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第7回 マネジメント・ツールとしての目標管理制度

 近年、目標管理制度が評価制度と連動して活用されている。環境変化の激しい中では今までの仕事の内容・やり方では通じなくなり、一人ひとりが、期の節目で立ち止まりながら、やるべきことを考えて仕事をしていくことが求められているからであろう。

 こうした中、実態としては、期初の目標設定や期末の評価のときだけ設定した目標が話題に上るという、形だけの仕組みになっていることもある。目標管理制度は目標による管理の仕組み、つまり目標をマネジメント・ツールとして活用する仕組みであり、目標(とくに達成水準)を監視するだけの仕組みではない。
 本コラムでは、目標管理制度をいかにマネジメントに活用するかを改めて考えてみたい。

評価のためだけでなく、PDCAサイクルを回すためのツール

 目標管理制度は、期単位にPDCAサイクルを回すためのツールとなる仕組みである。制度運用に当たり、目標設定の重要性はよく言われることである。
 期初に目標を設定して仕事を進めることは、効果的・効率的に仕事を進めるための出発点となる。実際には、とくに「どこまで」という達成水準を設定すると、「よし、これで目標設定は終わった」となることもあるが、達成水準の設定は、仕事を進めるうえでの第一歩に過ぎない。「どこまで」を設定することにより、そこに向けて「どのように」すればよいかを組み立てることができる。その「どのように」の部分は各自が日常取り組む業務であり、上司としてはマネジメントの対象とすべき内容になるのである(下図)。

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 形だけの運用の場合、「どこまで」は評価基準という認識が強く、それゆえ評価のときに「どこまでできたか」ということだけに着眼して済ませている。目標管理制度の期間(半年ないし1年間)の中で、期初と期末に設定した目標が話題になるだけになってしまうのである。

 なお、設定した目標(とくに達成水準)が評価基準となるという意識が強くなると、「評価しやすい目標であること」が大事であるという認識になり、典型的には定量的に表現するということ必要以上に意識が働きがちになる。仕事の成果は定量的に示せるものと示せないものがあり、「定量的に表現しなければ」ということに意識が行き過ぎると、文字面だけは数量表現されているものの、本来仕事として求めることとは異なる内容になっていることも多い。評価しやすい目標が仕事として意味があるかどうかは別の話で、むしろ仕事として意味のある内容とすることを優先しなければならない。

目標設定のマネジメントへの活用

 上司から見て、期初の目標設定時の1つのアウトプットは、部下の目標を確定し、共有することである。ただそのことだけでなく、今期の部下一人ひとりに対してどのようなマネジメントをすればよいのかを計画する場面にもなる。上司の役割として、部下一人ひとりと向き合い、目標を共有する機会を、職場・部下一人ひとりに対する日常のマネジメントに活用するという取組み姿勢が求められるのである。

 「目標管理制度などなくてもマネジメントをしている」と言う管理職の方もいる。もちろん、実際に実践している方もいるし、マネジメントは本来この制度がなくても行うべきことである。ただし、昨今のように上司も部下もお互いに忙しい中で、組織体制によっては多くの人数の部下を抱えている方や、部下とは離れた場所で仕事をしている方もいる。部下一人ひとりとコミュニケーションを取りながらマネジメントをするように、と言われても実際には「忙しくてできないよ」という声も耳にする。そのような中で、うまくこの仕組みを使ってほしいのである。

 確かに日常の中で部下一人ひとりを丁寧に見続けるというのはむずかしい。だからこそ、この部下は今期どのあたりを重点的にマネジメントすればよいか、いつごろが仕事のヤマ(ピーク、むずかしいところ、悩みそうなところ、など)なのか、それを踏まえて上司としてどのような支援・指導が必要であるのか、といったことをあらかじめ想定しておく必要がある。

 経験のある部下であれば、ある程度任せておいて(声をかけなくても)大丈夫、あるいはまだ慣れていない仕事を担当する部下であれば、仕事の節目節目で確認する場を設ける、といったことを、目標設定の段階で組み立ててみるのである。

 昨期までの仕事ぶり(評価結果など)を踏まえ、「今期の重点は何か」「任せて進められる部分はどこか」「むずかしそうなところ・悩みそうなところはどこか」などを検討し、さらに前期までの部下との日常のコミュニケーションの頻度やタイミングなどを振り返り、「今期はどのような接し方をするか」なども検討するのである。つまり、部下の目標設定に合わせて、上司自身のマネジメント行動を計画するのである(下図)。

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 こうした計画により、部下一人ひとりの目標を検討しながら、会社・部門方針の理解・浸透度合いや職場での役割分担のあり方も確認でき、改めて部下一人ひとりにやってほしいことを伝え、共有する機会も得られる。
 もちろん、そもそも日頃から接することが少ない部下については、制度上の面談の機会を活用し、じっくり話し合うこともできる。頻繁に接する部下であっても、日常の中では仕事の内容についての話になり、部下の気持ちまで確認する余裕がないこともある。「ここまでできた」ということが、部下によっては「予定どおり、順調」なことであったり、「やっとの思いでできた」あるいは「この仕事のおかげで成長を実感できた」という気持ちだったりすることがある。その気持ちの部分を理解しておくことが、個々のマネジメントの仕方を模索する際にヒントになる。そこまで話すことは日常ではなかなかできないので、期初の目標設定や期末の達成度確認の面談の中で、関心を持って把握することも大事なことである。

 このように、目標管理制度を単に評価のための仕組みとせず、管理職自身のマネジメント・ツールとして活用してほしいものである。

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