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第15回 自社の強みと弱みを知る(1)~教科書の強み弱み分析は実戦に役立たない~

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

マーケティング戦略を検討する時に自社の強みと弱みを分析することは常識になっています。しかし、従来書物などで紹介されている強み弱み分析には大いに問題があるように思います。まず、この点に触れたいと思います。

KFSを意識しない強み弱み分析は意味がない

まず、強み弱みはKFSとの関連でとらえられなければなりません。一般に強み弱み分析というと、J.W.テーラーの「戦略計画マニュアル」(日本能率協会)にある「伝統的な強み弱み分析表」(※PDFファイル参照/503KB)のように、何でもかんでも強みと弱みをリストアップしなさい、というものが多いようです。

しかし、KFSあるいは、事業にとって重要性の高い項目とかけ離れた分野でいくら強くても、競争に勝つことはできません。また、反対に、重要度の低い項目で弱くても大した問題ではありません。放っておけばよいのです。企業の経営資源は限られているわけですから、重要度の低い弱みまで何とかしようとして資源を分散しては、かえって競争力の低下を招きます。戦略では重点思考が一つのポイントです。

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したがって、強み弱み分析表は、上図のコンピタンス分析表(1)のように、マーケティング戦略上重要と思われる項目について強いのか弱いのかを判断しなければなりません。この図は消費財メーカーJ社のものですが、重要と思われる項目を重要度順に並べて評価をしています。図表には、あげられた項目の一部しか記載していませんが、実際には7番目以降も続き、項目数は10数項目になります。KFSは、その定義からすれば、数多く存在するものではありませんが、この強み弱み分析では、真のKFSにとどまらず、重要と思われる項目はすべて俎上に載せるべきでしょう。なお、コンピタンスとは能力という意味で使っています。

強み弱みはライバルとの相対的関係である

伝統的な強み弱み分析の第二の問題点は、強み弱みの程度はライバルとの比較で判断しなければならないのに、そうなっていないということです。抽象的に漠然と、強い弱いと判断する、あるいは、自らが理想と考える水準と比較して強い弱いと判断するのではいけません。事業は競争ですから、相手に勝たなければ意味がありません。ある項目が自社の強みであると抽象的に考えても、当面のライバルの方がその点で優れていれば、これは強みにはなりません。

逆に、弱みであると思っても、当面のライバルよりも優れているのであれば、それをそんなに気にすることはありません。他の弱みを補強するか、重要な強みをさらに強化することを優先させるべきでしょう。

そこで、さきほどの図表のコンピタンス分析表(1)も、この考え方にしたがって修正することが必要になります。重要と思われる項目について、自社が絶対的優位にある、あるいは、自社が劣勢である、といったように判断した満足水準の評価も、ライバルとの比較で判断されなければならないからです。下図のコンピタンス分析表(2)が先の図表を修正したものです。ご覧のように、ライバル2社との比較がなされています。

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たとえば、「店頭演出力」という項目は、A社には相当に後れをとっていますが、B社に対しては優位な位置にあります。したがって、A社を相手に戦うのであれば、店頭演出力の強化に全力を注がなければなりませんが、B社が当面の敵である場合には「販売店販売員のファン化」を優先することになるでしょう。

強み弱みの比較対象は市場地位で決まる

このように、ライバルをどこにするかで強み弱みに関する結論が異なります。したがって、比較対象とするライバルをどこにするかをきちんと決めることが重要です。まず原則は、日頃マ-ケットで直接競合することが多い企業と比較することです。

自社がリーダーであれば比較対象とすべきは2位、3位のチャレンジャー企業となるでしょうし、チャレンジャーであれば、リーダー企業とチャレンジャー仲間の企業が対象となります。フォロワーやニッチャーの場合には、リーダーやチャレンジャーとは基本的には棲み分けているので、同じフォロワーやニッチャーの領域に属するライバルが比較相手になることが多いと考えられます。

その他、自社が前述の「弱い者いじめ作戦」を採ろうとする場合には、当該企業と比較することは当然です。また、リーダー企業との比較は自社の市場地位がどのようなものであれ、行っておいた方がよいでしょう。業界全体の動きがリーダーの動向に左右される以上、リーダーをライバルとして研究するのがおこがましく思えるような下位企業であっても、リーダー企業との違いは一応認識しておいた方がよいからです。

あまり役に立たないSWOT分析

ところで、ご存じの皆さんが多いと思われるSWOT分析(スウォット分析)はどう考えればよいでしょうか。このSWOT分析は、1960年頃にハーバード・ビジネススクールやスタンフォード研究所で考案された分析ツールで、SWOTとは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字を取ったものです。今でも、シックスシグマやバランススコアカードでも活用されるなど、強み弱みを考える際の定番ツールになっています。

しかし、私は、SWOT分析は外部環境と内部のリソース(資源、能力)を結びつけた点は若干の評価はできるものの、実務にはあまり役立たないと考えています。 それは、前述の正しい強み弱み分析の要件を満たしていないからです。つまり、それぞれの強み弱みが事業戦略上どの程度の重みを持っているのかを無視している上に、どこと比較しての強み弱みであるのかという認識がなく抽象的です。また、環境分析のところで解説しますが、機会や脅威のインパクトの大きさや発生確率に注意が払われていないのも問題です。

なお、SWOT分析に馴染みのない方々のために、その概要を簡単に紹介しておきます。

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SWOT分析は上図のようなマトリックスに、あらかじめリストアップしていたS・W・O・Tそれぞれの項目を当てはめていきます。たとえば、機会を活かす強みであれば、マトリックスの第2象限に入れ、「強みを活かす戦略」の考察につなげます。また、脅威に関わる弱みであれば、マトリックスの第4象限に入れ、脅威を回避するにはどうするかを考える材料とします。

なお、ここでは、S(強み)は目標達成に貢献する組織の特性、W(弱み)は目標達成の障害となる組織の特性、O(機会)は目標達成に貢献する外部要因、T(脅威)は目標達成の障害となる外部要因と定義されています。「目標達成に貢献する」および「目標達成の障害となる」という条件をつけることで、重要度の低い項目が入ることを防止しているようです。

(小林 裕)

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