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コンサルタントの視点 「ベテラン依存の未然防止から脱却する」 

JQMQvol.18_201501.pdf

 昨年、あるクライアントで品質不具合の未然防止活動を支援する機会があった。そのクライアントでは、クレームの実に40%近くが設計に起因するものであった。
過去のクレームをひとつひとつ振り返ってみると、「全く想定できなかった問題ではない」と口を揃えるのである。

 では、なぜそのクライアントでは、振り返れば予測できた問題にも関わらずクレームを出してしまったのか。

 未然防止とは、「まだ起きていない問題の発生を予測し、それが起きないように未然に防止すること」(吉村達彦著『トヨタ式未然防止手法GD3』より引用)であるが、最大の理由は、リスクの予測が少数のベテラン有識者の知見に依存していたことであった。製品ライフサイクルが短期化し、設計者の負荷が高まる中で、ベテラン有識者が全ての案件に目を光らせるわけにもいかない。ベテランの目をすり抜ける案件に問題が発生していたのである。一方で、問題が発生するたびに試験項目は追加され、若手担当者は決まった試験を目的や本質を理解せずにこなすだけで手一杯であった。その結果、組織でリスクを議論する風土や場がなくなり、リスク想定の知見はますます属人化する、という負のスパイラルに陥っていた。

 したがって、まずは、ベテランの属人的な知見を、組織として活用できる状態にし、組織全体のリスク想定力を高めることが必要であった。そのために、ベテランにおけるリスク検討の視点を抽出し、具体的にどのような見方でリスクを検討すればよいのか、という評価項目や評価範囲を明確化した。例えば、原料の物性や材料の材質固有の脆弱点やストレスによる変質・変化リスク、他パーツとの篏合といった組合せリスク、量産段階での各種ばらつきに対するリスク、輸送・保管・使用環境面で発生するリスク、これらをひとつひとつ紐解き、リスク検討視点として定義した。

 このリスク検討視点を用いて強制発想することで、ベテラン以外の担当者でもヌケのない効果的なリスク想定を効率的に実施できるようになった。また、リスク検討を不具合の発生しやすい「設計の変更点・変化点」に集中させることで、より焦点を明確にしたレビューが実施できるようになり、リスクへの対処方法が明確になった。

 未然防止活動は、担当者にとっての負担感から敬遠されがちであったり、形骸化するケースを目にする。確かに、本事例でも、当初、検討に充てる負荷は増加した。しかし、活動の成果が表れ、発生問題が減少すると、事後のクレーム調査・検討に充てる工数が減少し、設計部門の総工数は減少した。空いた工数を未然防止活動に投入し、結果、発生問題の更なる減少につながる、という好循環が生まれたのである。

 未然防止の出発点は「リスクを想定すること」である。

リスクの想定を個人の経験と勘に頼るのではなく、組織全体の知見として高めていくことが必要であると考える。

コンサルタントプロフィール

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コンサルタント 神山 洋輔

千葉大学法経学部卒業後、2008年にJMAC入社。国内製造メーカーにおける生産戦略立案から現場改善・成果創出、工場建設支援まで、一貫したコンサルティングを行っている。
製造現場のオペレーションに踏み込んだ品質不具合改善をはじめ、未然防止・再発防止システム構築など、設計開発、生産、調達、品質保証との連携プロジェクトに多くの参画実績がある。

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