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技術者の知的生産性向上と職場活性化の現実

第1回 技術部門の生産性は向上しているか

星野 誠

本コラムでは、技術部門の職場の現実を直視しながら、「技術者の知的生産性向上と職場活性化」を考えていきます。「慢性的に忙しく元気がない」職場を真に活性化するためのヒントを提案していきたいと思います。第1回目は、みなさんの技術部門の職場の実態に目を向けてみてください。

従来の生産性向上活動はすでに行き詰まり

 激変する市場環境の中、みなさんの職場でも、さまざまな改革活動を行い、さまざまな効率化施策を打ち、日々、生産性向上に取り組んでいるかと思います。デザインレビューを強化した開発プロセス基準が整備され、CAEなどのIT環境も整備し、各種研修でスキルアップをねらっていく......、もちろんこれらも必要な取組みではあります。しかし、技術者一人ひとりの日常業務に目を向けますと、慢性的な忙しさは変わらず、品質不具合もなかなか減らない中で、各人の達成感ややりがいは必ずしも高いとはいえない状況も見受けられます。また、チームや組織の問題発見と解決のスキルも、必ずしも高まってはいないようです。
 個々の技術者はものすごくがんばっていますし、優秀な方々が集まっている職場では、いろいろと改善しているはずなのに、なぜ十分な成果感が感じられないのでしょうか。
 「IT化を推し進めてきた弊害として、自ら考えることが減り、設計力が落ちてきた」「組織間の分業が進み、物理的、心理的なカベができた」など効率化一辺倒の取組みへの弊害の声も良く聞きます。ものごとには常々、表裏、メリット・デメリットがあるものですが、表ばかりをガリガリと推し進めても、裏に目を向けていないと、その弊害が逆に生産性を押し下げる要因にもなってしまうものです。
 では、現実には何が起きているのでしょうか。

魂が入らない「絵餅」活動にならないために

 新年度のはじめには、部門トップが配下を集めて、改革のビジョンや思いを語っています。また、日々使う会議室の壁には、改革活動のスローガンなどのポスターが貼られています。わかりやすくメッセージ性があり、発信側の工夫や思いが感じられるものも多いと感じます。ただし、一人ひとりの技術者の方にその中身をたずねてみますと、残念なことに、その思いがあまり伝わっておらず、「具体的にはよくわかりません」という答えもしばしばです。
 理想的には、各個人が上位方針を受け止め、自分たちで考え、具体化しながら展開されていくことが期待されているはずですが、日々の忙しさに追われている技術者からすると、なかなか自らの日常とはつながらないこともあります。
 改革活動テーマのメンバーに選ばれ、忙しい中で無理やり集められても、やらされ感が満載ですし、本社側から急に新しいツールや仕組みを導入しろと言われても「やりづらい」「やってられない」というのが本音でしょうか。
 それぞれの技術者は今日明日の山積みの仕事の中で四苦八苦しており、トップ層や改革事務局が「変われ、変えろ」と掛け声をかけても、どうも魂が入らず、多くの施策が「絵に描いた餅」になってしまうのです。

目の前の日常業務が創造的になっているか

 技術部門の最大の特徴は、その業務が思考業務であるということです。
 技術部門の生産性向上や活性化を考えるうえでは、この思考業務を創造的にする仕事のやり方の改革になっているかどうかが本質的に重要だと思います。日常の足元では、思考業務におけるちょっとした抜けや取りこぼし、思い込み・検討不足・認識ズレ、繁忙による疲弊感などが後々の甚大なトラブル・手戻り・被害・クレームとなって返ってくるのが技術部門の仕事の特性でもあり、難しさではないでしょうか。これらトラブルや手戻りへの対応に追われてしまいますと、本来やりたい創造的な仕事をやる時間も余裕もなくなってしまうといった悪魔のサイクルが回り始めます。
 目の前の日常業務、すなわち思考業務への向きあい方をより良く変えていくことが、技術部門の知的生産性向上の改革そのものであり、あらゆる改革に向き合う土台になります。裏を返せば、技術者一人ひとりの日常業務の仕事のやり方が変わらない限りは、本質的な生産性向上にはつながらないといえます。

計画段階における潜在的課題の発掘と事前解決が創造的な仕事を生む

 では、思考業務を創造的にする仕事のやり方とはどのような姿でしょうか。
 創造的な仕事のやり方のカギは、日常の計画行為にあります。すでに発生した「火がふいた」問題、すなわち顕在化した問題の火消しに追われているようでは、やはり創造的とはいえません。あくまでも火がふく前の段階、すなわち計画段階で潜在的課題の発掘に意識を向け、そこに組織の知恵を集める仕事のやり方こそが創造的であるといえるのではないでしょうか。
 これから先の将来に目を向けた"計画"段階という意味で、"課題"の発掘であり、掘り起こした課題に対しては"現実的に起こりうる潜在的な問題"として向き合い、組織的にできうる限りの事前の解決を図っていくことが重要です。
 「日常のチームにおける計画行為そのものを変えながら、技術者一人ひとりが本来持つ創造性を発揮し、計画段階で知恵や力を集め、作戦を立て実現性の高い計画をつくる。そして、計画行為を通したチーム・組織でのマネジメント力と問題解決力の向上を図っていく」ことが創造的な仕事のやり方なのです。この計画行為こそが、地に足のついた生産性向上を実現していくといえます(下図)。

技術部門が「地に足をついた知的生産性向上」を実現するための道筋


 次回以降は、技術部門の職場変革活動において、よく陥りがちな誤解も交えながら、創造的な仕事のやり方に変えていくための、見える化、コミュ二ケーションの場、組織としての役割発揮などについて、現実的な押さえドコロを考えていきます。

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