【最終回】第10回 働き方改革におけるマネジメント・イノベーション(後編)
国内の成熟市場で成長するために

前回のコラムで今の65歳周辺の方々が高齢者のくくりで捉えられることに違和感があることを述べましたが、ちょうど良いタイミングで、年明けの1月5日、65歳以上とされている高齢者の定義について、日本老年医学会が高齢者は75歳以上にすべきだとの提言を出しました。65〜74歳までは、心身ともに元気な人が多く、高齢者とするのは時代にそぐわないとのことのようです。
加えて、団塊の世代がいよいよ70歳代に突入することも重なって、このところずいぶん70歳代の消費が取り上げられるようになっています。たとえば、JR九州のななつ星に引き続き、東日本や西日本でも豪華寝台列車が次々にお目見えすることもあり、70歳代消費の代表格としてしばしば話題にのぼっています。しかし、何も消費のターゲットは富裕層だけではありません。70歳代は皆元気であり、いままで以上に健康への気遣いが大きくなっていることは以前にも述べました。健康領域に留まらず、ファッションに関しても、いままでわれわれが抱いていたイメージとはずいぶんと変化しています。
70歳代の女性が中心購買層の衣料品販売の店舗で、売上げが順調に推移している店舗と売上げの落ち込みに歯止めがかからない店舗とで、何が違うかを見て回ったときに、その違いは明白でした。店舗内の華やかさでした。黒、グレー、ブラウンの地味な色の商品を主体に集めている元気のない店に対し、元気のある店は他店同様の黒やグレーの定番に、鮮やかなブルー、オレンジやピンク、柄もののカーディガンやストールがコーディネートされていて、華やかさがまったく違いました。
店長に聞けば、「今の70代の女性に地味な服は売れない。顔写りが映える色合いの服、力まずにおしゃれに着たい服が売れます」との答え。実際にこの店舗では、高齢者の方はとても買いそうにない(と思えた)、上半身タイトで派手目なフレアスカートのワンピースがライトアップして飾られていました。「これ売れるんですか?」と伺ったところ、入荷と同時に即売れ始めたということでした。私自身が高齢者の方々の意識の変化に追いついていないことを悟りました。
つまり、これから増えていく高齢者をビジネスチャンスと捉えたところで、彼ら彼女らの意識や行動の変化に対応しない限り、従来のビジネスと何も変わりません。人口動態が変化しているという「現象」だけに目を向けて、それに伴う消費者の行動・意識の変化への関心が薄いと、成熟市場と一緒にシュリンクするだけなのです。従来どおりの地味な色ばかりを揃えている店舗のように。
話はそれますが、これだけ健康意識の高いアクティブシニアやファッションに敏感なシニアが増えていくと、そもそも年齢で消費やトレンドを思考していくことが時代に合っていない気がします。5年後は年齢でマーケティングを語ることがなくなるのではないでしょうか?
年齢に限らず性別もそうでしょう。気がつけば男性向けの化粧品コーナーに驚かなくなり、それどころか最近では男性を意識した雑貨売り場も出てきています。年齢だけでなく性別についても、遅かれ早かれマーケティングでは不用な層別視点になってくるのかもしれませんね。
話を元に戻します。消費者の行動・意識の変化への反応の重要性を述べましたが、消費者の意識や行動の変化が起こる前に、商品やサービスを次々に仕掛けている企業もあります。すなわち、新たな商品・サービスを仕掛けて、消費者の意識や行動の変化を促していく企業、「ニーズ創造型企業」(ここでは勝手にネーミングさせてもらいます。以下、同じ)です。『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』というコンセプト・スローガンを掲げて成長してきたユニクロのファーストリテイリングはこの「ニーズ創造型企業」の代表格だと思います。自らがマーケットに仕掛け、消費者の常識を変えてきた企業です。消費者自身がまったく感じていないニーズを企業や業界が創造しサービス化する動きは、eコマースやIoTなどの成長市場においては割りと話題に上がりますが、生産者そして消費者共にほぼ成熟してしまった市場ではユニクロのような企業はまれだと思います。
一方で、"消費者起点のマーケティング"といった類の見出しでよく目にするのが、消費者の行動・意識の変化に気づき、それらの変化をニーズとして顕在化させるために何らかの仕掛けをしている企業です。すなわち、商品・サービスが先にあるのではなく、将来のマーケットの大きな変化を予感させる消費者の行動・意識の変化に敏感に気づき対応している「ニーズ発掘型企業」です。
そして、"消費者起点のマーケティング"は、新鮮味も薄くなってしまうほど聞き慣れた言葉になってしまっているものの、本当に実践できている企業は少ないとコンサルティングの現場を通して感じます。だから、冒頭に述べた同じターゲットを対象としながら、一方の店舗は売上げが順調に推移しても、もう一方は売上げが低迷し苦戦するといったような現象が各所で起こっているわけです。
しかし、多くの企業は「ニーズ創造型企業」「ニーズ発掘型企業」のどちらにも該当しない、顕在化した消費者ニーズに対して「さて、何かしないと」と次の策を考える「ニーズ後追い型企業」です。こうした企業は、会社の規模に関係なく、大手でも珍しくありません。成熟市場において、「ニーズに先回りして消費を動かす」なんて、ほとんど他人事だったりするわけで、消費者接点の少ない企業においてはなおさらのことです。
この「ニーズ後追い型企業」が試行錯誤しながらも国内の成熟市場で勝ち残っていく努力をしているのです。
次回はこの「ニーズ後追い型企業」にスポットをあてます。
執筆:寺川 正浩
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