第4回 リテンションを促進するカスタマーサクセス — 顧客の成功体験を創出し事業成長につなげる実践的アプローチ—
マーケティング・営業

コラム
2026.09.29

新規顧客の獲得コストが高騰する中、既存顧客から継続的な収益を生み出すリテンションビジネスの重要性が増している。その中核を担う機能がカスタマーサクセスである。本コラムでは、カスタマーサクセスの概念や重要性を解説する。さらに、育成・支援とリード創出の2つのフェーズにおけるポイントや、実践事例を紹介しながら、顧客の成功を自社の成長へつなげる実践的アプローチを提示する。
カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを通じて目標を達成できるよう支援する機能である。またはその専門組織や専門職を指す。事業は、単に製品を販売して終わりではない。販売後に、企業が能動的に関与し、顧客の成功体験を創出することで、長期的な関係を築くことができ、結果として企業の収益増加につなげることが目的である。
これまでカスタマーサクセスは、主にIT業界で発展してきた。毎月定額を支払うサブスクリプション型のビジネスモデルで進展してきた。その内容は、ある日突然契約を打ち切られるリスクを防ぐため、提供側から働きかけて継続購買を促すことが中核的な機能であった。
カスタマーサクセスが求められる背景
しかし近年では、あらゆる業界でその重要性が高まっている。その背景にはリテンションビジネスへの転換がある。新規開拓は既存顧客の維持に比べて3倍のコストがかかると言われている。そのため、既存顧客を維持し、取引を拡大して収益を上げるほうが効率が良い。従って、既存顧客の生涯価値を最大化し、ビジネスの収益を上げることが求められている。
また、製品の高度化や複雑化も要因である。顧客が製品の機能を使いこなせないケースが増加している。使用時のギャップやお困りごとを解決する機能が不可欠となっているのだ。なぜなら、顧客は製品そのものが欲しいわけではなく、製品を使うことで得られる成果を求めているからである。
さらに、営業活動の分業化が進んでいることも背景にある。潜在ニーズを発掘するマーケティングから始まり、インサイドセールスへと引き継ぐ。そしてフィールドセールスが受注を獲得する。この受注後の使用プロセスを担う機能として、カスタマーサクセスが位置づけられているのである。
カスタマーサクセスを理解する上で、従来のカスタマーサポートとの違いを明確にしておく必要がある。
カスタマーサポートの目的は、購入した製品やサービスが問題なく使用できる状態にすることである。問い合わせの受付やクレーム対応、修理などを行う。基本的には顧客からの連絡を待って対応する受動的なスタンスである。最終的な目標指標はアフターサービスの満足度となる。
一方、カスタマーサクセスの目的は、顧客が本来得たかった成果を得られる状態にすることである。顧客の成果創出状況を確認し、成果創出の支援や継続購買の促進を行う。顧客からの連絡を待つのではなく、自ら顧客の状態をモニタリングし提案を行う能動的なスタンスである。最終的な目標指標は、顧客が得られる成果と継続購買率となる。
| カスタマーサポート | カスタマーサクセス | |
| 目的 | 購入した製品・サービスが問題なく使用できる状態にする | 購入した製品やサービスにより、顧客が本来得たかった成果が得られるよう状態にする |
|---|---|---|
| スタンス | 受動 | 能動 |
| 主な役割 |
|
左記に加えて
|
| KGI | アフターサービス満足度 | 顧客が得られる成果と結果としての継続購買率 |
カスタマーサクセスのプロセスは、大きく育成・支援フェーズとリード創出フェーズに分かれる。
育成・支援フェーズは、導入した製品が顧客の環境で機能し、問題なく使える状態に導くフェーズである。導入計画の立案と実行を行う導入支援と、ユーザートレーニングやヘルプデスク対応などの使用問題解決支援がある。さらに利用状況のモニタリングや成功事例の共有を通じて、顧客が自立して製品を活用できる適応・習熟支援もここに含まれる。
リード創出フェーズは、顧客の成果創出状況を積極的にモニタリングし、新たなビジネス機会を生み出すフェーズである。顧客が目標とする成果を出せていない場合、解決に向けた提案を行ったり、上位製品への移行や関連製品の追加購入を提案するアップセルやクロスセルを行う。同時に、関係性を維持するための再購買提案も行う。顧客のロイヤリティを確認しながら、次なる提案へとつなげていくタスクである。
これらのフェーズを成功に導くためには、それぞれ押さえておくべきポイントがある。
育成・支援フェーズでは、顧客の満足度を最大化することが求められる。そのためにはきめ細かいモニタリングが不可欠である。具体的には、顧客が製品を使いこなせているかを把握する仕組みを作り、定期的にフィードバックを行い、顧客と一緒に問題解決を図る姿勢が重要である。
次にクイックレスポンスである。ユーザーからのアクセス性を担保し、チャットなどを活用してスピーディなサポートを提供する。さらにエフォートレスな環境づくりも重要である。顧客に無駄な労力をかけさせない工夫である。ユーザー自身で疑問を解決できるFAQの充実や、他部門と連携して顧客のたらい回しを防ぐ仕組みが該当する。
リード創出フェーズでは、顧客の成果実現を第一に考える必要がある。最大のポイントは顧客課題の理解である。顧客を取り巻く環境や、事業プロセスの課題を深く理解すること。導入した製品だけでは解決しきれていない課題を把握することが出発点となる。
その上で顧客成果実現の提案を行う。自社の製品やサービスでどのように顧客の課題を解決し、成果をもたらすのかを提案する。こうした活動を通じて相互交流を深め、成果とロイヤリティを常時モニタリングする。その仕組みを作ることがロイヤリティの獲得につながるのである。
最後にある産業用機械メーカーにおけるカスタマーサクセスの実践事例を紹介する。この企業は年間売上400億円規模であり、徐々に顧客の離反が増加するという課題を抱えていた。
以前はアフターセールスを技術部門が担当していた。機械の調整や定期点検、問い合わせ対応を受動的に行っていた。営業部門は機械の買い替えや増設案件が発生した時だけ対応するという体制だった。部門間の連携が薄く、顧客の継続的な成功を支援する仕組みが存在していなかったのである。
そこで顧客リテンションマネジメント改革プロジェクトを発足させた。重要な顧客に対して、技術部門と営業部門が連携する顧客ごとのバーチャルチームを形成した。カスタマーサクセスという専門部署を新設したわけではなく、既存の組織を横断するチームとして機能させた点が特徴である。
具体的な取り組みとして、IoTを活用した導入機械のモニタリングを開始した。稼働率のデータを収集し、月1回のペースで顧客との改善会議を実施した。現場の観察やインタビューも交えながら、段取り替えなどに伴う機械の停止時間を減らすための課題を抽出した。そして改善に向けた対策を提案し続けた。
さらに年1回は経営トップ同士による戦略目標会議を設けた。そこで3年先の生産性目標や課題を顧客と共有したのである。機械単体の改善にとどまらず、生産ライン全体の生産性を上げるためのロボットやマテハンの導入を提案した。結果としてこれらのクロスセル案件の受注に成功したのである。
この事例の成功要因は、機能としてのカスタマーサクセスをチーム体制で意識づけたことにある。さらにIoTを活用して顧客の実態を正確にモニタリングした。顧客の成功という目標を共有し、継続的な改善提案を実施したことが、自社の売上拡大へと結びついたのだ。
カスタマーサクセスの組織を早期に立ち上げ、機能を充実させるためには実践を通じた学習が有効である。JMACでは、カスタマーサクセスに向けたアクションラーニングを提案している。研修と現場での実践を繰り返すことで、学習効果を飛躍的に高めるプログラムである。
自社がターゲットとする企業の情報を収集し、抱える課題を深く洞察する。日々の営業活動を通じて得られた生きた情報を分析し、提案すべき領域を発見することが目的である。
ステップ1で見出した提案領域を具体化し、課題を解決するための企画を立案する。チーム内で議論を重ね、提案の優先順位をつけながら個別の提案書を作成していく。同時に、どのようなアクションプランで提案を進めるかの道筋も設計する。
作成したアクションプランに基づき、実際の顧客に対して提案活動を行う。この実践から得られた気づきや新たな仮説を抽出し、教訓としてまとめる。必要に応じてアクションプランの軌道修正を行い、次の提案活動へとつなげていくのである。
このように、集合研修などのワークショップと現場での実践を交互に繰り返す。学んだことをすぐに現場で試し、その結果を持ち帰って再び議論するプロセスである。このサイクルを回すことで、担当者のスキルは実践的に磨かれていく。カスタマーサクセスの体制構築に悩む企業にとって、強力な推進力となる。
![]()
経営コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
1991年 日本能率協会コンサルティング入社。製造業、サービス業、情報 ・通信産業などのマーケティングおよび営業競争力革新を専門領域とする。営業マネジメントシステム開発、セールススキル評価および強化、営業部門情報武装化(SFA)支援、ソリューション営業実践支援などのコンサルティングの経験を有する。
自立・自走できる組織へ
信頼と実績のJMACが、貴社の現状と課題をヒアリングし、解決策をご提案します。