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コンサルタントの視点  「品質とコストの両立」

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 コンサルティングの場面において、クライアントの社内で「品質とコストの両立」は難しいといった声をしばしば耳にする。一般的に相反する要素ではあるが、工夫によりブレイクスルーすることが重要と考える。実際にトップティア企業はブレイクスルーするための打ち手を実行している。

 ジム・コリンズ博士の「ビジョナリー・カンパニー」によると、持続成長する企業は「AND(アンド)の才能」を持つことがわかっている。これは膨大な企業データから裏付けられている。例えば、「品質とコスト」「短期目標の達成と長期目標の達成」など、異なる目的を同時に実現するために行動している企業は持続成長している。他方、「OR」の行動が企業活動の中で横行すると、あまり良い会社にはなっていないといった研究結果が出ている。製造業の場合、品質は前提条件と言えるが、品質の維持・向上を図りながら、相反する何かを獲得することが重要な競争優位の要素であると考える。

 例えば、某大手自動車部品メーカーは、自動車部品の生産ラインの生産スピードをN倍化(N=整数:整数倍化)、1/N化(生産ラインの面積を整数分で縮小)することにより、圧倒的な生産性を実現し、原価面での競争力を得ている。品質面においても、自工程不良はほとんど無く、クレームもほぼゼロである。先にも述べた「品質」と「生産性(コスト)」といった相反する要素を同時に高いレベルで実現している。

 品質とコストを同時に実現できる要因として、ANDの才能以外にも、生産性N倍化・ライン面積1/N化・不良品長期ゼロなど目標の高さがある。高い目標を掲げた場合、既存の施策の延長線上ではなく、施策そのものの発想を変え、現在とは全く異なる生産方法・工法を考える必要がある。また、目標が高ければ、現状とのギャップが大きいため、そのギャップを解消するための将来に向けた課題をブレイクスルーのレベルで考えることになる。この「考える」は「AND」を実行する上で、大変重要である。しかし、品質面、コスト面ともに昨今は深く考え、知恵を産もうとしていない状況をしばしば見かける。

 例えば、生産ラインであれば、カタログに掲載されている設備(=他社も買えるもの)、設備メーカーにお任せ状態の設備を、ある程度の効率でレイアウトしただけでは「知恵」が入っているとは言えない。当然ながらダントツの品質やコスト(生産性)は達成できない。もう少し拡大して考えると、生産や品質に関連するあらゆるシステムについて他社とは異なる知恵が入っていることが、競争力を生む。昨今、生産や品質に関することに知恵を入れることを指導していない上司が散見される。会社は知恵で勝負しているはずであるのに。 「AND」を高いレベルで実現するために、「知恵」を入れることが改めて大切と考える。

コンサルタントプロフィール

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シニア・コンサルタント 石田 秀夫

大手自動車メーカーの生産技術部門の実務を経て、JMACに入社。ものづくり領域(開発・設計~生産技術~生産)のシームレスな改革・改善活動のコンサルティングに長年従事。生産技術リードでものづくりを変え、日本製造業の強みである「造り込み品質」や「ものづくり」の力を引き出し、企業を段違いな競争力にするコンサルティングを推進中である。近年は日本版インダストリー4.0/IoT化によるQCDダントツ化デザインや生産戦略/生産技術戦略、ものづくりグランドデザインを主要テーマにしている。

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