積水化学工業株式会社
品質保証の視座を育てる 次世代リーダー育成研修の成果

事例
2026.07.06
積水化学工業株式会社

山本さん(左から2人目)と受講生。
同社 京都研究所にて



積水化学工業株式会社
製造業では品質保証を担う人材の高齢化と後継者不足が深刻な課題だ。積水化学工業の環境・ライフラインカンパニーは、品質保証を軸に、次世代を担うリーダー育成研修プログラムを実施した。現場で求められる判断力とマネジメント力をどう培ったのか。品質を全社の活動として根づかせる、その成果に迫る。
積水化学工業の課題
品質保証活動の継承/キーパーソンの育成/QMS*運用の標準化
住宅やビルなど建築物向けの給排水管や空調配管から、工場向けのバルブや高機能管、上下水道・農業・電気・ガスといった社会インフラ向けまで、さまざまな配管材を提供している積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー。
1947年の創業以来、培ってきたプラスチック材料加工技術を多分野、多用途にも展開してきた。雨といやエクステリア材などの建材製品、介護機器や浴室ユニットなどの生産・販売に加え、近年、社会問題となっているインフラ老朽化対策の補修・更生・更新工法も手がけるなど、ライフラインを支える商材を幅広く製造・販売している。
「私たちの商材やビジネスは、公的機関や団体の認証を受けて初めて製造・販売できるものが多く、各機関から信頼を得て、お客さまに採用していただくことで事業が成り立っています。だからこそお客さまの満足と信頼につながる品質を重視し、その品質保証を将来にわたって支える人材を継続的に育てていくことが大事だと考えています」と話すのは同社技術・CS部生産基盤グループ長の山本和明さんだ。

技術・CS部 生産基盤グループ長・山本和明さん
山本さんは1995年入社。ライフライン製品の新製品開発や改良などに約10年従事した後、外注委託製品の開発および品質改善・品質管理業務を担当した。その間、ユーザーから機能や品質への期待、感謝の声を直接受ける一方で、重大な品質クレームへの対応も経験した。
「現場責任者として問題解決にあたる中で、品質不具合が顧客の信頼や会社に与える影響の大きさを痛感し、品質保証・品質管理の重要性を深く認識しました。その経験は、その後のライン長業務の基盤となり、品質保証は製造業の経営そのものに関わると考えるようになりました」(山本さん)
一方で、品質保証を担う人材の不足は、製造業全体に共通する深刻な課題で、同社も例外ではない。背景には2000年代以降の新卒採用の減少で母数そのものが小さくなったことがある。さらに人材配置において製造や技術開発などの直接部門が優先され、品質保証をはじめとする間接部門のライン長候補育成が後回しにされてきた経緯なども影響。結果、現場では職責者の高齢化が進む一方で、後任が見当たらないという〝悲鳴〟が上がっていた。
こうした状況を受け、後継人材を急いで養成する必要があった同社。社内にはeラーニングやウェビナーなどの教育ツールはあるが、2022年に現在のポジションに就いた山本さんは、それだけでは差し迫った状況で難しい判断を下す力はなかなか養えないと感じていた。
「教科書に書かれている知識を判断材料として身につけることは大切ですが、それだけでは実際の現場では十分ではありません」。山本さんはそう話し、続けて「品質面で事業を止めない〝判断力〟と、社会インフラを担う企業としての社会的責任を全うする〝覚悟〟の両立が必要となる局面を実際に経験し、現場での判断力や問題解決力の重要性を身をもって学びました」と振り返る。もっとも「現在は会社として知見を蓄積し、品質を安定的に支える体制が確立されており、重大なクレームは起きにくい状況となっています。それは素晴らしいことです」と評価したうえで「ただ、この社会に〝絶対〟はありません。将来、万が一、重大な問題が起きたときに、会社として次の世代に十分な判断力を引き継げているのか、経営の責任として強い危機感を持ちました」と吐露する。
そこで山本さんは、現場で難しい判断を迫られる状況を再現し、受講生が自ら解決プロセスを主体的に牽引する研修ができないかと思案。会社として以前からつながりのあったJMACに相談し、当社として譲れなかった「判断の原理原則を体得させる」というねらいを共有し、レクチャーと実践演習を組み合わせた研修を共に設計していった。
受講生は、同社傘下の全国事業所から次代を担う「エース候補」として12人を選出。将来的に部長級のライン長として事業所でマネジメントを司ることが期待される人材を対象に、品質保証部門に加え、技術開発部門や製造部門からも募った。
背景には同社の「品質は経営の基盤であり、各部門の活動の連鎖で実現する」という確固たるマインドがある。「次代の担い手を育成する研修では、品質保証を中心に置いた単元の設定が望ましい」(山本さん)
とはいえ、初めての試みで受講生には当初、戸惑いもあった。東都積水 生産基盤部品質保証グループ長の浅川直樹さんは自身の業務に直結するため、すんなり参加できた一方、九州積水工業 生産基盤部部長の久保田英樹さんは当時、製造部門の課長で「品質保証の重要性は理解していましたが、専門ではないため大きな不安を感じました」と振り返る。

九州積水工業 生産基盤部 部長・久保田 英樹さん
また滋賀栗東工場技術部強化プラスチック管技術課課長の従野友裕さんも「品質部門から人選すればよいのに、どうして自分なのだろうと思いました」と告白する。
研修は2022年秋から約2年間、8回にわたって対面で実施。「レクチャー・実践(アウトプット)・クロスレビュー」を基本的な流れとし、リスク発見力の向上やロジカルシンキングの実践、リーダーシップの発揮を目指した。

滋賀栗東工場 技術部 強化プラスチック管技術課 課長・従野友裕さん
実際に研修が始まると、受講生にプレッシャーを与えたのは「クロスレビュー」の時間だった。レクチャーで学んだ内容に基づき自部門の課題に向き合い、それをクロスレビューの場で発表。その内容について講師やほかの受講生からフィードバックを受け、気づきを得る。今回はあらかじめ用意された仮想の課題ではなく、各事業所で実際に判断と解決が求められるようなテーマを扱った。そうすることで受講生が現実に近い状況の中で考え、判断し、行動する力を身につけられるよう設計したのだ。
受講生は日ごろの業務への向き合い方そのものが問われ、講師やほかの受講生から鋭い指摘や本質を突く質問を受けては新しい気づきを得ていく。その繰り返しの中で、論理的に物事を考える力や自身の思考の癖を客観的にとらえる力なども養われる。最初は戸惑っていた受講生も次第に自身の立ち位置を理解し、研修の意図を汲み取り、必死に食らいついていった。その結果、「研修後半では、自分の事業所や会社全体の現状に問題意識を持つ受講生もいて、成長を感じました」と山本さんは評価。研修の開催状況や受講生の状況は、全国の事業所長を含む上長にも共有し、実践課題に上長も関わるよう促し、現場指導も強化させた。
浅川さんは受講前、品質異常が発生したときは「直接原因」を深掘りし、対策をすることがすべてだと考えていた。だが研修によって、仕組みそのものや管理体制、さらには会社の経営姿勢といった「根本原因」に視点を移せるようになり、実際に事業所で仕組みの改善を進められるようになり、品質に関する議論の仕方そのものが変わってきたと感じている。
また基盤強化に直結する品質規定や標準をつくる際には「PDCAを回して維持・管理し、形骸化させない、という考え方を前提とし、運用して意味のあるものを考えられるようになりました」と話す。
一方、「以前は現場の力技や個人のスキルで問題に対応してきました」と振り返る久保田さんは「研修を通じて、工場運営で重要なのは、属人的な要素を排し、誰が担当しても変わらず高い品質を維持できるQMS(品質マネジメントシステム)を機能させることだと理解しました」と自身の変化を語る。
長年の経験と勘に頼るのではなく、あるべき姿と現実のギャップを論理的に分析する習慣が身についたのも成果だった。そのうえで現場でもQMSへの理解を広げ、全員が高い視座を持って動ける組織づくりを進めていきたいという。
従野さんは研修を通して「品質保証活動はトップ層だけが考えることではない」「品質はかけ算で成立する」といった言葉が印象に残ったと話す。QMSの全体像への理解がより深まったことで、常に会社全体のあるべき姿を考え、必要だと感じたときは社内規定の改訂や仕組みの改善などを促すようになった。
「研修で身につけた品質保証の原理原則を武器に、自信を持って語れるようになりました」(従野さん)
また「OFF—JT(OFF-the-Job Training)が人材育成に不可欠だと実感し、負荷のかかる研修だからこそ成果も大きいとわかりました」と語り、以降も社外の研修に取り組み、部下にも受講を勧めている。
中期計画の初年度だったため、研修のゴールは、〝品質保証の視点から現行の中期計画を見直し、事業所の現実を踏まえた修正提案ができる人材〟を育てることとした。最終報告会では 全国事業所長出席のもと受講生が発表。それぞれの挑戦や問題意識が 上層部に伝わる機会となり、社内での認知や発言力向上につながった。実際、受講生の多くがその後、昇格や新任ライン長に抜擢されている。
「今後も広い視野と高い視座を持ち、品質を個人任せにせず、組織として動かすリーダーシップを発揮して欲しいと願っています」と話す山本さん。
品質保証活動を 事業所ごとの取り組みにとどめず、全社的な課題として規定の統一や情報共有を進めるとともに、従業員一人ひとりの意識を高め、組織文化として根づかせていくことが次のフェーズとなる。その実現に向けて、今後どのような研修体制を築いていくのか。
「社会の変化や技術進歩が加速し、生産年齢人口の減少も進む中で、変化を先取りし、現場を適切にマネジメントできる人材の育成と配置は、製造業の事業継続においてますます重要になります。今後も人材育成と適切な配置を継続して検討していきたい」、そう語る山本さんの熱意は確実に受け継がれていく。
人材育成の研修はレクチャーだけでは十分な効果を得られません。本研修では「レクチャー・実践・クロスレビュー」のサイクルを通じ、他部署への提言や自職場の俯瞰による中期計画の見直しまでを完遂しました。常に高い視座と広い視野を意識しながら、リーダーに不可欠な課題設定力や周囲を巻き込む力、そのための論理的思考を着実に磨き上げました。この学びを実務に落とし込み、絶えず思考を研鑽し続けることで、ものづくりの現場を牽引するリーダーとして飛躍されることを心より期待しています。
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dXコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
開発・調達・生産の課題解決に従事し、自動車部品、産業機械、電機、化学、食品、医薬、化粧品、等の業種において多くの実績を持つ。個社の特性を踏まえ、ものづくり全体の問題構造を捉え、持続的にQCDを高められるシステムづくりにこだわって取り組んでいる。 「ものと情報のよどみない流れ」に着目したシステムの設計から、人材育成・マネジメント体制整備等運用レベルの向上に至るまで、全社課題の解決に取り組んでいる。
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