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第35回 生産財企業のマーケティング戦略パターンその4

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

マーケティング戦略とは、『顧客を明確にし、買われる仕組みを作る活動を計画的に行っていくこと』です。 生産財企業のマーケティング戦略を、顧客特性の違いにより4つのパターンに分けて考えることを提案しました。 今回は、複合管理型生産財の検証です。 (下図参照)

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ユーザーに密着した組織連携活動の仕組み確立が必要となる

複合管理型生産財は、対象となる顧客が限定され、需要も顧客の事業計画に大きく影響を受ける特徴があります。それ故、顧客の需要予測を第一に考え、顧客基本スペックの初期段階から参画することがビジネス成功に不可欠です。 まずは、公式、非公式の顧客組織を理解し、自社ビジネスに関係する顧客の購買決定プロセスでどういう部門/人が、どのような役割で関わっているのかを踏まえ、組織横断的な対応によりキーパースンのニーズ理解を深めることです。少なくとも、営業、技術サービス、設計、製造の相互連携による対応強化が必要です。(下図参照)

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顧客対応窓口機能を果たす営業担当者とマネージャーは、プロセスに沿った組織活動を行うため、顧客と社内を結ぶ調整役としての役割を充実させることです。社内関係者に予測・計画内容を早め早めに伝えることで、アプローチ対象者への働きかけの目的と役割について十分すり合わせておくなど意思決定の要因を把握した有機的な働きかけを行うのです。このような活動を通じ、顧客との組織的人材ネットワークの資産づくりを行うのです。

しかし、多くの営業部門・担当者は、このような顧客関係者とのつながりを会社の資産としてとらえる思考が薄く、営業マン個人の財産となり目先の対応中心になる傾向があります。そのため、顧客財産の引き継ぎが不十分で顧客のロイヤリティ形成も進まないのです。

また、受注プロセスに色々な影響を与えるキーパースンは一人でないケースが大半であるにもかかわらず、顧客企業の購買窓口にはアプローチをしても、設計、技術、製造などへの技術対応アプローチは弱くなりがちです。 設備生産財などは、機器(システム)納入前後のタイミングで、装置、操作などに関する顧客設備で適用技術の指導が不十分になり、導入後にクレームなどで顧客の不信を買い、そのことが後々の買い替え、買い増しにつながらないケースがあります。

技術・サービス、営業など顧客対応部門スタッフへの顧客設備環境下での適用技術指導強化が顧客を自社ファンにする絶対条件です。また、アプリケーション技術と技術に裏打ちされたサポート体制、営業と技術との連携など担当者からトップ複数連携による対応力と継続的組織的な顧客マネジメント力が必要です。

(受注型)大型建築の場合

典型的な複合管理型生産財である大型建築を取り上げ、マーケティング戦略推進の特徴を整理してみましょう。

(1) 顧客の(発注)意思決定のプロセス
大型建築の場合、最も多いプロセスは2つあります。
一つは、施主が主体となって希望をおこし、設計事務所が相談に乗るというケースです。この場合は、施主の希望内容を踏まえ、設計事務所が建築会社を指名斡旋します。その上で、施主の入札結果で設計事務所とも相談し決定します。
二つ目は、設計機能を有する建築会社が直接施主にアプローチし、入札結果を踏まえて決めます。
設計が別建ての場合は、施主の要求条件に合いそうな設計事務所を引き込んで対応します。

(2) 関係者の基本的ニーズ
(ア) 施主
 ・土地、意匠デザインを含む設計企画、予算などの総合企画で事業発展に適合した建築が欲しい
 ・建築により派生する諸々の障害を未然に防ぎたい。

(イ) 設計事務所
 ・自社の設計技術を活かしてくれる施主や建築会社と仕事がしたい。
 ・設計の跡が建築物に残り、それが次の受注誘因につなげられるような仕事がしたい。
 ・建築により発生する確認申請、日照権問題対応などにはできるだけ関わりたくない。
 ・予算額による設計へのシワ寄せを回避したい。

(ウ) その他の関与者
 ・金融機関は、融資額の完全回収面から建築にまつわる事業の成功確証をとりたい。
 ・自治体は、法規制に抵触し、後でトラブルを引き起こし責任追及されることは絶対避けたい。
 ・テナント斡旋者は、建築の質(雨漏り、隣人騒音など)がクレーム材料にならないようにしたい。

(3) 関係者の取引特性
(ア) 施主
 ・建築後は、当分リピート受注機会はないが、実績は、将来受注候補の強いつながりとなる。
 ・建築完成後のメンテナンス対応力により、他の施主紹介やリピート依頼を左右する。
 ・建築時の色々なトラブル処理など一番困っている問題解決への協力度合いが信頼感を決める。

(イ) 設計事務所
 ・専門家として高いプライドと技術者センスがある。
 ・建築会社と連携して施主から信用を得ると、他案件でも同一の連携取引に発展する。
(ウ) その他の関与者
・金融機関は、融資決定のシビアなデータを要求する。預金獲得支援などで施主に建築会社を推薦することもある。
 ・自治体は、情報は流してくれるが、取引には介入しない。
 ・テナント斡旋者は、建築会社の推薦力はある。

(4) マーケティング戦略検討上のポイント
 ・具体的な商品として決まった型はなく、顧客の希望条件に合わせて技術を組み合わせた個別受注方式であるため企業としての付加価値ポイントをアピールしにくい特徴があります。

 ・設計と建築技術と材料の組み合わせにより現地造成するので品質安定保証を担保しにくいため、過去の実績と社会的な信用が大きくものをいいます(技術力そのものはアピールしにくい)。

 ・長年に亘わたる品質保証が要求されるので営業・技術・サービスの一体展開が重要です。

 ・顧客(施主)とパートナー(設計事務所、商社、不動産業者、下請け業者など)とが多面的に関連した展開で、他ビジネスのチャネルパターンと異なり多岐に亘る多様なマーケティング展開となります。

 ・取引金額が億の単位が多く、価格条件のやり取りが粗く利益管理が粗くなりがちで、利益の取りこぼしも大きいケースが見受けられます。

 ・建築受注活動に当たっては、購買決定のための環境設定(法制適合による住民パワーとの円満な了解取り、クレーム排除など)が求められます。

 ・営業部門には、設計知識、法制知識、問題解決技術、政治的説得力、コーディネイト力など多様なスキルが求められます。

 ・顧客管理は、長期持続的なメンテナンスが中心となります。

 ・受注方式を金科玉条としたマーケティング展開だけでは行き詰ります。

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