第3回 セールステックで実現する営業生産性向上 —DXツールの導入から定着・活用までの実践的な進め方—
マーケティング・営業


営業部門を取り巻く環境が変化する中、生産性向上の切り札として「セールステック」が注目されている。しかし、ツールを導入しても定着せず、壁にぶつかる企業は少なくない。
本コラムでは、セールステックの基本から、導入時に陥りやすい壁、そして組織に定着・活用させるための具体的なステップやポイントを解説する。これは、営業組織の強化を目指す方への実践的なガイドである。
セールステックとは、「セールス」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語である。営業組織や業務の効率化、生産性向上のために、営業活動をサポートする各種ツールやITサービスのことを指す。
その目的は、従来の経験や勘に頼った属人的な営業スタイルから脱却することである。ツールに蓄積したデータを活用し、人とテクノロジーを融合した組織的な営業スタイルへと転換を図るのだ。
このセールステックに注目が集まる背景には、営業部門を取り巻く環境の大きな変化がある。第一に、営業職人口の減少と採用難である。2000年頃と比較して、営業職の数は大幅に減少している。営業職はノルマが厳しいといったイメージを持たれやすく、採用が難しいと感じる企業も多い。
第二に、競争環境の激化と顧客側の変化である。顧客自身もテクノロジーを活用し、効率的なやり取りを求めるようになってきている。Webセミナーのように、ITツールを活用したコミュニケーションが当たり前になりつつある。
さらに、各種テクノロジーが進展し、比較的手の届きやすい価格帯で多様なサービスが提供されるようになったことも背景にある。企業は、働き手が減少する中で現状のリソースを維持しつつ、売上や利益を向上させなければならない。そのためには営業の生産性向上が不可欠であり、セールステックへの期待が高まっているのである。
セールステックには様々なツールやサービスが存在する。その全体像を理解するためには、自社の営業プロセスに当てはめてみることが有効である。
まず、マーケティングや見込み客育成の段階では、「MA(マーケティング・オートメーション)」がよく使われる。新規顧客の獲得などを目的とし、見込み客の属性に合わせたメール配信を行う、Webサイトの行動情報などから見込み客のスコアリングを行い、確度の高い顧客を抽出するといった活用がなされている。
次に、ニーズ収集から提案、商談・交渉へと進むプロセスでは、「SFA(セールス・フォース・オートメーション)」が活躍する。受注確度の向上や営業活動の効率化が主な目的である。案件化のプロセス別に進捗を管理し、日々の活動や商談情報を蓄積・活用する。
そして、成約後のカスタマーサクセスやリピート獲得の段階では、「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」がある。顧客との関係維持・管理を目的とし、問い合わせ履歴などの情報を蓄積する。顧客の困りごとや現状を的確に把握し、適切なアプローチにつなげるためのツールである。
他にも、蓄積されたデータを可視化・分析するBIツールがある。オンラインで会議を行うWeb会議ツールや、名刺情報をデータ化して共有する名刺管理ツールも代表的だ。近年では、プレゼン資料作成やロールプレイングに活用できる生成AI、日程調整ツール、電子契約サービスなども普及している。自社の課題に応じて、これらを組み合わせて選定することが重要である。
ここで、SFAを導入して組織的な営業を実現した具体的な事例を紹介する。
導入前の現場では、顧客情報は各営業担当者が個別に収集し、それぞれの手元で保管されていた。営業手法はローラー作戦に頼りがちであり、商談の進め方も個人のスキルや人間関係に依存する属人的なものであった。
SFAを導入し、業務フローを見直した結果、状況は一変した。過去の顧客情報や案件情報、営業ノウハウがツール内に一元的に蓄積されるようになったのである。この蓄積情報を活用し、自社と相性の良い顧客を戦略的にターゲティングできるようになった。案件のランク付けや資源配分も最適化された。
さらに、システムが次のアクションを提案してくれるようになった。顧客の特性やスケジュールに応じ、訪問すべき顧客を自動で提案する仕組みである。情報がリアルタイムで共有されるため、タイムリーな社内サポート体制も実現した。組織的な営業活動が可能になり、さらなるノウハウが蓄積される好循環が生まれたのだ。
この事例の成功要因として、経営トップ層が中心となって推進を支援したことが挙げられる。また、情報の蓄積に一定の強制力を持たせたことも効果的であった。そして、現場での成果実感を横展開し、実例をもとに活用を促したことが定着につながったのである。
効果が期待できるセールステックだが、活用を進める上で3つの壁に直面する企業は多い。
導入目的の認識が組織内で統一されておらず、部署ごとに意見が対立することがある。対面での報告を好む管理職が、ツールによる情報共有に難色を示すケースなどが典型だ。自社の営業スタイルに合うシステムが見つからないことや、既存システムとの連携の難しさも障壁となる。
導入目的が現場に正しく伝わっていないことが多い。デジタルツールへの抵抗感を持つ社員もおり、使い方の周知が不十分だと利用が進まない。一部の部署や担当者しか使わない状態になりがちだ。従来の表計算ソフトと新しいツールの二重管理状態に陥り、現場の不満が高まることも多い。
データが蓄積されても、それを分析するスキルを持つ担当者が不在のケースが多い。入力ルールの不徹底により、情報の粒度や精度にばらつきが生じる。その結果、有益な分析結果を導き出せず、意思決定や次のアクションにつながらない事態が発生する。
これらの壁を乗り越えるためには、一足飛びのツール導入を避けるべきだ。他社の成功事例を見て「ツールありき」で検討すると失敗を招きやすい。現状の問題を正しく見極め、全社的な目的を明確にすることが重要である。着実な導入を進めるための6つのステップを解説する。
ツール導入の前に、営業プロセスごとのあるべき姿を描く。そこから現状とのギャップを明確にし、解決すべき問題を特定する。既存のシステム稼働状況も把握しておく。
3年程度の長期的な営業改革構想と、セールステック活用のロードマップを作成する。これに基づき、当面1年間で実行すべきアクションプランを具体化する。
ロードマップに基づき、必要なツールの要件を定義する。どのような機能が必要か、ツールの全体像を設計する。
提案依頼書(RFP)を作成し、明確な選定基準を設ける。複数のベンダーを比較検討した上で、自社に最適なシステムを決定する。
現場での運用フローやルールを整理し、運用ガイドを作成する。単なる操作説明ではなく、業務がどう変わるのかを含めた導入前教育を徹底する。
導入後も成果を測定する仕組みを稼働させる。活用状況を踏まえ、機能改善や新たな活用方法を継続的に提案していく。
ツールを導入した後、現場に定着させ真の活用を促すためには、8つのポイントがある。
何のためにツールを使うのか、全体像を明確に示す「目的の共有・浸透」が大前提となる。また、入力・活用の前提として、入力しないと業務が進められないなど、一定の不利益を設定する「強制性」も有効だ。
さらに、現場の心理的ハードルを下げる要素として、「秘密主義の排除」がある。情報を公開することへの不安を取り除く必要がある。
また、現場での活用を促進させるために、ツールの「使いやすさ」、社外や時間外でも利用できる「アクセス容易性」、見たいデータを自由に抽出できる「カスタマイズ容易性」、経営トップや上司からの「組織的支援」が重要となる。
そして最も重要な要素が「メリット実感」である。入力を続けることで、業務が楽になったり成果が上がったりする実感を現場に持たせることが不可欠だ。
定着後は、組織の利活用レベルを以下の3段階で捉え、状況に応じた施策を打つ。
| 利活用レベル | 見出し | 取り組み例 |
| Lv3.成果が出ている |
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|---|---|---|
| Lv2.活用できている |
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| Lv1.使いこなせる |
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レベル1は「使いこなせる」段階だ。登録ルールを理解し日々の活動を登録できる状態である。ここでは丁寧な操作説明会やマニュアル展開が有効だ。
レベル2は「活用できている」段階だ。蓄積した情報を元に戦略を考え、マネジメントに活用している状態である。実践型研修を実施し、従来の会議資料をシステムのデータに置き換える取り組みが重要になる。
レベル3は「成果が出ている」段階だ。業務効率化が進み、受注額などが向上している状態である。成功事例を抽出し他部署へ横展開する。さらに機能の継続的な改善を行う。
セールステックは導入して終わりではない。現場の実態を見極めながら、適切な支援と改善を繰り返すことが、真の営業効率化の実現につながるのである。
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経営コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
営業・マーケティング領域を専門としており、営業や小売店舗、コールセンターなど顧客接点部門・業務を中心とした改革に取り組んでいる。電気設備・電子部品・硝子等の製造業、鉄道・航空・建設設計・保険・教育等の各種サービス業での支援経験を有する。また、DXの導入・定着化支援や新事業の検討・新製品開発の仕組み構築等を実施している。
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