによる戦略を行動化する営業

最前線で顧客と接点を持つ営業部門の動きを改革し、個人任せでなく仕組みで動く営業スタイルの確立が不可欠です。
生産財企業の営業スタイルは、一般的に個人商店的活動が多く、営業マンが個々人の担当顧客を管理し、経験を通じ自分なりのやり方で対応している傾向が強いようです。

会社は(売上目標など)方針を示すだけで、実践は、全て営業マン任せになっています。マーケティングマンとしての営業マンの役割が不明確で、十分なバックアップ体制が確立していないので、営業マンによる成果のばらつきも多いようです。

営業部門と技術・生産・品質保証・メンテナンス部門との連携上の問題が山積みしている裏返しの問題として、シナジー効果を生かした組織営業ができていません。

このことは部門間連携だけでなく、,営業部署内においてもいえることです。顧客の組織化や購買構造など、市場・顧客の実態情報把握が不充分であり、また収集した情報を顧客対応に反映するシステムが確立されていない企業が多いのです。このため、営業第一線はターゲットが不明確なまま営業活動を行っており、その場限りの活動に終始しています。実質的に戦略の行動展開が極めて薄い状況にあります。

(3)販売チャネルの見なおしと再構築

広域市場を対象にビジネスを展開している生産財企業は、人的体制の制約から流通ルートを通じ、自社ビジネスの浸透を図っています。しかし、パートナーであるべき流通ルートとの間で役割分担が明確にならず、互いの主張をぶつけているだけで、連携体制が構築できていないケースが多いようです。
例えば、クレーム処理、技術サービス、小口顧客へのPRPR対応など相互の情報交換、連携もその場しのぎの対応になっています。

『伸びる顧客』との密着化、攻略を行うためにパートナーシップを取る流通企業の選別と、役割分担を明確にすることにより連携作戦をシステム化することが重要です。

(4)明日の業績づくりに向けた明確な商品・技術戦略づくり
多くの生産財企業は、明日の業績づくりをにらんだ新商品開発や技術開発の意識が希薄です。
その要因の一つとして、設備投資負担が大きくなることで着手が困難なことがあげられます。また、目先の業績を確保するため、既存顧客の要求に応えることでエネルギーを使いきっていることは述べたとおりです。

しかし、生産財は、それを構成する技術は多岐にわたり、その中でも将来の糧となる技術の種が潜在している可能性が高く、マーケティング思考に基づく育成が不可欠です。

(5)マーケティングプロセスを確立した部門連携強化

営業部門は、顧客の真意と深い情報を掴まないまま、顧客ニーズへの対応と称し製造部門や物流部門への要求が、現場の混乱と経営効率にも影響を与えています。

例えば、納期対応がマーケティング戦略上の重要課題の一つとなっています。顧客はぎりぎりで発注や仕様確定する一方、ジャストインタイム納入を要求します。 納期対応だけでなく仕様確定の精度、発注量・納入量の確定タイミング、特注品受注への対応など営業と生産、関連部門との連携なくして解決が不可能になっています。

ここに、曲解した「マーケットイン」の発想があります。「マーケットイン」の発想とは、顧客ニーズを全て 満足するという意味でなく、企業としてビジネスの主対象とする顧客を明確にした上で、顧客ニーズの何に応え、何は受け入れないかを顧客本位の発想に立って決めることです。
そこには、生産財企業としての「思想」が入り、顧客はその「思想」を評価し協力企業として選定するのです。

このような点から、顧客関係者と直接接点を持つ営業部門だけでなく、生産部門をはじめとした他部門もマー ケティング思考による動きが必要であり、部門間連携が重要になるのです。

近年、マーケティング戦略から研究・開発、市場導入までを一貫としたシステムで対応することが重要視されています。技術開発、商品企画、市場導入、市場評価といった一連のプロセスを統合し、マーケティングプロセスとして確立することが重要です。

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次回テーマは、「生産財のマーケティング戦略」についてお話しします。

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