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第95回 たえまなき経営改革実現に向けて(4) ~経営改革の場をマネジメントする~

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、経営改革の場を活性化させるマネジメント力(企画力・実行力)の重要性について、事例を通してお話しします。

M社の事例

M社は、化粧品製造販売の中堅企業です。「中期経営計画~年度経営計画~年度実行評価」の仕組みがあります。経営改革の場としては、経営層を中心とした経営会議と、複数事業部の部課長層を中心とした事業会議があります。いずれの会議も、今日の業績検討がメインになりがちですが、経営改革のPDCAが形式的にはまわっていました。

しかし、経営改革のマスタープラン(中計)策定や具体化(年計)の場では、活性化していません。毎月の実行評価も数字中心で、改革意見の交換も活発ではありません。社長は、経営会議に対する役員や部長の当事者意識、本気度が希薄だ、と経営企画長に嘆いています。経営企画室長も、社長の言うとおりだと感じていました。けれども、社長の発言が多過ぎて、皆が遠慮しているとも感じていました。

一方、多くの役員や部長は、社長に何か言われるのではないかと気にし過ぎて、自分の意見を言うことに躊躇しています。当事者意識に欠けていると、社長から評価されてしまう状況をつくり出していたのです。また、改革テーマの部外者が意見を言うことも少ない状況です。経営企画室長も、経営改革の場を活性化するマネジメント力(企画力・実行力)が不足していることを痛感していました。

A社の事例

A社は、化学メーカーであり、多くの事業を展開しています。全社および事業レベルで、「中期経営計画~年度経営計画~年度実行評価」の流れに沿って。経営改革を実行しています。毎月の実行評価は、現状分析だけでなく、今後の対策を打ち出す先行管理の思想と仕組みがあります。

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同社では、経営会議や事業会議を、今日の業績検討だけでなく、経営改革の場と位置づけていました。上の図は、経営改革の場をPDCAの流れに沿ってマネジメントする、A社の考え方を示したものです。

A社では、たえまない経営改革の歴史の中で、改革テーマ責任者が主役になって改革を進める、という当事者意識が浸透していました。また、社長や事業部長は、経営会議や事業会議の場で大きな戦略方向を明示します。そのうえで、参加メンバーの意見交換を活発にするために、自分の意見は最後に述べるようにしてきました。改革テーマの部外者は、異なる視点による積極的な発言が求められます。

経営企画室も、経営改革の場が活性化するように、コーディネータ役を務めてきました。改革テーマ責任者は、日常の職場やプロジェクトを通じて、真剣な経営改革活動を発信する場としました。また、トップには、経営改革活動の促進・称賛を心がけてもらうように要請しました。

A社は、経営改革に関係する一人ひとりが、自らの役割を演じて、経営改革の場を活性化させています。会社組織として経営改革の場をマネジメントすることの重要性を表しています。一方、前出のM社の場合は、一人ひとりが経営改革に積極的に取り組む姿勢が、残念ながら感じられません。経営改革の場をマネジメントする発想が不足しているのです。

これからの場の活性化とは

外国人の増加、M&Aの増加、非正規社員の増加、女性の積極活用など、企業の経営環境が大きく変化しています。同一の価値観や意見だけで経営が可能な「同質マネジメント」では、対応できない時代に入っています。価値観や意見の多様性を認めて、全体をの統合を目指す経営スタイル、「ダイバシティ・マネジメント」が重要な時代になっているのです。

この変化は、経営改革の場を活性化するマネジメントにも影響します。経営改革に関係するメンバーが、お互いの異なる価値観や意見も認め合いながら、統合(結論)に至ることに慣れる必要があります。一人ひとりが、自分の改革意見の発信力だけでなく、他者の改革意見の受信力を磨かなければなりません。特に経営改革をリードするトップは、異質を認め全体を統合する、ハイブリッド経営者であることが求められると考えます。


次回は、「経営改革と人材づくり」について、お話しいたします。

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