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第59回 「キープロセス(1):営業第一線を変える その1 ~営業活動成果を上げるには~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

営業第一線で見られる課題とは

コンサルティング活動を通じ多くの企業を見ていると、営業第一線(顧客に最も近いところにいる営業マンや営業マネージャーなど)の活動に共通する特徴が4つあります。

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一つ目の特徴は、ここ数年来、需要の落ち込みや競争激化に伴い、自社商品・サービスを拡販していく上で重要な市場や顧客との接点量が減少しているということです。 特に、予算を達成する上で優先的に対応すべき市場や顧客への接点量が減っているのです。 その背景には、労働時間の減少や取扱商品の増加に伴う付帯業務量の増大、メールなど通信による顧客との情報交換機会の増加などによって、顧客と直接対応する時間が減少しているようです。 顧客である病・医院側が、診療時間内のメーカーMRの訪問に制約をかけている医薬品業界などもあります。

SFA(セールス・フォース・オートメーション)化により業務の効率化に取り組んでいるのですが、現実は、思うような効果が現れている企業は少なく、むしろ、業務量が増えているのです。 また、顧客の要求レベルの高まりに応えるための提案資料づくりで生じる負荷増大も要因の一つになっています。 コンサルティング実施企業を例にとると、営業拠点であっても営業マンであっても、顧客への直接接点量が多い方が、売上成果に結びつく確率は高いという結果が出ています。

二つ目は、目標(売上予算など)と実績の差が大きくなっている点です。 多くの企業は、過去の実績をベースに前年比アップの予算立案をしているのですが、市場の停滞により思うような需要拡大が望めず、当初予案とはかけ離れた実績になっているのです。 営業側からは、「売れる商品を・・・」という声が上がるのですが、モノ余りの市場では、他社に差別的優位性のある商品を開発するのは簡単ではありません。 そのため、商品力に頼らず、自社の売上を伸ばすには、営業活動のやり方を工夫することで他社市場を奪取するか、新しい市場を開拓していくしかないのです。 しかし、目標の立て方に問題があるケース、目標達成のシナリオ策定に問題があるケース、進捗プロセス管理に問題があるケースなど・・・有効な目標達成プロセスを確立している企業は多くありません。

三つ目は、顧客への提案力が弱く、なかなか成果が出ないことです。 営業マンの提案活動は、数打てば当たる式の活動で、実質的に自社商品の売り込みスタイルから脱却できていません。 提案すべき顧客を明確にせず、顧客の実態を把握せず、小手先の提案活動を行っているので成果があがらない、提案後のフォローもできていないなど・・・様々なケースが見受けられます。

四つ目は、以上3つの結果として攻略市場に対して自社商品浸透力が低下しているということです。 競争が激しくなってきている中、営業マンは、顧客との商談の中で自社商品の価値を訴求しきれず、価格交渉に終始しているケースが非常に多くあるようです。 攻略顧客に自社商品の認知訴求がうまくいかない、初期導入できたとしても、その後定着できず、数か月後には市場から撤退させられている商品が非常に多いのです。

営業活動の有効率を高めるには

企業を代表して、顧客に自社商品やサービスを導入・浸透させる役割を担う営業第一線の活動成果をあげるためには、何が必要なのでしょうか。 営業マンの活動成果度合いを「営業活動有効率」と定義づけると、営業活動有効率を高めるには、3つの要素が関係しています。

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「行くべき先へ行く」「会うべき人に会う」「やるべきことをやる」この3つが相互作用し、活動成果が現れます。 「行くべき先」とは、会社にとって現在の業績だけでなく将来の業績を確保するために、営業活動の優先対象先とする顧客です。 現在の業績を確保するための顧客とだけ接点を持っていたのでは、業績先細りの可能性があるため、自社が弱い顧客や自社ビジネス需要拡大の可能性が高い顧客などをターゲットに設定し、計画的に攻略活動を行うことが必要です。 しかし、多くの営業マンは、現在の業績確保先となっている顧客への対応を優先し、自社が弱い顧客や新規開拓先へのアプローチが後回しになっているのです。 営業マンの立場で考えると、このような顧客と接点を持つことは、(まともに相手にしてくれないのではないか、相手の懐に入り込む切り口が見つからないなど)心理的にハードルが高く、どうしても現在の業績確保先優先の活動になってしまうのです。

「会うべき人」とは、自社商品やサービスの導入(購入)決定に影響を与えるキーパーソンのことです。 特に、法人対象のビジネスでは、企画立案から購入決定までのプロセスが長く、各プロセスにわたり複数部門の役職者やスタッフがキーパーソンとして関与するケースが多いのです。 このような意思決定構造を的確に把握し、自社の関係者を巻き込み、接点を持つことが、営業マンの重要な役割になります。 顧客を訪問しても、購入プロセスに応じ、タイムリーにキーパーソンと会う機会を作らなければ、成果にはつながらないのです。

営業マンの大きな役割は、自社商品やサービスを顧客に購入してもらうことです。 様々な商談プロセスの機会をとらえ、受注に向けたクロージングを行うことは大事ですが、顧客との取引状況や商談のプロセスに応じて、「やるべきこと」は、変わります。 顧客と取引関係が希薄な場合は、自社商品やサービスのPR紹介をしながら相手のことを知る、すなわち、情報を把握する活動が重要です。 どのようなプロセスで購入決定がされるのか、プロセスに関係する人は誰か、競合他社はどのようなアプローチをしているか・・・・など、やるべきことを的確に決め、実践することが重要です。

しかし、多くの企業では、「行くべき先」「会うべき人」「やるべきこと」それぞれについて、基準が曖昧なままに、営業マンまかせの活動になっています。 そして、(受注)売上という結果だけを管理しているのです。 営業活動成果をあげるためには、そのプロセスを明確にし、強化すべきプロセスに焦点を当て、マネジメントしていくことが重要です。

営業体質を変える4つのキープロセス

それでは、営業活動成果をあげるために、どのような視点でプロセス管理をすればよいのでしょうか。 以下の4つの視点でプロセスを明確にすることから始めます。

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1.営業資源活用力
まず、営業マンの限られた時間を活動成果につなげるために、営業マンの時間の使い方に着眼します。 どのような市場・顧客に重点投入すべきか、どういう業務に重点投入すべきか、業務の品質をどう上げるかです。

2.目標達成力
二つ目は、目標達成のプロセスです。 的確な目標立案を行い、顧客キーパーソンと合意を得る、進捗管理と対策を上手く行うことができているかです。

3.提案力
三つ目は、提案成果を上げるプロセスです。 顧客を説得するためには、顧客の顧客を把握することが重要です。 顧客以上に顧客の対象顧客をつかむことです。 それに基づき顧客キーパーソンと合意形成を行うプロセスがあります。 更に、提案内容を実施し、成果と課題を掘り下げるプロセスがあります。

4.商品浸透力
最後に、(自社)商品・サービスの浸透を図るプロセスです。 流通を上手く巻き込めているのか、店頭に並べるなど買われる状態ができているのか、最終ユーザーに対する的確な訴求が行われているのかなどです。

上記のプロセスから営業活動の現状を棚卸し、課題があるプロセスに焦点を当て、そこを徹底的に掘り下げていきます。 次回以降、4つのプロセスごとに、どのような視点でプロセス強化を図るかについて掘り下げたいと思います。

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