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第51回 事業モデル発想の着眼点を身につける

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、収益逓増モデルを実現する事業モデル発想の着眼点を、事例をまじえてご紹介します。

収益逓増モデルを目指す

事業モデルとは何かについて、「利益が還元される事業の考え方と仕組み」と解釈して、その内容を前回ご説明しました。「利益が還元されること」に焦点をあてると、事業モデルの基本は「収益逓増モデル」を実現することになります。

収益逓増モデルの代表的な形は、ソフト価値の提供によって継続的に利益を確保する事業モデルです。ブランドや技術特許・独自の製造方法などのノウハウによって、売れば売るほど収益が継続的に上がるライセンス収益モデルです。たとえば、ファッション業界のライセンスブランド提供やIT業界のパッケージ販売による収益モデルがあります。

また、ハード価値では利益が上がらないが、サービスで継続的に利益を上げるサービス収益モデルもあります。エレベーターやエスカレーターの業界は保守サービス、携帯電話の事業は通信サービスで、それぞれ継続的利益を上げていることは良く知られた例でしょう。

収益逓増モデルにはもう一つの形があります。事業の仕組みである事業システムを改革して収益が出るようにすることです。このモデルは、事業戦略を具体化して事業オペレーションの土台となる事業システムを対象に、顧客起点の事業プロセスを統合改革して利益を上げることが大きな特色です。たとえば、小売業界では、商品の企画開発から生産・物流を経て小売販売する垂直統合型の事業モデルが高い収益を収めることで知られています。在庫過多や在庫切れによる販売機会損失のリスクを、店頭起点のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)によって最適化する収益モデルと言えます。

自動車業界の事業モデルとは

自動車業界は、関連企業が多く、裾野の広い産業です。日本を代表する産業ですが、どんな事業モデルかを収益逓増モデルの観点からご説明します。

■サービス収益モデル

日本の自動車業界は、車を持つことが顧客のステータスであった高度成長時代には、ハード価値によって成長と利益を上げることができました。その後、車の普及率も上昇し競争が激化すると、値引き競争などにより新車販売の利益も薄くなりました。
しかし、車の利用は、様々なサービスを必要とすることもあり、顧客にそれらのサービスを提供して継続的に利益を生むサービス収益モデルに力を入れました。次のような顧客サービスが知られていますが、耐久消費財や産業機械の顧客サービスモデルとして普及しています。

   ・車の下取りサービス
   ・下取り車の中古販売市場の取り次ぎサービス
   ・定期的な点検と修理のサービス
   ・車の損害保険の取り次ぎサービス
   ・車の割賦販売による金融サービス
   ・関連商品の販売サービスなど

■事業システム改革による収益逓増モデル

自動車業界は、事業システムの改革によって収益が出るようにする収益逓増モデルにも取組んできました。車の売り方とつくり方の面で事業システムを改革しています。

車の販売と言えば、ディーラーの訪問販売が中心でした。顧客先に訪問し、車の使用価値を訴えるプッシュ販売です。その後、顧客の買替え経験が増し、ディーラーの店舗に顧客が足を運んで、顧客が自分で車を選択するようになりました。店頭販売による売り方であるプル販売に変革しました。店頭販売は、販売の効率化にも繋がり、現在では中心的な販売方法となっていますが、セールス部門やサービス部門の一人ひとりの意識改革が不可欠であることに留意する必要があります。今後は、インターネットを通じてのネット販売や電気自動車の普及に伴う家電量販店による販売のように、新しい販売形態が出てくる可能性もあります。

車の生産は、標準仕様車に顧客の要望オプションを加えて受注生産するモデルが基本です。部品在庫をもたないトヨタのジャストインタイム生産方式が有名ですが、現在は、各社ともグローバルレベルでモノづくりに取組んでいます。

大きな取組みの一つが、グローバルでの新車開発や海外工場での量産立ち上げを可能とするために、統合的な部品表システムを活用した開発・設計や購買のプロセス改革です。もう一つの大きな取組みが、グローバルSCMです。材料・部品の調達から、加工・組立、物流の事業オペレーションをグローバルで全体最適化するものです。いずれの取組みも、顧客は目にすることはできませんが、ITを有効活用して利益を継続的に上げるシステムが基盤となっていることに留意することが大切です。

事業モデル発想の着眼点

前述のとおり、事業モデルを「利益が還元される事業の考え方と仕組み」と解釈し、「収益逓増モデル」を実現する事業モデルを発想することが基本となります。「収益逓増モデル」を実現するためには、ソフト価値の付加による継続収益の獲得と事業システム改革による収益改革の2つがあることをご紹介しました。

次に、後者の事業システム改革による収益改革は、顧客起点で事業プロセスを統合改革することを意味します。製造業を想定した場合、次の5つの視点から事業モデルを発想することが必要です。(下図参照)

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1.開発・設計・購買モデルのあり方
  ECM(エンジニアリング・チェーン・ マネジメント)の仕組みと運用を改革すること

2.購買・生産・物流モデルのあり方
  SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の仕組みと運用を改革すること

3.販売チャネルモデルのあり方
  DCM(デマンド・チェーン・マネジメント)の仕組みと運用を改革すること

4.顧客サービスモデルのあり方
  CRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)の仕組みと運用を改革すること

5.キャッシュフローモデルのあり方
  CFM(キャッシュ・フロー・マネジメント)の仕組みと運用を改革すること

さらに、事業システムの改革は、ITの有効活用によって利益の出る事業システムを基盤とすることを発想しておくことが重要と言えます。



今回で、事業戦略に関連する技は終了します。
次回からは、事業戦略を具体化する顧客起点で事業プロセスを統合改革する「事業システム改革」をご紹介します。

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