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第8回 自社の市場地位と競争余地を知る(2)~顧客とのパイプの太さが勝敗を決める~

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

重要な「市場接触シェア」の考え方

自社が得意としてきた分野のウェイトがいつの間にか低下してきたために、その分野でのシェアは高めたものの、トータルシェアでは他社に後れをとってしまったケースが多いことを前号で紹介しました。これに似た現象が、市場が成熟し、需要の中心が需要のピラミッド(下図)の下方にシフトしている業界の先発企業に見られます。なぜそのようになるかを、事例を通して見てみましょう。

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H社は、汎用機械の先発メーカーであり、大型機および中型機種市場ではトップシェアを誇る業界のプライスリーダーでした。ところが、市場の中心が、市場の成熟化に伴い裾野の広い小型機種に移り始めた頃から、苦戦を強いられるようになってきました。

市場に小型機がかなり増えはしましたが、大型機の市場は横ばいで、中型機の市場は既に拡大していましたので、大型機および中型機が小型機にとって替わられたわけではありませんでした。ところが、得意としているはずの大型・中型の市場でもライバルに負けるようになってきたのです。なぜでしょうか?

H社は、「大型・中型機種で十分に利益を出している。利幅の小さい小型機にまで手を出して、せっかくのイメージを壊すことはない。小型機はライバル社に任せておけばよい」と考えて、小型機は扱わなかったのですが、ライバル社が小型機を扱うことによって販売店との接触頻度を高め、販売店との人間関係を築いてしまったのです。
「接触頻度が増えれば、それだけメーカーと販売店との間は親しくなる。親しくなれば、大型機や中型機までも販売店は売ってくれるようになる」という図式がH社には読めなかったものと思われます。

同じようなことが昔、カメラ業界にもありました。
ポケットカメラが登場して、その市場が急速に拡大した時のことです。高級一眼レフメーカーのI社は、ポケットカメラのような裾物を扱うことは高級一眼レフメーカーのイメージを損なうと考えたのでしょうか、6年近くの間、ポケットカメラを取り扱いませんでした。しかし、その間に、ライバルとのシェアの差は数%から15%にまで拡大してしまったのです。この間、ライバルが直販制度を敷いたといった事情もありましたが、やはり、接触頻度の差が響いたと考えてよいと思われます。

以上のケースは、市場をとらえる上で、重要な示唆を与えてくれます。
まず、店内占有率を考える場合、自社商品が直接競合する商品との対比で占有率を考えるだけでなく、自社が扱っていない商品までを含めた占有率も併せて見ていく必要があることが判ります。つまり、顧客とのパイプの太さが重要なのです。
私は、後者の占有率を「市場接触シェア」と呼んでいます。顧客の心の中に占める印象度の割合を指す「マインドシェア」という言葉をご存じの方は少なくないと思いますが、「市場接触シェア」が低ければ「マインドシェア」も自ずと低くなります。

たとえば、代理店を通して商品を販売しているメーカーの方から、「当社の店内占有率は高いのに、代理店がなかなか思うように動いてくれない」というようなグチをよく聞きますが、「市場接触シェア」(「代理店の総売上高に占める自社商品の比重」)が2~3%では、代理店での印象度(マインドシェア)も低く、こちらを向いてくれるはずがありません。
このような場合は、自社商品は代理店にとっては「ついで商品」であるという事実を冷静にとらえ、「当社にとって重要な小売店は直接抑えておこう」と考えなければなりません。つまり、いわゆる川下作戦の展開を考え、重要な小売店の分布の分析にとりかかることが必要です。

トップ企業の、需要の下方シフト時の戦略定石

また、上記のケースは、需要の下方シフト時のトップ企業の戦略方向を示してくれます。つまり、市場が需要のピラミッドの下方にシフトしていく場合、トップ企業は、他社に先駆けて下方向け商品を出していかなければならないのです。
これは、一つの戦略定石であると言ってよいでしょう。要するに、トップ企業としては、自らの強いネットワークを維持するためには、流せるものはどんどん流す、という姿勢が必要なのです。下方向け商品ということは、従来より多量の販売を行うことになるため、それに対応した体制が必要となりますが、販売ネットワークの弱い三番手、四番手企業にとっては、自社以上の負担であり、彼らにさらに差をつけるチャンスであることが多いものです。

(小林 裕)

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