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第72回 経営計画システムを改革する

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、経営計画システムの要件である「戦略性」(有効性)と「迅速性」(効率性)を高める考え方・方法を、Y社の事例を中心にご紹介します。

Y社の経営計画システム

Y社は、複数の商品群を持つ大手食品メーカーで、事業部制を導入しています。 Y社の中計は3ヶ年計画ですが、全社中計、事業部中計、各部門中計(開発・生産・営業および本社部門)の3つに分かれます。 この3ヶ年計画は、原則として固定する方式をとっています。 また、年計は施策と予算が一体化した積み上げ方式です。

社長は、自社の経営計画システムは有効性と効率性に欠けると認識していました。 経営企画室に、次のような問題点をあげ、改革を指示していました。

・中計の課題が総花的で重点化されておらず、経営資源配分が分散している
・経営環境変化に対応する事業戦略オプション案が、中計で想定されていないために、経営環境変化に対応する柔軟性がない
・中計戦略と年計施策の整合性に欠け、戦略が施策に落とされず具体化されていない
・年計の策定が予算数値中心で、施策検討が不十分である
・年計の予算編成に時間をかけすぎて、計画コストが大きい

そこで、経営企画室は、事業部門・予算管理部門の関連メンバーと連携して、改革に着手しました。

経営計画システムの改革ポイント

中計が有効性に欠けると社長に指摘されたことは、中計に戦略性がないと言われたことを意味しています。 この点については、経営企画室のメンバーは中計が形骸化していると認識しました。 また、事業部門や予算管理部門のメンバーも、年計が予算数値偏重で時間をかけすぎであり、非効率であると認識していました。

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各メンバーは、経営計画システムの実態を共通認識した上で、自社の意思決定と業績向上に役立つ経営計画システムとするために、上図に示す3つの改革ポイントを社長に提案しました。

1つ目の「中計の課題重点化・柔軟性」とは、次のことを指しています。
 1.中計の課題を3~5つに絞り、優先順位をつける
 2.課題に対する戦略オプションを策定して、経営環境変化への迅速性を高める
 3.ITを有効活用しながら、戦略オプションの利益シミュレーションをして意思決定をする
 4.中計の見直しを行うローリング方式を採用する

2つ目の「中計戦略と年計施策の整合性」は、年計で「戦略・施策と目標の関連」を明確にして整合性を高めることを意味します。
 1.中計で定めた戦略オプションの中から選択した「選択戦略(大きな方向性)」を示す
 2.中計で定めた「選択戦略」を実現するための「戦略骨子」を示す
 3.「戦略骨子」を具体化する「年度の重点施策」を示す
 4.「年度の重点施策」の成果目標(経営成果と現場成果)を示す

迅速性アップの改革ポイント

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3つ目の「経営計画の迅速性」については、計画策定プロセスのBPRを提案しました。特に、年計策定プロセスの迅速性をアップして効率的になるように、改革案をまとめました。 Y社の現状の年計システムは、施策と予算が一体化した方式ですが、「予算編成偏重の数値積み型」と言えます。 効率性の面で、迅速性に欠け、計画コストが大きいシステムと言えるでしょう。 この状態から脱却し、中計戦略を年度政策に具体化するという流れに沿った、「施策先行の予算編成型」の年計システムを目指すことにしました。

具体的には、BPRでよく言われる「コンカレント・エンジニアリング(同時並行方式)による期間短縮の方法」を適用しました。 次の3つの改革ポイントをもとに、迅速性を高めて計画コストを1/2にすることを狙いました。

1.源流重視(中計重視)

「源流重視」とは、源の業務を重視して業務を迅速に行うことです。 Y社の場合は、年計の前提となる中計を重視することで、年計策定を迅速に行うことを意味します。 上述した中計課題の重点化と柔軟性によって、中計の有効性・戦略性を高めること、中計戦略と年度施策を連動させることが「源流重視」につながりました。

2.整流化(施策先行審議)

「整流化」とは、業務が迅速に流れるように業務を見直し再設計することです。 Y社の場合は、年計策定において施策と予算を思い切って分離する考えに変えて、施策を先行審議する流れとしました。 施策を先行審議して、その成果については利益シミュレーションするやり方をとりました。 その結果、予算編成業務が迅速になり、期間短縮が実現しました。

3.共有化(計画情報の共有化)

「共有化」とは、情報を共有化してお互いの業務を遂行することです。 Y社の場合は、事業年計や各部門年計の計画情報を、関連メンバーが共有しながら計画を策定しました。 このことも各自が年計を策定する上でお互いの理解を深め、計画の迅速化につながりました。

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