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第5回 タイ製造拠点における仕組みづくり③ ―品質向上への処方箋―

2017年1月20日

 本コラムでは、製造拠点のアジア展開についてタイを事例として取り上げます。アジア製造拠点の実態や今後の方向性について筆者がタイ製造拠点を支援した経験から、拠点運営を成功させるための課題や処方箋を解説していきます。第5回となる今回は、タイ製造拠点における仕組みづくりとして、「品質管理」のポイントについて説明します。

タイ製造拠点における品質管理の実態

 タイの製造拠点における解決すべき大きな課題の一つに「品質管理」があります。日本の製造現場は現場作業者の品質意識が高く、後工程に不良品を流さないことが徹底されています。これは管理者が主体となり現場作業者へのOJTを含む教育や日々の生産活動における品質の問題解決の取組みを継続していることがその理由のように思います。ところが、タイ製造拠点でも同様の活動をしているのに、品質問題に悩まれている企業が多いのです。その実態について、調達品の品質問題と製造工程における品質問題に分けて整理します。

調達品の品質管理の実態

 タイに製造拠点を構える主目的は製造原価を抑えることにあると思います。そのために材料・部品の現地調達を進めるということが一つの方策ですが、現地調達している材料・部品の品質問題に悩まされている企業が多く存在します。一言で言えば、現地サプライヤーの品質管理レベルが低いということですが、その内容は大きく2つの問題に大別できるようです。

 まずは、材料・部品の満たすべき品質基準がサプライヤーに伝わっていない(合意できていない)ということです。ひどい場合になるとサプライヤーが保有するリソースでは実現できない品質基準を押し付けているというケースもあります。

 このようなことが起こる原因は、開発・試作段階で十分な時間が確保できなかった、技術的な視点でサプライヤーを評価できなかった、など考えられます。しかし、このような状態で取引を継続していると、調達品の品質が改善することはありませんし、ましてやサプライヤーともども管理レベルを向上させることもできません。

 また、サプライヤー自身の品質管理レベルが低いことも原因の一つです。約束した製造条件や検査基準などが遵守されず、結果として不良品が納入されるということも見受けられます。

 たとえば、検査すべき項目を検査していない、あるいは明らかに検査結果が誤っているなど日本では考えられないような事実が出てくることもあるのです。

 これらの理由により、調達品の品質が向上せず、結果として不良品を流出させるという直接的な問題だけではなく、不良発見時の手直し、再製造(材料・部品の追加発注)、納入品の受け入れ全数検査など、製造工程が非効率になっている企業があることも現在のタイ製造拠点の実態です。

工程内の品質管理の実態

 一方、自社の製造プロセスにおける品質管理についても多くの課題があります。一言で言えば、自社で定めた標準や検査基準が守られない(守れない)ということです。

 製品の付加価値が増し、製造の難易度が増すと標準や品質基準は複雑になり、守るべきものも多岐にわたることが多くなります。そのため、標準や基準が現場作業者に伝達しきれず、理解されていないことが多くあります。標準や基準については文書化して現場に伝達することが多いのですが、現場作業者がその文書を見ていないことがあります。理由を聞いてみると、文章で表現しているので意味が理解できない、あるいは英語なので読めないなど、文書化している目的をまったく満たしていないケースがあります。また、管理者は文書化して指示したつもりでも、現場作業者にはまったく理解されていないことがあるのです。

 さらに日本よりも深刻なのが、一度対策したはずの不良が再度発生する、いわゆる再発問題が減らないということです。日本の製造現場では、不良が発生した際に原因追求をして対策を実施するということを日常的に行っています。そのときに、原因が多岐にわたり、単純に対策につながらないということを良く理解しています。加えて、対策も不良を発生させないような発生源対策を行うことを重視します。

 しかし、このような問題解決に慣れていないタイの現場では原因追求や対策立案をうまくできず、たとえば、工程を追加したり、検査項目を増やしたりなど短絡的な対策になってしまうことが多いのです。

 下図はタイ製造拠点で不良対策を検討した事例です。この事例は現地の管理者と現場作業者が議論してつくり上げたものです。品質を向上させるためには、このような取組みを意図的に増やすことが必要であり、結果として問題解決できる人間を増やすことが重要です。

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 なお、不良が発生した時点で対策を講じたものの、対策が一過性のものとなり、すぐに元どおりに戻ってしまうこともよく起こる問題です。タイでは日本以上に「原因追求」と「発生源対策」、そして「継続」の徹底が大きな課題となっています。

品質向上を早期に実現するための処方箋

 品質向上のためには、標準や基準を正しく設定し、それを遵守する(させる)ことしかありません。これは日本であろうがタイであろうが共通の取組みです。しかし、現場作業者のスキルやマインドを、日本の製造現場と同じように捉えてはいけません。これは自社だけではなくサプライヤーも含めてもということになります。

 このような環境下で良い品質を実現するためには、サプライヤーとの取引開始前に品質条件が守れるサプライヤーかどうかをしっかりと査定し、取引条件にサプライヤーと合意した品質基準を盛り込んで取引を開始すべきです。もちろん、取引開始後も定期的に品質監査を行い、サプライヤーの品質管理レベルを向上させることが重要です。技術的な改善については自社の技術専門家をサプライヤーに派遣、常駐させることが必要な場合もあります。

 自社の品質管理における注意点は、現場作業者に守るべき標準、基準を伝える努力を怠らないということです。文書は英語のみならず、極力現地の言葉にする、絵や写真などを活用してわかりやすくする、伝えるポイントを絞った簡潔なものにするなど、文書化の工夫が必要です。また、文書化だけではなく、直接口頭で説明し理解してもらう努力をしなければなりません。すでに標準、基準を文書だけではなく、動画の活用や多言語対応を進めている企業も多いと思います。

 このように考えると、タイだから......という特別なことが求められるわけではありませんが、より広く基本を徹底した取組みが求められるということを理解していただけると思います。

 第5回はタイの製造拠点における品質向上について、その課題と処方箋を説明してきました。次回は「生産管理」について、具体的事例を交えて整理していきます。

コンサルタントプロフィール

角田 賢司

角田 賢司

プロセス・デザイン革新センター センター長 チーフ・コンサルタント

1998年 JMAC入社。IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。これまでに自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品など、多くの業種で収益向上の支援を実施してきている。支援テーマは製造部門も対象とした現場の生産性向上、品質向上をはじめとし、調達コストダウンや在庫削減など多岐にわたり、かつ複数のテーマを同時に展開、実行マネジメントの支援を行っている。現在は日本製造業のグローバル化に伴い、日本国内のみならず、日系企業のタイ製造拠点の支援として、生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を現地で実践している。海外製造拠点の支援に際しても単なる個人の指導ではなく、JMACのグローバルネットワークを活用(日本人と現地コンサルタントが連携)した組織的な支援を展開している。
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