第2回 営業生産性を高めるインサイドセールス —内勤営業の役割拡大と業務設計およびマネジメントの要点—
マーケティング・営業


近年、営業生産性の向上が急務となる中、インサイドセールスの導入が進んでいる。従来の営業事務にとどまらず、顧客育成や案件化を担う重要な役割として期待されている。
本コラムではインサイドセールスが注目される背景や、分業によるメリットを整理する。さらに導入を成功に導くための業務設計やマネジメントのポイントを解説する。営業組織の強化を目指す企業に向けた実践的ガイドである。
インサイドセールスとは、相手先を訪問せずに社内で営業活動を行う手法である。電話やメール、オンライン会議などのリモート手段を活用し、顧客とコミュニケーションを取るのが特徴だ。
直接訪問を行うフィールドセールスとインサイドセールスは、機能が明確に分担されている。インサイドセールスは、顧客の潜在的なニーズを明確にするために情報収集や情報提供を行う。一方のフィールドセールスは、ニーズがある程度明確になった段階から専門知識を活かし、詳細な情報収集や個別カスタマイズ提案を行う。インサイドセールスの業務範囲は、大きく3つのレベルに分類できる。
フィールドセールスの補助業務である。問い合わせの一次受付や定型の見積書作成などを指す。従来の営業事務に近い。
見込み客を育成する「リード・ナーチャリング」や、商談に進む可能性が高い顧客を抽出する「リード・クオリフィケーション」の業務である。リストアップした企業の困りごとを聴取し、参考情報の提供や検討進捗のフォローを行いながら案件化へと導く。
顧客の傾向分析やターゲットリストの作成など、新規ターゲットを発見するマーケティング組織に近い高度な業務である。近年の「営業生産性を高める」というテーマにおいて最も注目されているのは、レベル2の役割発揮である。
| 範囲・レベル | 役割 | 主な業務 |
| レベル3 | 新規ターゲットの発見 |
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|---|---|---|
| レベル2 | 案件化・商談化
|
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| レベル1 | フィールド営業の補助 |
|
インサイドセールスが注目される背景には、働き手の減少や競争環境の激化がある。少子高齢化により営業職の希望者が減る一方で競争は激しさを増している。これまでは既存顧客からの売上で事業を維持できていた企業も、それだけでは限界を迎えつつある。持続的な成長のためには、新規市場や顧客開拓の重要度が高まっているのだ。
しかし、新規開拓は情報収集の段階から始まり、成約に至るまでの期間が長くなりやすい。このプロセスをすべてフィールドセールスが担うと非常に高い負荷がかかる。既存顧客のフォローに追われ、新規開拓に十分な時間を割けず中途半端な結果に終わることも少なくない。高負荷な業務だからこそ、効率的かつ効果的に進める必要がある。
そこで有効なのがインサイドセールスとの分業である。役割を分担することで、大きく3つのメリットが得られる。
社内からアプローチを行うため、移動の負荷がない。顧客にとってもスケジュール調整の幅が広がり、迅速な対応が可能になる。
移動負荷の削減分はもちろん、インサイドセールスが初期の情報提供やナーチャリングに集中することで、フィールドセールスは対面での商談や個別提案に専念できる。それぞれが役割に特化し、効率的に業務を進められる。
電話やオンライン商談の記録はデータとして残しやすい。熟練者の知見や経験をナレッジとして組織全体で共有し、成功事例を展開することが容易になる。
インサイドセールスを導入し成果を出すためには、単に担当者を配置するだけでは不十分だ。業務を設計し、属人的なスキルに頼るのではなく仕組み化を図る必要がある。その成功には以下の5つの要素を定めなければならない。
これらの仕組みを設計する前提として、インサイドセールス担当者に求められるスキルを定義しておく必要がある。どの程度の対応を目指すのか、その標準レベルを定めた上で資料を整備する。
第一印象や不快感を与えない言葉づかいなどの基本的な電話対応やオンラインでの適切な顧客対応マナーは、信頼感醸成の大前提である。これに加え、連絡の意図を伝え、相手の興味を喚起しながらも、自社として知りたい情報を引き出すための問いかけを行う「会話のリード力」が求められる。
さらに、顧客の話から真意を正確に聴き取り、潜在的な課題を顕在化させる「顧客聴解力」も不可欠である。得られた情報から顧客視点で語る「個客提案力」も重要だ。自社商品を顧客の課題と結びつけて説明する「商品訴求力」も必要になる。そして何より、複数回のコンタクトを通じて案件化へと導く「商談ストーリー展開力」が成否を分ける。
すべてのスキルを最初から兼ね備えている人材は稀である。そのため、組織として支援ツールや基本となるスクリプトを用意し、一定のレベルで業務を遂行できる環境を整えることが急務となる。
情報収集段階にある顧客に対しては、企業属性や過去の履歴から仮説を立てることが出発点となる。ターゲット企業の課題を想定し、継続的なコミュニケーションを通じて価値を提供するための展開シナリオを用意する。スクリプト設計は大きく4つのステップで進める。
ステップ1:顧客の属性や事業課題仮説の設定と導入検討プロセスの想定
ステップ2:各回コンタクトのゴールとフィールドへの引継条件の設定
ステップ3:今後の情報提供に向けて必要な聴取事項の整理
ステップ4:これらを踏まえた各回のコミュニケーションシナリオの策定
このスクリプト設計や顧客ペルソナごとのシナリオの策定において、生成AIを活用することで、多角的な切り口などを短時間で用意したり、顧客の反応に合わせて変更していくことが可能となる。
なお、実際のスクリプトは、初回や2回目といった接触段階ごとに設計する。初回のアプローチでは連絡の背景を伝え、顧客の問題認識といった必須聴取事項を確実に聞き出す。そして次回に向けた約束を取り付けることが目標となる。
その後、複数回のやりとりを通して顧客の関心度に合わせた情報提供を行っていく。その反応から確度を見極め、条件を満たしたホット案件になれば速やかにフィールドセールスへと引き継ぐ。逆にまだ時間がかかると判断した場合にはコールド案件とし、メール配信を中心としたコミュニケーションへと切り替える。
引き継ぎを円滑に行うためには、フィールドセールスとの連携強化が欠かせない。SFAやCRMといったシステムを活用し、顧客情報を一元管理する。案件を集約して一覧管理し、結果をフィードバックすることが重要だ。
しかし、分業化による弊害として「インサイド側が確度の低い案件を引き継ぎ、フィールド側が疲弊する」「フィールド側が商談結果をフィードバックせず、モチベーションが下がる」といった部門間対立が起きる失敗ケースは非常に多い。
そのためにも、初期のスクリプト作成においては、フィールドセールスが持つ既存の商談ノウハウをインサイド側に展開してもらうことが重要である。また、定期的に組織間で情報交換の場を設定し、インサイド側のレベルを上げていくことも必要だ。フィールド側からの要望も取り入れつつ、お互いにポジティブなフィードバックを行い、継続的に改善する文化を醸成する。
並行して、顧客へ提供するコンテンツの整備も組織的に行うべきである。同業界の課題と取り組み方向や、解決事例などをあらかじめ用意し共有しておく。これにより各担当者が重複して資料を作成する負荷を減らし、最適なタイミングでの情報発信が可能になる。
インサイドセールスを定着させ安定した成果を生み出すには、適切なマネジメントと評価の仕組みが求められる。
まずはコンタクトの記録と状況把握の仕組み作りである。顧客の属性や組織体制、認知経路、顧客の課題や検討プロセスなどをシステムに蓄積していく。各回のコンタクト内容や顧客の反応、今後の活動予定なども詳細に記録する。最近では担当者の入力負荷を軽減するため、生成AIによる音声ログの自動要約ツールを導入する企業も現れている。
マネジメントの時間を確保するためにも、ツールを活用した活動の可視化と重点管理が重要になる。実践すべきマネジメントは主に5つある。これらのデータに基づき、個別フィードバックやフォローアップを実施する。
インサイドセールスは評価指標の設定にも工夫が必要である。売上や成約率といったフィールドセールスと同じ指標だけでは、正しい評価は難しい。コンタクト数や見込案件化数といった量の指標に加え、質の指標を組み合わせることがポイントだ。
具体的には、顧客の状況を的確に情報聴取できているか、提供情報が整合しているかといったコミュニケーションの質を評価する。さらに案件ステータスや確度の見極め判断が適切だったかという判断精度も重要になる。これらは管理者がログを確認するサンプル評価や、案件を受け取ったフィールドセールスからのフィードバックを通じて測定していく。
明確な業務設計に基づき仕組みを構築し、データに基づいた改善を繰り返すことで、初めて組織全体の営業生産性を飛躍的に高めることができるのである。
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経営コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
「顧客期待に応える商品・サービスの提供」と「効率的・最適コストによる運営」の同時実現に向けた改革を主軸としている。サービス開発、各顧客接点チャネル間連携・提供プロセス一気通貫の業務再構築、インサイド・セールスの役割拡大や、質を高めるためのマネジメント改革を行う。寄稿に「中小企業のためのIoT導入のポイント-マーケティングにおけるIoTの活用と課題」(商工中金経済研究所)など
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