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JMAC品質経営研究所だより Vol.19
アメリカと日本の信号機の違いから考察
~日本のモノづくりが、その信頼性を問われている~

  • 生産・ものづくり

宗 裕二

変わるときに時差がない、アメリカの信号

メリカ赴任中に自動車の運転免許を取った。シカゴにいた時は、会社の車に乗せてもらい移動することが多かったが、カリフォルニアに移ってからは自分の車で自宅から会社まで通うことになったため、カリフォルニア州の免許が必要となったからだ。 もちろん、国際免許を取得していたが、住所をアメリカに移したからには国際免許ではだめだと言うことであった。国際免許は旅行者のためのものであり、居住者は居住する州の免許を取らなければならない。

 19-1.jpg車の運転をしていて、大きな違いとして気が付いたのが、信号の変わり方だ。
 日本の信号は「時差式」と言う方式で、青信号から赤信号に変わる際、一度すべての信号が赤になり、しばらくしてから赤信号だった反対側の信号が青になる。安心な設計であるかと思われるが、本当にそうだろうか?

 アメリカの信号は、変わるときに時差がない。従って、目の前の信号が赤になったと同時に反対側の信号は青になっている。皆、それを良く知っているので、青になったからといって飛び出すことは無く、右をみて左をみて、安全を確かめた上で発車する。
 また、赤信号をぎりぎりで通り抜ける車もなく、黄色信号では徐行するのが当たり前で、決して無理をしない。アメリカと日本の信号機の違いをアメリカ人と話題にすると、「何のために黄色があるんだ!?」と言われてしまった。
 全く、その通りである。では、なぜ日本では「時差式」の発想が出てきたのであろうか?改めて疑問に思った。

 日本の信号が「時差式」となった経緯は詳しく知らないが、自己責任ではなく、集団責任を好む日本らしさが感じられておもしろいと思った。集団責任と言うよりは、過保護であると言えるかも知れない。こうした違いは比較文化論を専門に研究されている研究者の見解を知りたいところだ。

 現地で私に英語を教えてくれていた先生はUCLAの比較文化論を選考する大学院生だったが、「考えたこと無かったな」とのことだった。品質に対する考え方にも違いとして良く表れていると思う。

成熟した社会に暮らす現代人は、もっと自己責任を自覚すべき

品を購入した際、「その商品を選んだのは自分自身であって、確認して買ってきた。しかし、不良品であった場合も含め、やっぱり気に入らない場合は、交換してほしいし、交換する制度がある」のが、アメリカでの基本的な考え方である。

 19-2.jpg日本は、「不良品は決して販売しない。不良品であった場合には企業側が責任を持って返品に応じるし、交換も行う。しかし、気に入らなかった場合は、返品や交換に応じかねる場合もある」と言うのが、日本での基本的な考え方であろう。品質保証のしくみや制度、体制を構築する上で、考えなければならない重要なポイントであると考えている。

 何事も「政府が悪い、社会が悪い」と訴える人がマスコミで多く取り上げられ、「責任を追及する」と、自分のことは棚に上げて他人を非難するばかりの人が多いことは悲しいことだと思う。成熟した社会に暮らす現代人は、もっと自己責任を自覚しても良いのではないだろうかと思う。

最後まで安全を考えた余裕ある製品を顧客へ届けるべき

年、問題となっている品質の不祥事問題にも関係していそうだ。一度定めた規格値を逸脱すれば、それは明らかに不適合品であり、技術者が議論しただけで、良品に変わることなどありえない。

 しかし、規格値(規格幅)に余裕があり、少々逸脱しても事実上問題はないと考えてしまうとしたら、まさに時差式の信号システムを、品質管理のシステムの中に自ら作り出しているに等しい。そして、時差式だから赤になった直後には誰も交差点には進入しないから、思い切って突っ込んで通過してしまおうと考えていることになる。

 日本の誇りある技術者が作り出す正しい判断基準であるとはとても言えなくなってしまう。安全を考えて余裕をもって設定した規格であるなら、最後まで安全を考えて余裕で製品を顧客へ届けてもらいたいものだ。

 日本のモノづくりが、その信頼性を問われている。

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