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意識を変えて生き生き働ける職場風土へ変革! ~現場マネジメントに必要なのは"Better than yesterday"の精神だ~

かつて駐在先のタイヤマハで約5年間「工場スタッフ活性化作戦」活動に取組んできた広瀬氏(エンジンユニット コンポーネント統括部 ユニット技術部長)は、帰任した際、タイに比べて日本のメンバー元気のなさを感じた。活発にコミュニケーションを交わし、一人ひとりが生き生きと働ける職場へと変革するため、同部に「知的生産性向上と職場活性化(KI)」活動の導入を決意した。その現在までの取組みと、今後の展望についてお話をお伺いした。

楽器からモーターサイクルへ

「ヤマハ」と聞けば、誰もがまず頭に"楽器"や"バイク"を思い浮かべるのではないだろうか。元々ヤマハ株式会社は1887年に山葉 寅楠(やまはとらくす)氏がオルガン修理を始めたことをきっかけに、オルガン製作成功を経て創業した歴史ある企業だ。その後、1955年にヤマハの前進である日本楽器製造株式会社の浜名工場(現浜北工場)が設立される。その地でモーターサイクル第1号機となる「YA1」(125cc)の生産に着手する。時を同じくして、日本楽器製造からオートバイ部門が分離される形で、ヤマハ発動機株式会社は創業した。

それから約60年の歳月を経た今、連結ベースの売上高は1兆4,105億円(2013年12月期)に上り、その中でモーターサイクル事業は売上構成比の65.8%を占める。これは同市場では世界第2位のシェアであり、海外売上比率は約9割、世界各国に及ぶ多数の海外拠点で5万人以上の従業員が従事するグローバル企業となっている。

こんなに静かなオフィスで大丈夫だろうか?

case37_pict01.jpgそのヤマハ発動機の製造技術部門において、2013年からJMAC支援のもと「知的生産性向上と職場活性化(KI)活動」の取組みが開始された。その陣頭指揮を執ったのがエンジンユニット コンポーネント統括部 ユニット技術部長 広瀬 聡氏だ。

実は、広瀬氏がこの活動を推進するのは2度目である。1度目は広瀬氏がタイヤマハ(Thai Yamaha Motor Co.,Ltd.)に駐在した2007年から活動に参加し、その後推進役となった「工場スタッフ活性化作戦」活動に遡る。(「Business Insights vol.41タイにおける現場力強化と後継者育成活動」にてご紹介)

2012年日本に帰任した広瀬氏だったが、日本のオフィスを見て「タイではどこでもワイガヤが行われ、コミュニケーションが活発でした。それに比べて日本では皆が黙々と仕事をしていて、私には元気がなく、みんな楽しんで仕事をしているのかと心配になりました」という。

帰任した広瀬氏が統括する部署は、主に製造技術とエンジン・コンポーネント設計に携わる部署で、その中には21課、計500名のスタッフがいる大所帯だ。「部署の人数が多いため、主に4か所にオフィスが分かれています。私の席があるフロアにはだいたい100人くらいのスタッフがいますが、仕事中に人の話し声が全く聞こえないのです。ただ黙々とPCと向き合い、静かに手を動かしているような状況でした。また会議も同様で、多数参加しているにも関わらず、発言するのは報告者とそれをジャッジする上司2人だけのような状態でした」と当初を振り返る。

5年以上「工場スタッフ活性化作戦」を推進してきたタイヤマハではメンバー間のコミュニケーションも大変活発で、その結果、問題解決力も培われてきていた。その状況を肌で感じてきただけに、広瀬氏は自部門の状態を見て、何とかしなくてはならないと感じたのである。

人員不足はスキル不足でもあった

実はそれには時代的な背景も起因していた。同社は2008年のリーマンショックの煽りを受け、国内での新機種の生産準備を2年間凍結し、さらに人員面でも新規採用数を抑制するとともに、スタッフの早期退職募集を行うなど、人員体制も以前に比べスリム化を図っていた。また、事業のグローバル化に伴い、会社の中核を担う主に30代の中堅メンバーの多くは海外へ赴任しており、結果的に部を構成していたのは20代の若手社員と50歳オーバーのシニア社員が中心だったという。そのような状況の下、2011年頃より新機種生産の凍結を解き、同社は再び新機種開発に舵を切った。しかし対応すべきモデル数が増える中、現場からは人員不足の声が多数上がってきたのである。

問題の解決に動き出す広瀬氏だったが「ただ単に人を入れれば良いということではないと思いました。若手社員の多くはまだ経験やスキルも十分ではないとも感じていました」と抜本的な課題に目を向けていた。

しかし、スタッフ個々のレベル感を把握しようにも、会議の中で問題の深堀をしていくとレベル感や、考えていることが把握できるのだが、会議も多く逆にその時間が取れない。一人ひとりがどういうレベルにあるのかが掴めなかったという。まずは職場を活性化していく必要があるだろう。働くスタッフたちが生き生きと仕事の中で喜びを感じられるような職場にしていきたい。広瀬氏は、問題解決力やマネジメント力の向上を図ることも視野に入れた活動の推進を決意したのである。

静かな職場は、活動でどう変わったのか!

活動で劇的に変わった課題の認識レベル

case37_pict02.jpgこうして2013年から知的生産性向上と職場活性化(KI)活動がスタートした。今回、JMACからこのKI活動を支援したのが、チーフ・コンサルタント星野 誠だ。星野は「今回の活動はJMACのKI(Knowledge Intensive Staff Innovation plan)という考え方がベースとなっています。KIは人の成長とビジネスの成功の同時実現が狙いです。働く人が元気になり職場を活性化させることと、問題解決を結びつけて実現していこうというのが広瀬さんの狙いでもありました。今、それが少しずつ成果として見えてきたところです」と話す。そして、現在までに既に9チーム、52名がKI活動を卒業したという。

その成果を広瀬氏は「まだチームで成長度合いに差はありますが、素晴らしく成長したチームもあります。1例をあげると製造技術の部署なんですが、あるプロジェクトで現場にラインを入れたものの、計画通りに進まず、現場から不満が上がり壁にぶつかっていたのです。そんな中でKI活動を始め、他部署のメンバーも巻き込んで課題ばらしを推進していきました。最初は抵抗があるのですが、次第にいい会話ができるようになって、部門の壁を越えてお互いが前向きな意見をだせるようになっていったのです」

今ではKI活動のやり方も自分たちに合ったものへカスタマイズしながら、仕事のテーマにユニークな呼び名を付けたり、ミーティングやワイガヤの場を自分達のものとして、楽しみながら取組んでいるという。

そして何よりも、課題の認識レベルが全く違ってきたという。「今まで、こういう現象が起きているからこう対策しようというレベルでしかなかったのが、なぜそのような現象が起きているのか、何のためにこれをするのか、どこまですべきか、ということまで深堀りできるようになり、結果として自分達が進む方向性も正しく判断できるようになってきました。今ではリーダークラスが課長クラスの役割までやってくれるまでに成長してくれています」と、スタッフの成長に目を細める。

最近では他社との比較も自発的にやり始め、自部門の上流工程の部門にも働きかけをするなど仕事の仕方が深まっているという。それはKI活動を通し、メンバーそれぞれが主体性を持って仕事に取組めるようになった結果に他ならない。

現状把握と目標設定こそ大事

そんな広瀬氏が座右の銘としている言葉があるという。それは「Better than yesterday」という言葉だ。実は広瀬氏は20年来同社の浜北工場に従事し、30歳を過ぎた頃には同工場の中期計画を立案する事務局メンバーに加わっていた。その中で数多くの歴代工場長と接する機会があったという。

「浜北は創業の地でもあり、とにかく現場が強いのが特徴です。さまざまなタイプの工場長と仕事をすることができましたが、その中で、現場にすぐに受け入れられる工場長がいて、そういう方の特徴は現場をどれだけ把握できているかということではないかと感じていました」(広瀬氏)

現場の把握が一番表れるのが工場の目標設定だという。目標を『あるべき姿』とするのか、『現状より少し上』に置くのか、両方共に大切であるが、セオリーでいくと『あるべき姿』だ。だが、実際には『現状より少し上』の目標設定だったという。「『あるべき姿』は、理想を描くことになりますが、『現状より少し上』は現状をきちんと理解していないと語れないわけですから、実は非常に難しいのです。また逆にスタッフの立場から見ると『あるべき姿』の目で見た場合は、いつまで経っても要求に達していないと評価されるわけですね。一方で『現状より少し上』の目で見ると、自分の頑張りで目標を上まわれば評価されることにつながりますよね。それは彼らにとって何よりモチベーションアップにつながります。現状をしっかり把握すること、そして目標に対するメンバーの頑張りを把握し評価してあげることが重要だと学ぶことができました。それこそが『Better than yesterday』の根っこにある考え方です」(広瀬氏)

人こそ会社の要!

今回の活動でコンサルタントの星野が特に感心していることがあるという。それは、広瀬氏が多忙なスケジュールの合間を縫って、ほとんどの報告会に参加されていることだ。それについて広瀬氏は「本当は少人数でスタッフの本音や現実を知ることができるチーム独自で開催しているミーティングにこそ出たいのですが、なかなかスケジュール確保が難しい。ですので、月1回の報告会や相談会にはできる限り出るように心がけています。少し本音度は乏しくなりますが各チームの状況は把握できます。何よりも報告するスタッフのモチベーションにも繋がると思っています」と話す。活動を推進する上で、やらされ感を持ったり、表面だけの活動にしないためにも、広瀬氏は積極的に活動をけん引している。

またJMACに対しては「JMACはレールを敷いて、それを指南役として引っ張っていくようなコンサルティングスタイルではなく、言わば一緒に寄り添って作りあげていくスタイルです。チームの状況やメンバーの成長、発言の変化なども細やかに見てくれています。そして別の視点や違う角度からアドバイスや情報をいただける安心感があります」という。さらにこの先は「もっと活性化された人材の数を増やしていくことが課題だと思いますので、そのバックアップをお願いしたいですね。会社が強くなるのは"人"次第だと思っています」という。

タイの製造現場を経験することで、日本の開発・設計を海外の製造現場という視点で見てきた広瀬氏は、本社と海外拠点の認識のずれをなくすこと、上流、下流のコミュニケーションがここでも必要だと考えている。それがさらに同社の強いモノづくりにも繋がると考えている。その意思が伝わり、自主的に海外拠点やサプライヤーを巻き込み、合宿を行うメンバーもいるという。自分達だけでなく、協力会社も一緒に変わっていくことが強い同社のモノづくりに繋がるという考え方が定着してきている。

経営理念でもある「仕事をする自分に誇りがもてる企業風土の実現」を目指した今回の活動で、仕事を楽しみながら、グローバルに関係者を巻き込む視点が加わった同社の今後のモノづくりが楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

一人ひとりの日々の挑戦が経営を強くする

経営変革に挑戦し続ける企業においては、新市場・新技術への挑戦や度重なる組織再編のなかで、働く環境も目まぐるしく変わっていきます。従来の仕事のやり方からなかなか抜け出せず、組織の力を十分に発揮できていない職場も少なくありません。自分達をとりまく現実を直視した上で、自分達に合っ
たマネジメントスタイルを再計画し再構築していく必要があります。
ヤマハ発動機様では、自らの仕事の背景・目的から徹底的に見える化した上で、拠点や部門のカベ、常識や感情のカベなどを乗り越え、仕事のやり方を変え続けています。一人ひとりの挑戦が、職場の力となり、モノ創りを変える大きな力になっていると思います。

星野 誠(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.53からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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