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物流現場カイゼンを実現する4つのステップ

  • 調達・物流・SCM

広瀬  卓也

 国内産業においては深刻な人手不足が続いており、物流業界は常にその筆頭に挙げられている。倉庫荷役などでは機械化・自動化投資などが急ピッチで進んでいるが、そのような投資余力を持たず、現場の努力で何とか業務を回している会社の方がはるかに多い。

物流業界の問題点

 このような状況下において、荷役・保管等を主に扱う物流現場に求められるのは

  1. 作業の徹底した標準化
  2. 働きやすい作業環境実現

である。標準化を通じて、仕事をしやすい・働きやすい環境を作ることによって、多くの人を雇用できるし、長く働いてもらうことが可能となる。そういったことをキチンと行える物流事業者や荷主企業でなければ、これからの競争を勝ち抜いていけない。

 標準化を推進するためには、現在の仕事のやり方を見直して簡素化・効率化する改善活動が不可欠である。ただし、かけ声はあれど実際の改善活動がほとんど進んでいない企業が多いことも、残念ながら事実である。

 物流業界の働き方改革については、前回のコラムを参考にしてほしい。
本コラムでは物流現場改善の基本的な進め方を、コンサルタントの視点・知見から説明していこう。

なぜ現場改善が進まないのか

 さまざまなコンサルティング活動を通じて、筆者は改善活動が進まない理由を以下の4つと考えている。

  1. 現場実務者にとって、改善を行うメリットがない
  2. 改善を行う前の「問題の特定・共有化」が不十分である
  3. 施策を実行するための十分な権限や予算が与えられていない
  4. 現場実務多忙などの理由で、改善実行を推進する人材がいない

 特に1つ目は深刻な課題である。物流事業者にとって、これまでの改善活動とは多くの場合、荷主やマネジメント層の要望・指示に従い「コストを下げる」ことが目的であった。しかし、コストを下げることで、現場実務にメリットが還元されることはほとんどない。人手が減り、必要な投資もなされず、個人の努力(もしくは犠牲)のみで成り立っているような現場で、改善のモチベーションが働くはずがないのである。

 また2つ目の「問題の特定が不十分」という事例も実によく見かける。小集団活動などでも、実務担当者の思いつきに近い改善案がただ羅列されているだけで、実行の担保もトレースも何もないケースがいかに多いことか。改善活動そのものが「経営にとってのムダ」となっているのである。

現場改善活動4つのステップ

 以下、上記4つの課題認識に沿って、進め方のポイントを記述する。

① 現場改善の企画

 現場改善を行うに当たって最初に重要になるのは「何のために改善するのか」「何をよくするのか」という点の明確化・合意である。先に述べたように、ここでは「現場にとってのメリット」を最大限明確にしなければならない。

 ここを明確にせずに改善を漫然と行っている企業が相当数ある。そのため、結局目的と関係のない施策を打ってしまい、全く効果を生まない…という状況をかなりしばしば見かける。

 目的や企画内容を明確にしたら、全社的に周知徹底を繰り返すことが肝要だ。社内のさまざまなコミュニケーションの機会をとらえ、目指す姿を繰り返し示し、社員の注意を引きつけなければならない。
上位者から目標を押しつけるのではなく、改善を実現することが会社にとって大事であると同時に、自分たちのメリットにも繋がる…と、働いている人の大部分が感じるようになるまで、「繰り返し」伝えるのである。

 これと並行して、可能な限り改善推進のための体制をハッキリ打ち出すことをオススメしたい。一部門の業務にとどめず、改善活動に特別感を持たせることで、関心や周知を高めることが、改善を順調にスタートするためのポイントである。人手不足でとても余裕がない…という企業であれば、プロジェクト方式や場合によっては(もちろんコストはかかるが)外部委託なども検討してはいかがだろうか。

② 問題の発見・共有

 問題とは「あるべき姿と現実とのギャップ」である。
前項で設定された目標・あるべき姿に対し、現状を定量的・定性的に把握し、ギャップを抽出する必要がある。

 通常現場において問題とされるのは「不具合」である。事故が起こった、人が休んで集まらない、顧客からクレームが入った…などであるが、これは「本来当たり前に遂行されているべき事が行われていない」状態であり、厳密に言うとあるべき姿とのギャップではない。

 もちろん不具合の解消は重要であり、これがないと業務は先に進まない。しかしここでは、並行して常に目標・あるべき姿と現状を比較し、何が足りないのか・その要因は何かを考え続けることが必要である。

 ギャップを出すためには定量化・測定が不可欠である。ここでKPI(重要活動指標)を定量的に提示する必要が生じる。可能であれば、あるべき姿や目標が関連付けられたKPI値と実績値を比較し、ギャップを示すことが望ましい。ただし多くの企業では、目標や計画内容とKPIが明確に結びついていないことが多いので、その場合はまず実績KPIを測定・算出する。

※KPI:Key(主要な・カギとなる) Performance(活動・業績)Indicator(指標)の略。本来はKGI(Key Goal Indicator 重要結果評価指標)とセットで用いる。

事業目標、KGI、KPI

 このような手順を踏むことにより、まず問題=あるべき姿もしくは目標とのギャップを正確に把握し、その要因まで探っておくことで、正しい対策を立案することができるように変わっていく。

 問題は複雑な因果関係を持っており、多面的に考察することで初めて真の問題に行き当たることができる。専門的には「問題関連構造図」を作成することが望ましいが、いわゆるなぜなぜ分析でも代用は可能である。
なぜなぜ分析について詳述は控えるが「人のせいにせず仕組みを疑う」ことが基本である、と言うことを主張しておきたい。

問題関連構造図

③ 改善企画と実行

 問題が特定できたら、改善案を企画する。
改善案は、現場でできることのみに絞るべきではない。むしろ昨今の環境変化にともない「荷主との取引条件変更」や「契約条件変更」など、自社のみの取り組みに限らない改善が実行しやすい状況になってきているからである。

 お客さまの言うことは絶対、という考え方はもはや過去のものとなった。物流が機能しなくなって困るのは結局荷主であるため、物流事業者が荷主に対して適切な提案を行なえば、それが認められる可能性が高まってきている。このチャンスを逃すべきではないし、現場の知恵だけでムリヤリ乗り切ろうとしてもほとんど成果を生まない。

 改善案立案に関しては、できるだけタテの階層で多くの関係者に参画してもらうことが望ましい。顧客交渉が必要であれば営業部門、設備の投資や改修などが必要であれば財務やトップマネジメント層に内容を理解してもらうことが不可欠だからである。そのためにも問題課題をしっかり共有化し、改善による定量的効果などを可能な限り準備しておく必要がある。

 これと並行して「施策実行のプロセス目標」を立てる必要がある。あるべき姿は複数の問題が解決された上で達成されることがほとんどなので、施策の実行度合いを確認し、KPIの変化と連動しているか・問題は解消したかを評価する必要がある。

④ 評価・定着

 改善活動においてもっとも難しいのは、活動を継続し、最終的に定着させることである。改善をやってもやらなくても評価や行動が変わらないとなれば、活動は自然消滅してしまう。改善が仕組みとして確立されている企業以外では、改善活動が継続できないのである。

改善活動を定着させるためのポイント

 活動を継続するためにはいくつかの仕掛けが必要となる。細かい方法論は省略するが、筆者は継続のためのポイントは3つあると考えている。

1.現場が動きたくなる動機付けを行うこと

 日々の業務遂行に直接関係がなく、自分にメリットのない業務は余計な仕事でしかない。多くの企業が実行している5S(2S等含む)活動が典型例で、現場は5S活動が自分たちにとってメリットのあることと感じることできず、結局は指示されたからイヤイヤ実行している、あるいは形骸化している例がほとんどである。
メリットとは売上利益やインセンティブなどに限らない。「褒められる」「評価される」というのも立派なメリットとなる。私の体験事例では、5S活動に伴って始めた顧客(取引先)へのあいさつ徹底が顧客に評価され、それにともない5Sの実行水準が「劇的に」上がった、と言うことがあった。お客さまの評価がダイレクトな動機付けに繋がったのである。

2.しつこく言い続けること

 改善というのは日常必須の業務ではなく、通常は実務にアドオンして行わざるを得ないので、結局誰かが尻を叩かないと進まない。われわれコンサルタントが使う言い方に「百編システム」というものがある。改善を進めるためには、同じことを100回くらい言い続けると言う意味だ。精神論に聞こえてしまうかもしれないが、改善推進には最終的に管理者の覚悟と粘りが必要である。

3.成果がすぐに見える形を作ること

 やったことの結果・成果がすぐに見えるというのは非常に重要である。その日に行ったことを振り返り、翌日には結果が見える仕組みが作れると、現場のモチベーションは大きく上昇する。

 たとえば写真をもっと活用してはどうだろうか。2S・5S活動などを中心に、取り組み前・取組後を写真に撮って、翌日には掲示する。あるいは改善会議の様子や、その場で出された意見などを写真や簡単なメモなどで記し、掲示もしくは朝礼などで紹介する。これだけのことで、成果に対する姿勢はずいぶんと変わってくるだろう。

 最後に、これまで述べた「あるべきPDCAサイクル」として図に示す。

あるべきPDCAサイクル

 上の図には成り行きの考え方も入っており、改善活動に限らないマネジメント全体の取り組みを示したものである。ここまでの説明内容にも十分対応しているので、ぜひ参照いただきたい。

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