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第1回 企業的農業経営が抱える課題をどう解決していくか

2016年6月 1日

 農業は、高齢化により農業就業人口が減少し、農業経営体数は減少傾向にある。TPPによる影響、小売事業者(消費者)ニーズ多様化への対応など、年々厳しい環境へと変化していることが影響していると考えられる。また、労働環境が悪い、収益が安定しない、給料が安いなど、魅力的な産業と認識されていないことも要因と考えられる。

 一方で、農業法人は増加しており、また10ha以上の大規模農家の経営体数は5年前と比較し20%増加している。農業経営は大規模化の傾向にあり、法人化の進展とともに、農業生産者の経営化志向(企業的農業経営志向)は高まっているが、家族経営の延長線から企業的農業経営に移行し、多くの課題に直面している農業生産者は多い。

 家族経営では利益は家族の幸せに直接的につながるが、企業的経営では利益は会社のもので、社員は直接的な恩恵を感じにくいため、動機づけにつながりにくいことが多い。結果として、「改善しても、やらなくても同じ」「やるだけ損、やらないほうが得」の思考に陥る社員も多く、組織全体での改善活動や新たなチャレンジへの取組みが難しい。

 また、家族では暗黙の了解で意思疎通できていたことが、経営の大規模化により従業員数が増加するとそれが困難になる。簡単なホウ・レン・ソウができていないため、収益に多大な影響をもたらすことも少なくない。

 社員が問題を問題として気づけるか? 問題として気づいたことを的確なタイミングで報告してくれるか? が重要となり、そのための仕組みや組織風土を構築することが課題となっている。

 農業は、同じ条件になることがない天候や圃場環境の中で、日々刻々と変化する農作物の状態、多様化する需要ニーズと変動する量などの課題に対して、家族経営のように経営者・社員が同じ考え方・基準・方法で対応することが難しい。この難題をクリアした農業経営体が勝ち残り、収益を拡大し、成長していく。

 企業的農業経営では、変化・変動に迅速かつ適切に対応するために、優れた戦略・ビジネスモデルを策定し、それを実現するための仕組みを構築し、確実に運用するための人材育成が必要となる。

戦略・ビジネスモデルの策定:顧客視点から価値の創出を設計する

 農業経営における戦略とは、誰に対して何の価値を提供するか?(何を、どのように供給するか?)を決めることであり、実現するためのビジネスモデルを策定することである。

 顧客視点で、どんな農産物をどのような状態で供給することが価値を創出するのか? を決め、競合他社と差別化するためのビジネスプロセスを設計し、経営資源を配分することが重要となる。現場で一生懸命努力して栽培(作業)した農作物(加工品)が顧客に喜ばれる、適切な価格で販売される、これらができないと現場をいくら改善しても徒労に終わることになる。

仕組みの構築:日々の問題点の気づきから改善していく

 戦略・ビジネスモデルを策定しただけでは、現場は思いどおりに動いてくれない。家族経営では少ない言葉でも思いを共有し、議論しながらレベルアップを図ることが可能だが、大規模経営で従業員が増加すると、「阿吽の呼吸」は難しく適切に動いてくれないケースが多い。

 ①作業標準(手順・方法)・判断基準・規格などを決め教育する仕組み、②作業を指示し管理する仕組み、③作業標準を改善しレベルアップを図る仕組み――が必要となる。

 知識や過去の経験・ノウハウを、誰でもできるようにわかりやすくまとめて最適な作業標準を設定し、教育して現場で確実に実行させ、実行できていない場合は作業指導する、日々問題点に気づき、改善することが重要となる(例:品質管理、労働生産性管理、収量・歩留り管理、納期遵守管理など)。

 また、ねらった収益を確保できているか? を確認する収益マネジメントの仕組み、経営資源が無駄遣いされてないか? 不足しないか? を管理する操業管理の仕組みも、あわせて構築すべきである。

 仕組みを運用することで、日々の問題点に気づき、改善が促進されるだけでなく、計画値をもとに将来をシミュレーションして先取りした問題解決をすることもできる。

人材育成:知識教育と実践を組み合わせる

 戦略を実現するための仕組みを構築しても、実際に現場で運用するのは、"人"である。農業は製造業と異なり、いつも同じ環境・条件では生産できないため、現場ではさまざまな変化が発生する。変化を事前に察知して対応することや、変化を迅速に精緻に把握して適正に対応することが重要となる。

 とくに現場をマネジメントする管理者の育成がキーとなる。優秀な作業者=良い管理者には必ずしもならない問題を相談されることが多い。管理者の業務は、現場で作業している人の動機づけ、日々の指示と作業指導、計画と実績の管理、改善推進と多岐にわたり、これまでの経験だけでは対応しきれないことが多い。とくにコミュニケーションとPDCA管理サイクルが苦手なケースが多く、知識教育と実践を組み合わせた人材育成が必要となる。

 良い管理者は、職場全体を巻き込んだ生産性向上活動や品質向上活動を推進し、成果創出に貢献するとともに、活動を通して現場作業者の感度を高め、変革意識・改善意識を醸成することもできる。

 本コラムでは、これらの難題に、いかに対応すべきか? を実践事例をまじえて解説していく。企業的農業経営は難しい課題は多いが、解決できない課題はない、と考えている。改革的な視点とアプローチ、地道な改善活動と創意工夫を組み合わせて対応することにより、変革することは可能である。

 「企業的農業経営の進展が『魅力ある農業』を実現する」を信念に、農業現場を変える支援をこれからも続けていく。

コンサルタントプロフィール

今井 一義

今井 一義

プロダクションデザイン革新センター シニア・コンサルタント

2003年 JMAC入社。製造メーカーのコストダウン、製造現場の生産性向上、人材育成のコンサルティングの経験を活かし、農業経営の改革・改善に取り組んでいる。「企業的農業経営が『魅力ある農業』を実現する」を信念に、製造現場の改革・改善手法を農業分野に展開している。製造現場でのノウハウを活用し、現場の効率化によるトータルコストダウンに加え、栽培~加工~販売のフードチェーン全体の最適化を中心に活動。現在、九州農業成長産業化連携協議会 企画委員 IT部会長として、農業経営改革を推進している。
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