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第87回 製造業とサービス業の経営改革

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

業種・業態・規模を意識した経営改革について、今後5回に分けてお話しします。今回は、製造業とサービス業の特性を比較しながら、経営改革のポイントをご紹介します。

製造業とサービス業の業種

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業種とは、その企業がどのような財を顧客に提供しているかという視点からみた事業の種類や、企業が属する業界を指します。製造業は、物財の分類に基づいて業種分類されています。サービス業も、サービス財の分類に基づいて業種分類されています。製造業は二次産業、サービス業は広義的に三次産業と言われています。

製造業は、日本の強みとされ、ものづくり大国としての日本を引っ張ってきました。グローバルに事業展開をしている今、先進国および新興国のライバル企業との激しい競争に遭遇しています。

一方、サービス業は、製造業に比較して労働集約的な業種がありますが、労働生産性が低いのが現状です。しかし、日本のGDP(国内総生産)の約70%を、就業者数でも約70%を占めています。サービス業は日本経済において重要なウエイトを占めており、その労働生産性を上げることが大きな課題と言われています。

特性と経営改革ポイントは

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製造業とサービス業の特性と経営改革ポイントを要約すると、上の表の通りです。

1.基本特性

製造業とサービス業の基本特性として、提供財の違いが挙げられます。製造業は、形の有る財を提供する有形性という特性があります。一方、サービス業は、目に見えないサービス財を提供する無形性という特性を有しています。
ですから、製造業は、有形財の特性を把握して経営改革に取り組むことが大きなポイントです。サービス業も、サービス財の特性を把握して経営改革に取り組むことが重要です。

また、製造業では、生産(供給)と消費(需要)との間にタイムラグがあり、非同時性の特性があります。そこで、サプライチェーンの適正在庫を維持しながら、生産と消費を限りなく近づける経営改革が求められます。一方、サービス業は生産(供給)と消費(需要)との間にはタイムラグがない同時性の特性を持っています。そこで、生産と消費が同時に行われる「真実の瞬間」と呼ばれる顧客接点のマネジメントが、経営改革のポイントと言えるでしょう。

なお、サービス業の中でも流通業(卸・小売)は、商品という有形財を取り扱っていますので、製造業に近い特性を持っていることに留意してください。

2.業態志向

業態(Type of Operation)とは、「その事業が、どのような顧客に対して、何をどのようなオペレーションを通じて提供するのか、という事業形態」を意味します。
このような事業の見方は、財の違いによる業種発想に対して、事業形態の違いによる業態発想と言われます。

流通業、ホテル・レストラン、金融などのサービス業では、昔から業態発想ということがよく言われます。
たとえば、食品を扱う小売業という業種一つとっても、SM(スーパー・マーケット)、GMS(ジェネラル・マーチャンダイジング・ストア)、CVS(コンビニエンス・ストア)、DS(ディスカウント・ストア)など、いくつかの業態に分かれます。
また、銀行と言っても、都市銀行、地方銀行、信用金庫、ネット銀行など、複数の業態があります。

サービス業の業態は、業種によって異なる点はありますが、業態を構成する要素として

(1) 商品・サービスの品揃え
(2) 営業拠点の立地
(3) サービス提供方法

の3つが挙げられます。
業態コンセプトに基き、3つの構成要素の内容を戦略的に決めて、具体的なオペレーション・システムを有効に効率的に運営することが、ポイントになります。

一方、製造業では業態発想ということはあまり言われません。最近は、研究開発や試作品中心の研究開発型企業、製造機能を外部に委託するファブレス企業、商品の企画製造からユーザーに直販する製販一体型企業など、業態発想型の製造業が誕生しています。しかし、製造業では、業態発想は無い(薄い)と言ってもよいでしょう。
業態発想の有無は、製造業とサービス業で経営改革に取り組む際に認識しておくことが必要です。

製造業では、生産財と消費財の大区分に加えて、市場・顧客や商品・サービスの違いに基づく需要創造の仕方、もののつくり方(生産方式)の違いに基づく需要充足の仕方を想定して、経営改革に取り組まなければなりません。
この点については、次回の製造業の経営改革で、お話しします。

3.ビジネスプロセス

ビジネスプロセスは、事業戦略を実現するために必要な機能の連鎖を意味します。製造業もサービス業も3つの大きなビジネスプロセスがあります。

製造業は、

(1) 商品開発プロセス
(2) 商品供給プロセス(購買・生産・物流プロセス)
(3) 商品営業プロセス

です。

経営改革のポイントは、3つのプロセスの生産性向上と共に、各プロセスを有効に連携させることです。また、ものづくり人材の開発・活性化も重要です。

サービス業は

(1) サービス・立地開発プロセス
(2) サービス仕入プロセス
(3) サービス営業プロセス

です。

これら3つのプロセスの生産性を向上させることが、経営改革におけるポイントです。
また、③のサービス営業プロセスを中心とした、顧客接点プロセスを改革することです。このことから、サービス提供人材の開発・活性化が肝要だと言えるでしょう。

大切なこととは

製造業とサービス業の違いを認識して、経営改革を進めることの重要性をご説明しました。
しかし、両者の違いや価値観だけを全面に出して経営改革を進めることも、また問題があります。日本企業の生産性を全体として引き上げるには、お互いの強みを生かし合うことも大切なのです。たとえば、自動車業界のジャスト・イン・タイム方式の生産システムは、売れた分だけ商品補充をする、スーパー・マーケットのセルフ販売システムを参考にしたと言われています。また、製造業の得意とする現場改善を、サービス業の現場改善に適用する事例は多数あります。
製造業とサービス業が融合した産業の高次化(3.5次産業化など)始まっていますが、今後その動きは加速するでしょう。

お互いの強みを活かして、日本企業全体の付加価値向上、スピード向上、コスト改革などの経営改革に取り組むことが重要です。

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