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第9回 働き方改革におけるマネジメント・イノベーション(前編)

2019年3月 5日

 成熟市場になって今までどおりのやり方では売上が伸びなくなった----こうした声をよく聞きます。そうだとしたら、企業が成長し続けるためには、営業の体制、仕事の仕方、人材育成の仕方などを再点検し、機能していない個所にメスをいれていかなければなりません。成熟市場における戦略を実行するうえで組織体制や仕組みを見直すこと、これを「マネジメント・イノベーション」といいます。

営業外勤活動を増やすことが正とは限らない

 現在、多くの企業が「働き方改革」を実践中です。取組み内容は各社さまざまですが、働き方改革プロジェクトを立ち上げていない企業のほうが珍しいでしょう。求職者が売り手市場の今、求人難・人手不足の企業は、より少ない人手でいかに仕事を効率良く回すかという「業務の効率化」に焦点を当てています。なかでも営業部門は、事務処理や入力処理、会議といった内勤業務が効率化のターゲットになっています。IT化や業務フロー・処理タイミングの見直しによって捻出した時間を、外勤活動の時間に振り向けるという取組みです。

 営業の内勤業務は業務フローまで展開され、あらゆる業務が可視化されています。一方、外勤活動は訪問先の実績が可視化される程度で、中身は聖域化され、なかなか可視化されません。ここでもう一度考えたいのが、本当に外勤活動時間を増やすことだけが正しい営業活動なのか、ということです。可視化されていない外勤活動を含め、再度業務効率化を考え、働き方を変えていきましょう。

 業務の効率化には下図のとおり、8つの切り口があります。

 そのうちのひとつに「2.削減の原則(減らす)」があります。これは過剰業務の見直しのことで、とくに営業部門の効率化においては意識しておきたい切り口です。手厚いサービスを行うことが顧客満足度や売上向上につながるのであればよいのですが、自己満足に終わってしまったり、売上を伸ばせる余地がないのに人当たり良く対応してくれる顧客にばかり足を運んだりというケースがこれに当たります。

 「2.削減の原則(減らす)」がうまくいった事例として、成熟市場の中でも活況を示しているドラッグストア、ディスカウントストアがあげられます。あるメーカーでは「このチャネルに対応するためにもっと営業人員を増やしてほしい」との声が現場からあがっていました。これに対する経営者の判断は、いかなるものだったのでしょうか。答えは、人を増やすどころか、ディスカウントストアの多い地域を中心に人員を2割減らすというジャッジでした。

 ドラッグストアやディスカウントストアは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの商談とは大きく異なり、半期に1回程度の商談で品揃えが決まります。さらにドラッグストアやディスカウントストアでは、とくにセール期間を設けることのない‟Everyday Low Price"戦略をとるため、時間をかけて売場のフォローをする必要性はさほどありません。トップは、営業の訪問頻度やサービス水準を下げたところで売上にはほとんど影響ない、従来の方法は過剰業務だったと判断したのです。実際、2割の人員を削減しても当該チャネルの売上げは維持できたのです。

 売上を直接つくる外勤活動といっても十分な効果が見込めない場合、過剰業務と見なし浮いた時間を別の仕事に振り向けるべきです。成熟市場におけるマネジメント・イノベーションでは、限られたマンパワーと時間をどのように配分するのがもっとも生産性が高いか、「聖域」をつくらずに検討しなければならないのです。

WEBマーケティングが従来の営業活動を劇的に変える

 また、SNSやHPといったWEBマーケティングによって、営業の仕方も大きく変化してきています。
たとえば製薬業界の営業担当(MR)。MRは病院などを訪れ、医師や医療従事者に医薬品の情報を提供し、自社製品の適正使用・普及を促します。こうした営業活動を「ディティール活動」といいます。

 このディティール活動は、ここ10年で大きく変化しています。インターネット経由で医薬品情報を提供する「eディティール活動」の増加により、医師や医療従事者がMRの訪問を必要としなくなったのです。このため医薬品メーカーは、MRの人数を大きく削減し、その分eディティールの整備に資源を投入し、生産性の高い活動へとシフトしています。帳票処理などの業務を自動化するRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)導入による間接部門の効率化にとどまらず、営業の最前線までもが劇的に変わり始めているのです。

 eディティール活動とMRによるディティール活動は、それぞれ独立したものではなく、相互に補完し合い、より高い付加価値を提供していくことが望ましい姿です。対面で直接、医師や医療従事者の声を聴くことのできるMRの存在は重要です。そこで製薬業界は営業担当とWEBを同じ営業・マーケティングの活動リソースとしてとらえ、両者の連携を最適化させた仕組みづくりと、資源配分バランスの見直しを行っています。遅かれ早かれこの動きは他の業界でも当たり前の動きになるでしょう。

 むしろこのような考え方をしていかなければ、徐々にコスト競争力を失い取り残される事態になってしまうのです。成熟市場だからこそ、われわれはよりシビアに考えていかなければならないのです。

 誤解をおそれずにいうと、営業外勤時間を増やすばかりの時代は終わりました。質の高い活動を志向していかないといけません。

コンサルタントプロフィール

寺川 正浩

寺川 正浩

ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント

1997年 JMAC入社。専門はマーケティング・営業領域。戦略策定から、戦略を実現するための業務プロセスの設計、KPIを活用したマネジメントの仕組みづくりを経て、実施・定着化までの一貫したコンサルティングを行う。小売・サービス業、食品メーカー、アパレルメーカー、医薬品メーカーなど幅広い範囲を支援。共著に『実務入門 「仮説」の作り方・活かし方』『実務入門 営業計画の立て方・つくり方』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)、「サービスプロセス改善事例集2010」(日経BP寄稿)、「流通業の顧客戦略とCRM」(日経MJ新聞寄稿)ほか多数。
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