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第9回 自社の市場地位と競争余地を知る(3)~シェアの持つ意味は、業界の競争状況によって異なる~

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

マ-ケットシェアを捉えることの重要性はご理解頂けたと思いますが、同じレベルの数値でも業界によって、その意味が異なってきます。
たとえば、同じ4%前後のシェアであっても、シェア3%未満のライバルしかいない住宅業界にいる積水ハウス(4.3%、2005年度)の場合と上位3社で75%ものシェアを抑えている自動車業界における三菱自動車(4.3%、2008年度貨物車含む)の場合とでは、シェア4%の持つ意味がまったく異なってくることはどなたでも理解できると思います。積水ハウスはシェア4%でも強者と考えてよいでしょうし、三菱自動車は明らかに弱者です。

また、同じ1位の強者であっても、少数寡占の二輪バイク業界でのホンダ(42.8%、2008年度)と多数乱戦業界でシェアわずか4.3%(2005年度)の積水ハウスとでは、その採るべき戦略の考え方は大きく異なってくることもおわかり頂けると思います。
(なお、住宅業界大手のマ-ケットシェアとして、2桁の数値が紹介されることがありますが、これは全マ-ケットを分母とするものではなく、一定規模以上のメーカーの中でといったように範囲を限定して算出されたものです。)

さらに、日本国内の二輪バイク業界のような完全に成熟した市場で1位の座を占めているホンダと、まだ成長途上にあるアジア市場で1位(50%強)であるホンダとは、少数寡占市場での1位であることは同じであっても、その基本戦略の考え方はまったく異なります。

要するに、マ-ケットシェアという形で市場地位を捉えたならば、その地位は相対的に強いのか弱いのか、つまり、強者であるのか弱者なのか、あるいは、業界は少数寡占なのか多数乱戦なのか、さらに市場は開発期なのか成熟期なのか、したがって競争余地はどの程度あるのかまでを考えて、戦略仮説を立てなければならないのです。以下、この「業界の競争状況」についてもう少し詳しく考えてみましょう。

少数寡占市場と多数乱戦市場の競争余地

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前述のように、シェアが同じ10%といっても、業界が少数寡占市場であるのと多数乱戦市場であるのとでは、その競争余地はまったく異なってきます。上図を見て下さい。この図表は、マイナーシェアの企業にとっての競争余地の大きさを示しています。
たとえば、業界が多数乱戦市場であれば、どのライフサイクルステージにあるかにかかわらず、競争余地があり、マイナーシェアの企業であっても、やりようはあります。
また、少数寡占市場であっても、その業界のライフサイクルのステージが開発期ないし成長前期に位置していれば、「勝負はこれから」と考えることができます。

ところで、少数寡占市場、多数乱戦市場それぞれの定義をご紹介しておきましょう。

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まず、少数寡占市場は、「上位3社でシェア70%を超える市場」と定義しています。これは、「1位企業のシェアが3位の4倍になった時点でシェアは安定的になり、4位以下の企業は駆逐される」という経験則(B.D.ヘンダーソン、土岐坤訳「経営戦略の革新」ダイヤモンド社)と、3位企業が生き残るためには、存在シェアといわれる10%は確保しておかなければならない、ということからきています。(上図)

一方、多数乱戦市場は、「上位3社を合計しても、シェア50%を超えず、かつ1位の企業のシェアが20%未満である市場」としました。これは、3社で過半数を超えるようでは寡占に近い状態であること、また20%未満のシェアは必ずしも安定的ではないこと、がその理由です。

なお、一般に、多数乱戦市場になる原因としては、規模の経済性が働きにくい、あるいは参入障壁が低いといったことがあげられます。
たとえば、住宅業界は、作業現場が分散している、地元業者との協働で事業が成り立つことが多い、在庫販売ができないといったことから、生産の集中化が難しく、規模の経済性が働きにくい業界です。そのため、積水ハウス、大和ハウス工業といった売上1兆円を超す大会社から個人経営の工務店に至るまでの多くのプレーヤーが入り乱れてしのぎを削っており、前記の多数乱戦市場の定義が甘いと思われるほどです。

多数乱戦市場ではシェアにこだわりすぎるな

以上の説明から、単純にシェアの絶対数値をとらえるのではなく、業界の競争状況に照らして、そのシェア数値が持つ意味を考えることが重要なことはおわかり頂けたと思いますが、特に、多数乱戦市場ではシェアにこだわりすぎないことが肝要です。
多数乱戦市場では、少数寡占市場や中程度のプレーヤー数の業界に比べて、シェアの重要度が低いために、シェア数値を分析しても何も出てこないことが多いからです。

たとえば、市場を幾つかのセグメントに分け、セグメントごとのシェアの推移を分析しても、事実を示す数値がわかるだけで、どうすべきかのヒントはなかなか得られません。他セグメントあるいはライバルとのシェアの違いを戦略の違いにまで結びつけるにはシェアが小さ過ぎるのです。

Aセグメントでのシェアが3%、Bセグメントでのシェアが2%というようなケースを考えてみて下さい。このケースで、Aセグメントの方がBセグメントよりも頑張っていそうだということは言えても、この僅かな数値差からマーケティング戦略のあり方までは導き出せないのではないでしょうか。

同様に、第7回の「マ-ケットシェアはカバレージとウィンドシェアの積」で紹介したカバレージも、多数乱戦市場では値が小さ過ぎるために役に立つことは少ないと言えます。ただ、ウィンドシェア(店内占有率)や競合勝率は多数乱戦市場でも依然として有効です。

的確に実力を反映する相対シェア

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ところで、「相対シェア」という考え方をご存じでしょうか。これは「業界のトップシェアに対する自社のシェア」のことです。自社がトップの場合は、「対象企業のシェアに対する自社のシェア」となります。したがって、自社がトップ企業であれば、その値は1よりも大きくなり、トップ企業でなければ、値は1よりも小さい数値となります。(上図)

この「相対シェア」は他企業との相対的な位置関係を表しますので、私たちに馴染みのある通常のシェアよりも的確に実力を示してくれます。たとえば、上図にあるように、同じ10%のシェアでも、1位が12%ならば「相対シェア」は0.83となり、トップではないものの比較的競争力はあるということになります。ところが、1位のシェアが60%の場合には「相対シェア」は0.17となり、あまり競争力はないことが判ります

ご存じの方がそれほど多くはない「相対シェア」ですが、通常のシェアよりも競争力をはるかに的確に示してくれますので、マーケティング戦略検討のための分析では、もっと活用されてしかるべきではないでしょうか。通常のシェアが使いにくい多数乱戦市場でのシェア分析にも役に立つはずです。

(小林 裕)

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