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第68回 人材ビジョンを明確にする

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

人材マネジメント改革を進めるには、人材ビジョンを明確にすることが必要です。 その人材ビジョンの基本は、ビジョン・戦略に基づいて描くことにあります。

現状の延長線上からの発想

O社は、ITのユーザー企業(利用企業)や大手SI企業から、システム開発を受注するSI(システム・インテグレーター)企業です。 恵まれたユーザー企業を顧客に抱えていることもあり、システム開発業務に追われています。

O社には、ビジョンと中期経営計画もあります。 SI事業以外の事業拡大が経営課題ですが、必ずしも共通認識はされていません。 たとえば、人事部は、中期人員計画を策定していますが、SI事業中心の内容となっています。 したがって、人材採用も、現在の主力事業であるSI事業の人員が中心です。 人事評価や人材開発も、SI事業を前提としたものです。

人材が会社の資産と言われるIT業界において、人材の採用と開発は非常に重要です。 それだけに、将来のビジョン・戦略に基づく人材ビジョンと人材マネジメントが欠かせません。 しかし、同社の人材マネジメントは、人材ビジョンを明確にしないまま、現状のSI事業の延長線上で行われている色彩が濃いと言わざるを得ません。

ビジョン・戦略からの発想

H社は、商業印刷・販売促進の分野で、食を中心としたチェーン小売業を顧客として、事業発展を遂げてきた優良企業です。 そして今、事業規模3倍を目指して、マーケティング・カンパニーになるビジョンを打ち上げました。

同社の事業戦略は、食を中心とした市場を進化させながら、既存顧客の浸透と食品メーカーをはじめとする新規顧客の開拓を行うことです。 このためには、新たな提供価値を開発することが必要です。 そこで、商業印刷というハード価値に加え、顧客のマーケティング課題支援というソフト価値を提供する、新たなサービス戦略を考えています。

経営トップは、ビジョン・戦略実現には、人材採用と共に人材開発が最終的にはキーとなると認識しています。 そこで、H社の人事部メンバーは、経営トップの支援と各事業部の協力を受けて、ビジョン・戦略に沿った人材マネジメント改革を進めることになりました。 人材マネジメント改革は、将来の人材ビジョンを明確にすることが第一歩ですが、ビジョン・戦略を実現するために、現状の人材像の棚卸しにあわせて、将来の人材像を以下のように想定しました(下図参照)。

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1.プレイング・マネージャーから、プロフェッショナル・マネージャーへ
H社のマネージャーは、自らの顧客を持って業績をあげると同時に、マネージャー役も果たすというプレイング・マネージャーのタイプが主流でした。 このタイプは、組織メンバーを育てる意識が希薄でした。 そこで、マネージャーについては、思い切って業績開発と人材開発の両面で経営に貢献できる人材像を目指すこととしました。

2.案件対応型営業マンから、案件創出型営業マンへ
H社の営業は顧客別担当制で、顧客からの案件対応に優れたスタイルが主流でした。 将来は、顧客のマーケティング課題を支援する営業スタイルを目指すことにしました。 したがって、目指す営業マンの人材像も、顧客に密着しながら自ら顧客に提案する案件創出型営業マンとしました。

3.バック業務IT活用人材から、フロント業務IT活用人材へ
H社のIT活用は、顧客からの受注後の社内バックオフィス業務が中心でした。 そこで、印刷物以外のメディア媒体も提供するクロス・メディア事業への進出、インターネット活用による消費者との接点拡大、顧客へのマーケティング提案など、顧客フロント業務を中心にITを活用する計画を立てました。 IT活用の人材像は、活用人材の拡大も視野に入れ、フロント業務IT活用人材としました。

なお、現状の人材像と将来の人材像にはギャップが発生しますが、このギャップを埋めるための課題抽出が必要となります。 図中に示した「人」改革課題を参考にしてください。

事業展開と必要な人材

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第66回で事業展開と事業組織について述べましたが、それらと同時に必要な人材を想定しておくことがポイントとなります。 上図は、事業展開と必要な組織・人材を抽出した表(枠組み)です。 自社の事業展開を共通認識して、事業組織と共に必要な人材と課題を明らかにしておくことに留意してください。

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