サステナの停滞を救う 現場への「翻訳」技術
SX/サステナビリティ経営推進


今、多くの企業が舵を切るサステナビリティ経営。だが最新の調査では、現場の“やらされ感”も見えてきている。こうした停滞を打破するヒントとして、JMACは2026年2月に開催した「第13回 ものづくり・現場力事例フェア」で講演「現場の意識が変われば会社も社会も変わる~サステナビリティ経営実践のコツ~」を実施。本稿ではその講演内容をレポートする。
「サステナビリティ経営に対する現場の当事者意識は年々低下しており、最新調査では、管理職層で約30%、一般職層で20%未満にとどまった」
そんな少々ショッキングな調査結果を紹介したのが、講演前半に登壇したS X&パブリック事業本部・茂木龍哉だ。ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を軸に、社会と企業の持続を目指すサステナビリティ経営だが、今現場には〝やらされ感〟が漂い、その歩みが鈍化しつつあるというのだ。
実態調査:過去最低水準の当事者意識
JMACでは2025年7~9月に、国内主要企業115社を対象に「第3回サステナビリティ経営課題実態調査」を実施。その結果の一部が、冒頭の数字だ。同調査は2022年と2023年にも実施したが、サステナビリティ経営に対する当事者意識はどちらの層も調査ごとに低下し、今回が最低水準となった。
有価証券報告書でのサステナビリティ経営に関する情報の開示は、2023年3月期から義務化され、2027年3月期からはより厳格なSSBJ基準*への準拠が、大手企業から段階的に始まる。制度化が加速する中、なぜ現場で停滞が起こっているのか。まず茂木が言及したのが、投資回収基準の不在だ。
「今回の調査では、約半数(47.8%)の企業が、サステナビリティ活動の投資回収基準を持っていないと回答しました。儲かるかわからないために、やらされ感が高まる。やろうとしても予算がつかない。やっても既存の評価制度では報われない。そうした状況が、現場の主体性を削いでいる可能性があります」(茂木)
さらには、通常業務にサステナビリティ活動が「上乗せ」される負担感もある。それが効率的にできればまだいいが、たとえばデータ収集ひとつをとっても、一人ひとりが少しずつデータを集め、それを担当者が集計してまとめる、いわゆる〝Excelのバケツリレー〟などの手作業で行う企業も少なくない。
「また、『意味の分断』も要因のひとつに挙げられます。やはり現場では、QCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)の改善といった実利につながる活動が優先されやすく、経営側からの〝べき論〟に対しては『何のためにやる必要があるのか』という姿勢になりがちです」(茂木)
この状況を打開するカギとして、茂木が最後に触れたのが「翻訳」だ。
「経営者の言葉を、現場に響く言葉に変換し、サステナビリティを日常の改善活動に結びつける。市場から高く評価される高PBR(株価純資産倍率)企業には、制度対応を契機に、そうして企業文化そのものを変革している傾向が見られます」

そして後半では、同本部・増田さやかが登壇し、サステナビリティの現場実装の方法として、その「翻訳」の手法にフォーカスした。
「翻訳とは、経営者の戦略・方針を、現場の一人ひとりが自分ごととして受け取れる言葉に変換するという、管理職の核心的なスキルになります」
翻訳にあたり、管理職と現場の双方が前提として理解しておきたいのが、サステナビリティ経営の基本の構成要素で、取り組みの羅針盤ともなる「ESG」の理解だ。まず、Eは事業が環境に与える負担を軽くすること(地球・自然を良い状態にする)、Sは働く人や地域の人が安心して暮らせるようにすること(人を良い状態にする)、そしてGは不正・暴走を防ぐルールとチェック体制を整えること(悪くなるのを防ぐ)と整理できる。
翻訳:管理職の「言葉」を現場仕様へ
それを前提に、翻訳の重要ポイントとして増田が紹介したのが、日々の業務をサステナビリティ活動に結びつけることだ。
「たとえば、業務における省エネ目標の達成は、Eの脱炭素・気候変動対策に直結します。また、原材料の歩留まり向上や廃棄物削減も、Eの資源循環につながる。一方で、離職・人手不足の回避は、Sの労働安全衛生に、同じく外国籍従業員への多言語表示は、Sの人権の尊重にあたります」
環境と社会:課題・テーマと製造部門QCDのつながり
そして増田は、製造現場などの改善活動は、このようにほぼすべてがサステナビリティにつながっていると力説する。
「グローバルのサステナビリティランキングでは、おおむねトップ30くらいまでを非製造業が占める傾向にありますが、それは製造業がものをつくるプロセスで二酸化炭素を出さざるを得ないためで、本質的ではないと感じます。むしろ、いかに資源を有効に活用してより大きな価値を生み出すかに心を砕いて研鑽し続けてきた皆さんの改善活動こそが、世界中のサステナビリティの実現に向けた最強のエンジンになるはずです。ぜひ、日々の改善活動の先にこそサステナビリティ実現があるという自信を、社内外に向けて伝えていただければと思います」
いつもの改善が環境や社会の改善にひも付き、コスト・リスク削減や成長機会の獲得といった「企業価値の向上」にもつながる。それを現場に示すことでサステナビリティ活動は、追加業務でもやらされ仕事でもなく、自分ごととして日々主体的に取り組まれる対象となるだろう。
現場にサステナビリティ活動を自分ごと化してもらうには、相手の思考タイプに合わせた伝え方も大切になる。そこで増田が着目したのが、ハーマンの全脳モデルだ。同モデルによると、人の思考スタイルは、脳のどの部分をよく使うかによって4タイプに分類できる。
翻訳:ハーマンの全脳モデル(効き脳)
まずは、数値やデータ、論理的な因果関係を好むAタイプ「論理・理性脳」。続いて、手順やプロセス、前例、実績を重視するBタイプ「堅実・計画脳」、そして、人との関係性や感情的なつながりを大切にするCタイプ「感覚・友好脳」、ビジョンや全体像、たとえ話、身振り手振りのジェスチャーに反応するDタイプ「冒険・創造脳」と続く。往々にして、業務連絡や戦略方針はA・Bタイプに伝わりやすい語り口になりがちで、C・Dタイプの人には「理解はできるが共感はしていない」状態になりやすい。増田はこのC・Dタイプへの伝え方として、2つの具体的手法を紹介した。
「Cタイプの心に響きやすいのが、オノマトペ(擬音語・擬態語)です。ものづくりの現場でもチョコ停、ドカ停、ヒヤリハットなどが使われているように、オノマトペは複雑なニュアンスや感覚を、短い言葉で直感的に共有できます。たとえば職場の環境管理のために広く実践される5S・3定(整理・整頓・清掃・清潔・しつけおよび定品・定位・定量)を推進する際も、「効率化のために整理・整頓を徹底しよう」という論理的な説明より、「作業場がゴチャゴチャしているとベテランがイライラして職場がギスギスするよね。3定がちゃんとできれば必要なものがサッと取れて仕事がグッとやりやすくなる」と語りかけるほうが、Cタイプの人の心には断然刺さりやすいです」
Dタイプには、ビジュアルによる可視化がポイントとなる。たとえば、スキル習熟度を顔写真を並べて表したボードや、感謝・称賛のメッセージを貼り出したコーナーなど、目に見える形で成長や承認を示すことが、Dタイプの自発的な行動を引き出す。言葉と図表を組み合わせると記憶残存率が約40%高まるという研究結果もあり、複数チャンネルで伝えることの意義は大きい。
翻訳の一環として、価値にフォーカスすることも有効だ。とくに現場を担うZ世代の間では、「ラクな仕事をしたい」ではなく「価値ある苦労がしたい」と感じる傾向がある。価値が見えない苦労には消極的だが、意義が明確であれば本気で向き合う。つまり「この苦労が結果的に何につながっているか」を伝えることが、自分ごと化のカギになるのだ。
「たとえば『あなたが試行錯誤して不良率を0.1%下げることで、年間○トンの資材廃棄を減らせます。それは短期的なコスト削減を生むだけでなく、浮いた資源で未来の誰かの生活を豊かにするはずです』といった語りかけです」(増田)
こうした自分ごと化をさらに促すものとして、講演の最後に紹介されたのが「魔法の質問」だ。
「『あなたはそれをすることで、何を創造しようとしているのですか?』と問いかける質問です。サステナビリティ活動の先に、自分が何をクリエイトしたいのかを、自身で考えてもらう。その問いを繰り返し投げかけることで、指示待ちの姿勢が、自走へとダイナミックに転換されていきます」(増田)
サステナビリティを、担い手が自分ごと化できる言葉に翻訳することで、義務対応だったものが、新たな価値創造へと変わる。企業経営が、ひいては世界が真に持続可能なものに転じるかどうかの分岐点も、そこにあるかもしれない。

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SX&パブリック事業本部
シニア・コンサルタント
生産、物流機能領域を中心に、サプライチェーンマネジメントの視点から、在庫適正化、生産管理システム導入、コストダウン等のコンサルティングを行う。また、製造業の人材育成にも積極的に取り組んでおり、自律的継続的改善ができる職場づくりなど、サステナブルなものづくりの在り方についての研究・実践を行っている。
共著に『物流改善ケーススタディ65——コストダウン、作業効率を徹底追求——』『続・物流改善ケーススタディ65——コストダウン、作業効率を徹底追求——』(いずれも日刊工業新聞社)、『図解 ビジネス実務辞典 生産管理』(JMAM)、『生産管理のべからず89』(JMAC)
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SX&パブリック事業本部
チーフ・コンサルタント
開発部門を中心に開発プロセス改善、組織風土改革に取り組む。特に自律的に成長しつづけるサスティナブルな組織づくりに向けて、ファシリテーティブなコンサルティングを志向。また、自身の育児経験からダイバーシティ&インクルージョン推進に多面的なアプローチで関わっている。2019年よりJMAC新人コンサルタント育成責任者を務める。
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